白詰草と機械少女の幼心。
えすけーぷ、とようやく布団を干してふかふかの布団にだいぶしたのはいいですが、その後ぐっすり。
ああ、やっぱり温かい布団は寝心地がいいですなぁ。ごろごろ
「えっ?」
俺は一瞬驚きを隠せなかった。
「だから、春陽さんに賛同できない。人間の感情がないワタシハ指示に従うしか選択はない」
「クロアさん」
人を傷つけるために生まれたのだと彼女は呟いた。
確かな言葉、そして彼女は怒りにも近い静かな口調と配慮で選択肢に対してロボット3原則に違反できない。それは、感情が無いからではない。従う道が正しいと決められているからだ。
従う、でもそれはクロアさんがどうしてそこまでしてもらう理由も聞けないまま。
俺は不確かな結果を曖昧に望んでいたのだろうか?
手段が、その行為が無駄なのではないだろうかと彼女は呟くのだろう。7%の奇跡でもなんでもいい。
「賭けてみませんか? 例え93%失敗しようとも」
「春陽さんも、クロウと同じくらい無茶苦茶」
それは承諾という行為の代行に慨嘆したクロアさんは、嘆息にも近いように深く息を吸った。
間違っているなんて言葉をしてしまえば、立証済みで確証の意をもって公言する。
しかし、意外にもクロアさんは、
「ご褒美、アレ買って」
脈絡の無いまま会話が変わり、指さした方向にはアイスクリーム屋。
彼女のご褒美とは精々こんな程度なのかと思いつつも改めて確認。食べたいとすがるように、目を惹くというような瞳と幼心にくすぐる。
それに、アイスクリームなんていうものを同時並行に彼女が要求するとは思えなかったので、
「アイスクリームですよ。それも屋台のアイスですし」
「だめ?」
それは期待されている眼差しと同時にこの暑さを回避するためにと彼女が考案していた理由から、彼女のご褒美とはこの程度なのだろうかとギャフンと言わせられた。
それは、人間くささというよりもなまじ機械にしては随分人間チックだと思わせてしまう。
たった350円の上目遣い。だけど、それで彼女は頼みごとを聞いてくれるらしい。
普通無理難題を頼まれてアイスで了承するとは、考えてみればそれだけ天気が暑いことも頷けてしまのだろうが。推定したように俺は財布の紐を緩める。
「折角なので3段とかにしてみませんか?」
「3段?」
「ええ、3段にしてバニラコーンにアイスをのせることできるみたいですで」
アイスクリーム屋なんて久しぶりで、正直一人では買おうともしなかったのにだから隣にいるはずだった人が居ないとより現実味が薄れているように感じてしまう。
予想通りでもないが、目の前に列は親子とカップルの列。
列に並ぶとクロアさんも意外性があったのは、そんな普段秋月と隣にいる彼女とは正反対なくらいにおどけた表情と比べるようにやはりユーリと似ているというならば、アイスにしても興味を持つのは悪いことじゃない。
列最前列になり、時間も経ったが硬直した顔。
初めてのアイスクリーム屋に、神妙な顔持ちとしたクロアさんが強張って滑る口調よりも、
「す、すすすとろべりーミルフィーユと、chocoとキャラメルチーズケーキ」
それも、口が回らないのはロボットである彼女というよりも、やはりだろうか。
「はい、かしこまりました」
店員にやっと言えたと振り返るクロアさん。
料金を支払いやっとの思いで買えたアイスクリームを頬張る彼女を他所にどうしても、ユーリが頭から離れない。きっとユーリもクロアさんみたいに美味しそうに食べていたに違いないのだから。
ああ、そうか。
まだユーリはアイスなんて食べられていなかった。
「あ……」
落としてしまったアイスが地面に広がり、まるで底になくなってしまう。
失敗したと、だからこそ落ち込む気持ちと頷いてユーリの願いすら叶えられない自分に嫌気。
急に、それが物悲しく狭く視界を縮ませていたのは、
「そういえば“ユーリが夏になったら絶対食べたい”って言っていたような気がする。まだ食べられてないな、」
食べようとしたアイスクリームが思わず離して、愚痴にも近い声色に
「ごめん、春陽さんに無神経だった」
クロアさんが初めてしょぼくれるが、その表情はユーリそっくりだ。
「違う。それは、クロアさんへのご褒美だから」
「アイス、美味しかった。今度、妹に情報共有して美味しさ伝える」
「そうか」
例え、前に進むことが難しいと誰かは言うが後ろばかりを見ていても始まるのは結局過去への執着だ。
ならば、己が進もうとしている道が茨でも進むに値する価値など有無を考える余裕など、そこになかった。
不条理なモラルに縛られて、遠い夢でさえ掴めていない。例え偽りだろうとしても、やるべき事の代価として俺はここにいる。
「あとは、心の準備だけ」
時計の時間夜を指し当たりは暗闇に包まれ迷路に踏み込んだ気分、考え迷えば考える程思い悩むが真夜中のリズムに消えていく想いだけが、見えない何かを求めるように模索。
新都の夜景はあまりにも鮮やかにして、明光とした明かりだけが静止しない日常を描くよう。
電車を乗り継いで、世界貿易機関手前へと到着したのは深夜も近い時間は徒歩も5分とも経たず、到着した俺にとって感慨になるのは深夜のはずなのに街の明かりは消えることがない。
光景した明かりに寸止め出来ない程、目白に照らされた光を否応なしに受けるしかなく。少しの寝不足も、どうやら余裕を持ち込むほど悠長でもなかったし欠伸で背中を伸ばすが緊張と誇張したように入口付近の点灯した明かりが眩しく見える。
街の蛍光燈でも、第一にこの建物自体が街灯の一部といってもいい。決着なのだと俺は踏み込んだ爪先を揃えて、足先だけが軽く浮いていた。
気持ちを整理して俺は足を運んだ先は、貿易センタービル出入口付近で俺を呼ぶ声。
「少し早かった。まだ準備段階」
「手伝います」
知っているというよりも、その声主がなにやら牽引してモノを押してここまでやってきたのだろうか?
彼女の手から奪おうとするのだが、このモノはとてつもない重量級で行く手を拒む。
「重いですね」
「……209kgだから重いという概念で正解」
シートに隠してあったモノを取り外す作業をしているのだが、一体シートに隠蔽までしてあるのだろうかと予測すら引き摺り出したにしては、随分と真新しい。
「中に侵入すること、並大抵の安易な気持ちで攻略できない。大間違い」
「解っています、クロアさん」
胸が千々に乱れる気持ちだけど、俺は飲み込むようにぐっと胸元を掴んでみる。
クロアさんが着々と準備しているのは、隠蔽したものが行き先を決めるのだと狼煙としてシートに手に触れて俺は手伝おうとしたが、車体の重さに振り払われてしまうのだ。
「本来の目的遂行。外壁に駐屯治安警備、特派。攻めるなら撹乱して正面突破」
「正面突破って……?」
俺は手に触れていたシートを思わず離してしまうくらいに生唾を飲み込み、その音だけでも響く。
クロアさんが正面突破とか仰言と秋月に似ているのか、それともクロアさんがムチャぶりを発揮しているのだか予想していないけど、これだと何かのキーを手に握っていたのを俺に見せている。
「意味、理解した?」
「はい、一応ですけど」
しどろもどろに答える俺に対して、クロアさんはやはり平然と安直にも冷静だった。
対して俺は、これを見た瞬間から血の気が引くどころの騒ぎでは済まない。
「Alias、アクセスコードをBに」
ようやくシートが完全に剥がされたところで、全容として明かされたのは1台の新品のバイク。
この車種は以前に雑誌で拝見したことがあるが、同型のタイプだとしても世界に100台未満だろう。真面目に最高位のバイクと同時に自分がそれに乗ってトンデモナイことをするのだと思えば、余計に怖いと感じる。
もうこれ以上驚かないというよりも、これ以上の驚くことの連続なのだ。
「ちょっとまってクロアさん」
「何? 問題ある?」
「いいや、ないですけど。もしかしてこれに乗れということなのですか?」
当たり前だと、ヘルメットを投げつけられ後輪からロックを開所してクロアさんは後輪ブレーキペダルを踏んで重心を保つ。
「問題ない。あるのだとしたら施設に侵入したあとやってもらいたいことがある」
「やってもらいたいこととは、俺にできるのですか?」
「信じている」
そう言って彼女は衝撃防風吸収材としてヘルメットのバイザーを下げ、顎紐で固定されたヘルメットは近未来の試行的な保護能力は十分だろう。
これでも、バイクについての表現とか、全然情景が描かれていないかもしれません。
その場合は想像か、簡単に思い描いたモノがたぶん正しいのでお任せします。
お騒がせすみません。