017 高貴なる者の義務
僕は今、生まれてこの方一番の窮地に立たされている。
今立っているのは法廷。理由は『取引失敗による損害賠償』である。
完成させた大型搬送具は成功と同時に失敗であった。港町までの納品は成功した。従来なら3日かかる工程をわずか1日で到達した。
荷重のかかった車輪を引く馬車と違い、空中を滑るように浮かぶ筺体は、馬にしてみれば荷馬車を運ぶというよりも、散歩している感覚だった。
朝一で出発した一行は、行ける所まで行ってみようと、気が付けば夕方には港町についていた。
日程に予定ができた行商班は、納品を済ませると、予定にない仕事を勝手に受けてしまった。片道1日で7日のスケジュールなら、残り5日で自分達の小遣いを稼ごうって魂胆だった。
-彼らは、魔法具がまだ運用試験段階ということを失念していた-
彼らが受けた依頼は、通常なら港町から片道4日かかる山岳地にある小さな集落である。主に豹型の亜人が多く住み、交易品は狩猟で得た肉や毛皮である。
魔法具に問題はなかった。往復分の魔素は注がれていたし、通常より多くの荷物を運べた。バランス制御や空間制御は問題なく動いていた。繋留も予定通り杭を打ち込み、夜間に風に流されないように気をつけていた。
問題は、道中の厳しい細道だった。従来の馬車よりも荷物が載せれる分、筺体が幅も長さも大きくなっている。使い慣れていない彼らだが、車輪がないので大丈夫だろうと信じていた。
しかし、もともとが馬車が離合できないぎりぎりの道幅。すぐ横に落ちれば、崖下まで一直線だ。
それでも一度受けた、それも雇い主に内緒で受けた依頼を取り消すことはできない。こんなことで子爵家の名前に泥を塗ると、その場で首が胴体と永遠に離れてしまう。
そして、車体を1/3程道からはみ出して進んだ一行は、強風にあおられた。必死になって支えようとしたが、風の勢いが強く、預かった荷物は魔法具もろとも谷底へと落としてしまった。
運んでいたのが食料品や日常品であれば、日程的にまだ取り戻せた。しかし、積荷の大半は、村長の家へ運ぶ結納品であり、どれも一級品で同じものを取り戻すのには年単位を必要とした。
そして彼らは、積荷を落としたことを依頼主に告げ、そのまま僕の領地から家族を置いて逃げ出したのだ。
僕は『取引失敗による損害賠償』と『管理責任』を問われ、莫大な借金を背負うか、開発した搬送具の技術提供をして金策するかを求められた。
貴族の矜持をもって領民の今後を考えた僕は、取引先に謝罪を入れ、要求された賠償金を全額支払うと約束した。まだ体験していないが、一生に一度の晴れ舞台を邪魔したのだ。その位するのが当然だ。
両親に頭を下げ、父は何も言わずに僕の提案を受け入れてくれた。
―領主は領民を守るのが勤めである。領民の生活を守るためなら、己の命を惜しむな―
父に借金をする担保で領地を委譲し、返済の為に鉱山奴隷として行くことにした。
親方や工房の皆で苦労して作った技術を、身の補償の為に公開するなど、とてもじゃないができなかった。




