045 地獄の料理
今日を乗り越えたら連休・・・。
今度こそストック作りたい。
老夫婦に挨拶してコバルトブルーの湯に浸かると、これまでの疲れが吹き飛ぶように気持ちがいい。ひと肌より熱めの湯が肌を刺激して、湯に身を任せるとそのまま溶けてしまいそうだ。
サヤーニャも湯に浸かり、ただでさえ薄い湯浴着が透けそうになっている。あまりあちらを見ないように気をつけないと、後で何を言われるか分かったものじゃない。
「そうかい、鉱山からきたのかね。」
老夫婦とサヤーニャは3人で話に花を咲かせている。
「丁度馬車が無かったから、1週間歩き通しよ。」
旅の過程でキツネや灰色熊を倒した事。それを燻製にした事。なめし皮を作った事。水辺にお風呂を作ったことなど楽しかった事を身振り手振り混ぜながら話している。
「それは大変だったね。まぁ湯にも浸かって、これでも飲んで旅の疲れを癒すといいよ。」
そう言うと、浮かべていたタライから、敷き詰められた氷でよく冷えた瓶を取り出し、カップに注いだ。俺もお呼ばれしてご相伴にあずかった。
「頂きます。」
サヤーニャに目で合図をすると、2人で同時に口に入れた。
「んーーー! 美味しい。」
キンキンに冷えた液体は豊潤なブドウの味がし、湯で火照った体にしみ込んできた。
「わっはっはっは。それは嬉しいね。これは家の畑で作った葡萄酒なんだよ。」
孫を褒められたかの如く上機嫌な老紳士は、「まだ飲みなさい」とお代わりを注いでくれた。
「この辺りにワイナリーってあったかしら」
「いやいや、鍛冶の街の隅っこで細々と趣味で葡萄酒を作ってるんだよ。」
鍛冶の街と言っても、鍛冶だけをしているわけではない。人が生きる以上当然畑もあり、商店もある。老夫婦の恰幅の良さから、地主さんなのだろう。
「それなら通り道ね。近くに行ったら見学にお邪魔してもいいかしら?」
「こんな別嬪さんが来るのは大歓迎だよ。」
「あら、お嬢さん気をつけてね。うちの人の説明はしつこいわよ。」
わっはっはと盛り上がっている。僕は久しぶりの葡萄酒をじっくり味わっている。
「しかし、あんたらの体つきを見ると、冒険者でいいのかな?」
「はい。私は冒険者です。こっちは、最近私の弟子になったばかりの刻印屋見習いです。」
弟子になった記憶は無いが、父から依頼を受けて僕に技術を教えているのは事実だ。
「まぁ、湯の中では下界のいざこざの持ち込み禁止だ。今だけは無礼講で飲もう。」
4人でグラスを掲げ「乾杯!」と飲みほした。
しばらく飲んでいる内に、「つまみが要るわね」とサヤーニャが入口側のかまどにいった。濡れた湯浴着は体に密着し、綺麗なスタイルを見せつける。俺は目をそらし、老紳士は「眼福眼福」と目で追いかけていた。
先程かまどに突っ込んだ持ち込んだ食材を取りだすと、嬉しそうに戻ってきた。いや、だから色々弾んで目のやり場に困るんだってば。
「お待たせしました。」
かまどから出たのは、何の変哲もないたまごと鶏肉だった。しかし鶏肉はさっきまで生だったのに、今ではしっかり火が通ったかのごとく良い色になっている。
「これは古い文献でみた料理で、昔ココの湯治に着た時に村長と話して作ってもらったんだけどね。」
ニンマリと笑いながら、鳥肉を俺たちに配ってくれた。
「『地獄蒸し鳥』って名前の料理なの。そしてたまごは『地獄蒸したまご』。何で地獄っていうかは、その昔東の島国の日本に温泉埋蔵量世界一と言わしめた別府って街があったらしいの。そこは色んな種類のお湯があって、真っ赤なお湯や、ぐつぐつ煮たぎったお湯が湧いたり、数十分に1度噴き出す間欠泉まで熱湯だったらしいのよ。」
たまごも配ってくれた。しかし、話が続いているのでまだ食べるわけにはいかない。
「そんな温泉を地獄にたとえて、地獄めぐりって温泉巡りを観光客がしていたそうなの。そこの名物が地獄の蒸気で蒸し上がった「地獄蒸し」なの。さぁ食べましょ。鶏肉はざっくり味つけてるから、たまごも必要だったらお塩を軽く振ってね。」
たまごの殻を剥いて、出てきたのはプルンプルンと揺らすだけで儚げに割れそうな真っ白な白身。齧ると、中から黄身がトロリと姿を見せる。
「これは美味しい。」
老夫婦もこの料理に舌鼓をうつ。
「美味しい葡萄酒にぴったりのお摘みでしょ。」
勝ち誇った顔のサヤーニャは、グラスのお代わりを催促していた。
地獄蒸し料理は大分県は別府市で実際に自分達で作れます。
鉄輪って地域があるのですが、蒸し窯を時間貸ししてくれてて
食材もそこで売っていますが、近くのスーパーで好きなものを買っていくと安くて種類が豊富でした。




