第6話 ギルドマスターからの指名依頼
新しい相棒を手にニヤニヤしている俺の顔を見てエルの奴は。
「何ニヤニヤしてるのよ、気持ち悪い」
「うるせぇな。 今日ぐらい別にいいだろ?」
「姉さんは悲しいです」
「姉さんまで!」
他愛も無いささやかな言葉を交わしながら俺たちはとある所に向かっている所である。
「それで今から行く所は冒険者ギルドでいいんだっけ?」
「えぇ、武器も調達できましたし、新生『時の絆』に丁度よいでしょう」
「わぁ~たのしみ♪」
「エルは本当に楽しそうだな」
「当たり前じゃない! お姉さまとの冒険なんだから」
「俺がいるの忘れるんじゃねぇよ」
「はいはい」
「ったく……」
少し賑やかになった俺たち『時の絆』は冒険者ギルドに足を踏み入れる。
何時も通り朝が早いにも関わらず冒険者で賑わっているギルド内は代わり映え何時も通りの日常だと思っていたのだが、今日は少し違った。
普段カウンターにいるはずの美人受付嬢エミリさん。 今日は何故かカウンターの外に出ており、誰かを待ち受けているようだった。
俺達がいるのに気がついたエミリさんは小走りにこちらへ駆け寄ってくる。
「皆さん! 探しましたよ」
探していた? ははぁ、まさかエミリさんは俺に気があるのでは? だがすまない、俺には姉さんという愛してる女性が……。
「『時の絆』の皆様」
あっ俺個人じゃないのね(知ってた)。
「宿に使いを出したのですが、既に外出していたようで……入れ違いにならなくてよかったです」
「エミリさん、俺達に何か用?」
「はい。 ここではアレなので2階のギルマスの部屋へどうぞお越しください」
『どうぞこちらへ』と俺達を案内してくれるエミリさん。 ギルドマスターに呼ばれる様な事は何もしてないはずなのだが……。
ギルドマスターとは、冒険者ギルドの管理をしている偉い人。 各冒険者ギルドに一人在籍している管理者みたいな人だ。 中間管理職みたいな人と言えば伝わるかな?
有名な冒険者や冒険者PTはギルドマスターから指名依頼を受けるらしいのだが、まだまだ下から数えたほうが早い俺達『時の絆』は縁が無いはずなのだ。
階段を上り、廊下を進んで奥の部屋の前へと辿り着く。
エミリさんはドアをコンコンと2度叩く。
「入れ」
と野太い声が聴こえてきた。 この声の人物がおそらくギルドマスターと呼ばれる人物だろう。
「失礼します、エミリです。 『時の絆』の皆様をお呼びしました」
エミリさんに続いて姉さん・俺・エルの順番に入っていく。
入った俺達を品定めするようなキツい目線を向けている。 そんな目線を向けている男はガッシリした体型にマッチョの様にムキムキな筋肉で、視線だけで人を殺せそうな男だった。
ギルドマスターは冒険者を引退した人物から学のある物が推薦されるはずなのだが、どう見ても現役冒険者にしか見えません。
男は俺達に『座れ』と声をかけてきた。
「失礼します」
革張りの高級そうなソファーに座る。 すごくシッカリした作りで現代でも俺はこんなソファーに腰掛けた事は無い。
「マスター、ここに私達『時の絆』を通したという事は何か用がおありで?」
「あぁ、お前達を呼んだのには訳がある。 お前達が相対したフォレストロードがあったな? あれからこちらでも衛兵と協力して調査を進めているが進歩がよくなくてな……」
「もしかして?」
「さすがレティシア・ヴァレンシュタインだ。 察しがいいな」
「ギルドマスター」
「悪い悪い。 改めて自己紹介をするとしよう。 私はヘクター・ギラーミン。 ここでギルドマスターというつまらない仕事を任されている。 気軽にヘクターと呼んでもらって構わない」
「俺は……ハルトです」
「私はエルネスト・ハルヴィです」
「さて、自己紹介も済んだ事で本題なのだが……君達『時の絆』にもフォレストロードの調査に出向いてほしい。 やはり衛兵よりも本職である冒険者の方が気づける所があると思うのだ」
「私達に……ですか?」
「あぁ」
「言っては何ですが、私達はまだ結成して一月も経ってない冒険者パーティーです。 私はまだしも、ハルトもエルもまだ経験が乏しいかと思います。 私としてはまだ指名依頼は時期相応かと思うのですが……」
「お前の言いたい事もわかる。 だがあのフォレストロードと相対して生き残っただけの強さはあると信じている。 まさか虚言だったと言うわけではあるまい?」
「なっ! ヘクt」
文句を言おうと立ち上がろうとしたのだが。
「ハルト! 止めなさい」
「でも……」
「いいから、ここは私に任せなさい」
腑に落ちない気持ちだが、ここは姉さんに任せて素直に座る事にした。
「少し煽られただけでコレとは……確かヴァレンシュタインの弟……だったか? 躾がなっておらんな」
「はい、私の教育不足です。 申し訳ありません」
「――まぁいい、この場は貴族共との会合でもないからこれ以上言わんが……小僧、お前のたった一言や行動で姉の評価が変わる。 姉を想うのなら少しは学べ」
「くっ……わかりました。 もうしわけ……ありません」
滅茶苦茶腹が立つがこのおっさんの言う通りなのだろう。 あそこで俺の感情だけで言い返してたら思う壺だっただろう。 筋肉ダルマの癖して頭がすごい回るじゃねぇか……。
「脱線したな。 話しを戻して単刀直入に言おう。 お前達『時の絆』にロータスの森へ行って何か原因が無いか調査をしてもらいたい。 フォレストウルフやクイーンの動向や異変がないか、少しでも変わった事があれば教えてもらいたいのが今回の依頼内容だ。 勿論報酬はそれなりに弾む」
「しかし、私達だけではあの広い森を調査するには時間が……」
「心配するな。 既にゴブリン共とオーク共の領域には調査隊を出している。 フォレストロードの領域はお前達以外にももう一組別のパーティーを先行して調査に向かわせている。 お前達『時の絆』は奥地辺りまで何か無いか調査に向かってくれればいい。 あと深部には近づくな。 さすがにお前達だけでは危ないから踏み入れなくていい。 それに……」
おっさんはエルの方向に顔を向けて。
「そこのエルフもまだまだ新人だがエルフはエルフだ。 新しくパーティーに入ったのだろう? ヴァレンシュタインとハルトの二人であれば今回の話しは無かったが、三人あれば依頼をこなせると思うのだが……どうだ?」
姉さんは俺とエルに顔を向けてきた。
「構わないよ姉さん。 俺達なら大丈夫だ」
「うん。 私達なら大丈夫だと思う」
姉さんは少し考えていたが答えを決めたのだろう。 ヘクターのおっさんを見て。
「――わかりました。 この依頼引き受けます」
俺達新生『時の絆』最初の仕事はギルドマスターの指名依頼から始まる事となった。
ハルトよ、ニヤニヤするその気持、俺は分かるぞ。
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