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第8話 トラップみたいな物があるって先に言ってよ

 ロータスの森の調査から一度街へ戻った俺達は冒険者ギルドへ向かいエミリさんに報告する事にした。


 エミリさんは2階にあるギルドマスターの部屋へと俺達を再び通す。


 ドアをノックすると部屋の中から低い男の声が聴こえてくる。


「入れ」


「失礼します。 『時の絆』の皆様がお戻りになりました」


 エミリさんに続いてギルドマスターの部屋に入ると、今朝と違って執務机には大量の書類の山が出来ていた。


「エミリがここに通したとは、何か調査に進展でもしたのか?」


 革張りしたソファーに座って姉さんが答える。


「はい、まずはこちらを」


と姉さんはズタ袋からゴブリンの死体を取り出した。


「ふむ、ゴブリンの頭に体か……これが?」


「まず私達はロータスの森に入って数刻歩いたのですが、この時点で異様でした」


「異様とは?」


「森の中でしたが、あまりにも静か過ぎました。 数刻程歩きましたが、一向にゴブリンもオークも出会う事はありませんでした」


「ふむ、偶然……にしては可怪しいな」


「はい。 数刻歩いた後、闇雲に歩いては不味いと思い、以前フォレストロードと戦った所まで進んでみたのですが、それでも変わらず魔物と出会う事はありませんでした。 まだ森に入ってすぐなら偶然で片付きますが、さらに奥まで入って一度も出会う事は無いのはあまりにも作為を感じました」


「お前達の索敵に引っかかってないだけではないのだろう?」


「はい、エルの精霊術を使った索敵は常時行ってもらいましたが、何も発見に至りませんでした。 ですよね?」


「はいお姉さま」


「しかも地面をよく観察していたのですが、魔物が歩いた形跡も存在しませんでした」


「ふむ。 っでこのゴブリンは何処で出会ったのだ?」


「さらに奥地に進み、フォレストロードの領域まで進んで見る事にしました。 もちろん三人だけのパーティーですので、危険があればすぐに撤退するつもりでしたが……」


「まさかそこにゴブリンがいたと?」


「はい。 ご存知かと思いますが、フォレストロードの領域では部下であるフォレストウルフが多数巡回しています。 ですので敵対者であるオークやゴブリンも多少足を踏み入れますが、すぐに鎮圧されるという事でゴブリン・オーク・フォレストウルフがお互いにらみ合いを続けながらロータスの森で生息できているというのはこの辺りを拠点にしている冒険者はみな知っている常識だったかと思います。 ですが……」


「そこにいたのはゴブリンだったと?」


「はい。 近くにフォレストウルフの形跡は無く、いたのはゴブリン六体の群れ。 しかも統率までとれていました」


「なんだと? 魔物が統率していたと?」


「はい。 リーダー格と思われるゴブリンを中心として統率をしており、更にゴブリンでは視認できない距離にも関わらず、真っ直ぐ私達の方へ向かってきました。 エルがいなかったら奇襲されていたでしょう」


「不自然だな……。 それでその遺体の一つがこのゴブリンというわけか?」


「はい。 私達もエルの索敵で見つけた事もあり、この娘に弓で先制攻撃をしました。 普通のゴブリンならそこで慌てふためくはずなのですが、すぐに落ち着きを取り戻してエルの方向へと真っ直ぐ走っていきました」


「本当は私が撃った後、慌てふためいてる間にお姉さまとハルで一網打尽にしてもらうと思っていたのですが、予想外の動きをしていて……よくよく思い出すとリーダー格と思われるゴブリンが何か指示みたいな事をしていました」


「なるほど」


「エルに向かっていくゴブリンの群れ見て、このままでは危ないと思い側面から攻撃しました」


「実際に戦ってみてどうだ?」


「ハッキリ申し上げて、普通のゴブリンよりも強いと感じました。 そうよね?」


「うん。 俺はリーダー格のやつと殺りあったけど、冒険者成り立ての頃だったら多分勝てなかった。しかも最初側面から攻撃した時、一体だけ相手が行動する前に殺れたけど、その後すぐ後方に下がって体制を立て直した。 あんなの普通のゴブリンの動きじゃない」


 俺は思い出したように懐に仕舞い込んだ黒い水晶を取り出す。


「それは?」


「リーダー格のゴブリンの心臓付近かな? 体を真っ二つにしたんだけど、その中央にこれがあるのを見つけました」


 ヘクターさんは黒い水晶を手に取って観察している。


「ハルト、いつの間に回収したの?」


「戻ろうとしていた時にチラッとゴブリンの方を見たら光ったのを見つけたから、その時に回収したんだよ」


「ハルト、そういう時は必ず報告しなさい」


「はい……」


 報連相って大事という事だな。


「しかも、これが悪意ある魔道具か何かだった場合、触っただけで危険な物だってあるのよ?」


「え!? でもヘクターさんも触って……」


「小僧が既に素手で触って持ち歩いていただろう? だから危険が無いと思って触ったのだ」


「あ~なるほど……」


 そんなトラップみたいな物まであるのかよ……今後は無闇に触らないようにしよう。


「これは預かっても?」


「あっはい。 大丈夫です」


「報告は以上か?」


「はい、今日はそれで撤退したので」


「そうか、ご苦労だった。 このゴブリンはこちらで調査の為に使わせてもらう。 後はもう一組の報告を待つとする。 ご苦労だった、引き続き調査を頼む。 こちらでも何か進展があれば連絡するとしよう」


 ヘクターさんはこれで会話は終わりという事なのか、書類の山へと手を伸ばした。


「それでは宿へ戻りましょうか」


 報告が終わった俺達はギルドを後にして定住している『ハニーベア』へ戻る事にした。

知らない物を迂闊にもペタペタ触ると予想外の事が起きるもんよ(´・ω・`)



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