冬と春のあいだ
蕎麦屋を出て、静かな雄三通りを駅方面へ歩く。雄三通り中央交差点から北に入ると途端に人通りが増え、賑やかになる。
歩道はなく、路側帯しかない片側1車線の狭い道。賑やかなのに歩道もなく、商店街だけどアーケードではない。バスがたくさん通る。雑多だけど、テレビでよく見る雑多な街とは違う。空が広くて道が狭い。
「蕎麦を食べて、何か福島っぽいことは思いついたかい?」
「道の駅で蕎麦を食べたあの光景を思い出した」
「あれから半年か。時の流れは速いね」
だらだら歩きながら駅に着くと、なぜか北口5番のりばからバスに乗った。最近新しいカラーリングのバスがどっと増えた気がする。バスは茅ヶ崎市民文化会館と中央公園の間を貫き、田舎民には生きがいにすらなる某大型商業施設を横目に走り抜ける。
ここまで広かった道が雄三通りよりも急に狭くなって、またほんの少し広くなった。とにかく茅ヶ崎は道が狭いし、自転車は無秩序。それを注意すると死ねって因縁つけられるらしいし、まあまあヤバい街だってことは、1年近く住んでなんとなくわかってきた。
それでも警察署は他地域と比べて案件が少なく、転勤してきた警察官は落差で『湘南ボケ』を発症するという。
殺人とか、重犯罪は少ないのかもしれない。
「はいとうちゃーく! かーわづざーくらー!」
20分ほど乗り、番場というバス停で下車。道路を渡って強風で砂が巻き上がる畑の間を抜けると、ピンクの濃い桜と菜の花が連なる川べりに着いた。いちごバナナみたいなコントラストがきれい。沙希ちゃんはいつも通り両手を天へ広げた。
「これが河津桜か〜」
六部咲きくらい。
「実は雄三通りの着物屋さんの脇にも咲いてるけどね」
「あれもそうか」
「こんな感じのところ、猪苗代にもあるよね。川があって、高速道路があって」
「小黒川かな。磐越自動車道はこんなループしたりあちこち分岐しない一直線だし割と低いところを通ってるけど」
「確かに湘南バイパスは高いところ通ってるしぐるぐるしてて複雑だね」
沙希ちゃんは遥か高くに聳える迷路のような高速道路を仰ぐ。
花々には主に高齢層や子連れがたかり、私たちは浮いている。
ひゅるり舞い上がるいくつものピンク、ぴよぴよと交信するメジロ。2週間前は雪が積もったこの街には、もう春が訪れている。
「毎年河津桜を見ると、春の予感がするよ」
「春じゃないの?」
「三寒四温の始まりくらい? 寒い日もうちょいあると思う」
「ほへぇ〜」
冬と春のあいだ。茅ヶ崎で迎える最後の初めての季節。これを越えたらいよいよ私も都会人の箔が付くというもの。
こういう考え方が田舎っぺなのかもしれないけど。
何はともあれ、散歩をしているだけで楽曲のアイディアは何も浮かばなかった。




