056 招かざる来訪者
今日は短め
―ドゥキューン・・・
耳を塞いでも鼓膜を大音量で揺さぶる爆音が、付近の静寂を吹き飛ばす。空へ撃ち放ったサヤーニャお手製の刻印だ。
「さて、敵襲よ。篝火の準備はおわり。戦いの太鼓も鳴らした。後はバディ、あなたの遠吠えで敵を吃驚させちゃって。」
活き活きと伝える戦乙女の凛とした言葉を聞くと、相棒は馬車の上に飛び上がり、これでもかと言う大声で吼えた。
―アォーーーーーーーォーーーーーーーーーン・・・
いつもは甘えてくる可愛い毛玉なのだが、今の相棒はとても凛々しい。こんな時に不謹慎だが、下から焚き火に照らされた相棒のシルエットは、冒険譚に出てくる狼のそれと相違無かった。
相棒の咆哮に襲撃者の動きは固まった。原始の恐怖心を呼び起こす、絶対強者の咆哮は普段側にいる俺でも多少ビビる。
「無駄な抵抗は止めて出てこい。こっちはお前たちを包囲している。」
「この人数差に勝てると思うなよ。」
咆哮の衝撃から回復したのか、遠くから好き勝手な声が聞こえる。
「人質を解放するなら、命までは奪わないぞ。」
あれ、何か今・・・?
「そこの犯罪者! 聞こえているのか!?」
犯罪者って・・・あれ?
「なぁ、サヤーニャ。」
「ん? なぁに?」
「あいつら、僕らに犯罪者って言ってないか?」
「言ってるみたいね。」
襲撃をかけて、俺達を犯罪者呼ばわりする。人質を解放しろと言う。
「何か意味が分からないんだが。」
「せっかくの盛り上がりに水を差された気分ね。無粋な襲撃者だわ。」
2人で話していると、襲撃者は散会した。いわゆる鶴翼の陣を作り、僕らを包囲するつもりだろう。
「何を持って、私達を襲撃した!? その理由如何では反撃も辞さないわよ。」
戦乙女は先程までの活き活きとした声と逆に、心底面倒くさそうな声で叫んだ。
襲撃者のリーダーも仲間を呼んで何か話し合いをしている。
もしやこれって・・・
「今からそっちへ行く。念のため武器は持つが話し合いが目的だ。襲われない限り攻撃の意思は無い。良いか!?」
襲撃者のリーダーがこっちへ叫ぶ。
「分かった。私もそちらへ向かう。仲間に手を出したら、お前達全員の命は無い物と思え。」
そう返すと、俺の方を向き
「そんなわけだから、ちょっと行ってくるわね。」
そう告げると、片手に山刀を持ち、散歩する方へ襲撃者の方へと歩いて行った。




