046 護衛の過去
老夫婦達とは「また何処かで会いましょう」と別れ、ほろ酔い気分で温泉をでた。美味しい葡萄酒と料理でお腹いっぱいだ。
ペットの湯に相棒を迎えに行くと、他の動物達は遠慮がちに隅っこに居るのに本人は、ど真ん中を広々と占拠していた。普通の犬は自分の倍以上の大きさの犬に怯えるのか・・・。鉱山を出てからの新しい発見だ。
宿に戻るとサヤーニャにお客さんが着ていた。
「よっ! サヤーニャ。久しぶり。」
「あら、マガズィーン、お久しぶり。」
サヤーニャも挨拶すると、2人で世間話を始めた。10分ほど放置され相棒と遊んでいると、「あぁ、そうだ。」と俺の紹介が始まった。
「この子は今の護衛対象で、ダーシャ君。護衛期間中は私の弟子でもあるのよ。」
色々習っているので生徒ではあるが、まだ彼女を師とは仰いでいないのだが。
「そうか。ダーシャ君よろしくね。サヤーニャの行動に振り回されてると思うけど、生きていく上では大事なスキルを教えてくれるから、我慢して習うと良いよ。」
また、長話になるかと思っていたら、受付のお姉さんが「コホン」と咳払いをした。
「マガズィーンさん。久しぶりの再会で嬉しいのは分かりますが、入口を封鎖されると業務に影響が出るのですが。」
外には宿に入ろうとしている人が、入口の2人を邪魔そうに見ていた。俺は相棒と外にいたし、最近ずっと野宿で慣れてるから気にしないんだけどね。
「おぉっと、ごめんよ、レイラ。俺とした事が商売の邪魔をしてしまった。お詫びに今度美味しい干し肉をもってくるさ。」
「じゃぁ、部屋に上がりましょう。ダーシャ君もいつまでも外に居ないで、部屋に帰りましょう。」
誰のせいで外に居たかを考えて欲しいが、突っ込みを入れると話が長くなりそうだったのでおとなしく着いて行った。
「改めて自己紹介をしよう。俺の名前はマガズィーン。この村で万屋をしている。ココに来た目的は、村長からサヤーニャが俺を呼んでいると聞いてやってきたんだ。」
なるほど、彼が万屋か。燻製や毛皮の査定が目的であったと。
「さらに言うなら、昔はそこのサヤーニャとパーティーを組んで世界各地を旅してまわっていた。元Aランクの冒険者だ。」
遠い過去を思い出しながら、万屋はサヤーニャとの出会いを教えてくれた。
まだ、駆け出しの頃に既に森で狩りをしていると、灰色熊に遭遇し戦闘になったらしい。当然駆け出しが勝てるわけがなく、あわや死ぬかと思った時に、当時すでにSランクのサヤーニャが通りかかり助けてくれたそうな。森での狩りの仕方、獲物の加工手順、野草やキノコの種類、交渉の仕方、ダンジョンの潜り方など、万屋には、そのすべてが生きる手段であり、文字通りお金では買えない経験であった。
世界中を大体回ったころには、万屋の冒険者ランクもAまで上がり何となく立ち寄った彼の故郷で、サヤーニャの活躍はまだまだ続いた。
足湯を提案し、構想・製作して、旅人が気軽に使える施設を作った。自然にあふれ出る蒸気をもったいないと、蒸しかまどを作って、村中に普及させた。なんでもこの村の4割の家に標準設置されており、立地的に蒸しかまどが作れない家の為に、共用の蒸しかまどが何箇所か設置されているらしい。
更には、村が裕福になり、立ち寄った貴族が馬鹿丸出しにこの村を隷属化しようとした時は武力で対抗し、1対1000の不利な戦いを、鼻歌交じりにこなしたらしい。相変わらずの化け物っぷりだ。
お蔭で、今この村は、知る人ぞ知る保養施設として領地の内外を問わず、さまざまな人が湯治にきて笑顔で帰って行くらしい。
サヤーニャは自分の活躍がいやだったらしく、その功績を全て万屋に押し付け村を後にしたらしい。それから5年ぶりの出現で、万屋にしてみれば恩人の登場である。気持ちの高ぶりを抑えれないのも仕方がないと思う。
「じゃぁ、さっそくこれの査定をしてね。」
万屋の気持ちにまったく気が付いていないのか、灰色熊の燻製とキツネの燻製、それに灰色熊の毛皮を荷物から出すと、笑顔で告げた。
「昔のよしみで高く買ってね。」
俺が見た中で一番輝いてる笑顔だった。
今日は休日です。
娘の学校行事などする事がいっぱい・・・・。
ストック作れるといいな。




