沙希、冬の日常
オリオン座が瞬く寒い夜、白色の灯りが照らす自室のベッドで寝転んでいた私のもとに残念な報せが舞い込んできた。
陸の箱根駅伝出場が、叶わなかった。
陸の暮らす寮は通話禁止の時間。そのタイミングでのメッセージ。ポジティブな返事はしなかった。ネガティブな返事もしなかった。「そっか、うん、わかった」と返した。
1年次なのでまだ3回チャンスはある。
けれど、最後まで叶わない可能性もある。
もしそうなったら、どうするんだろう。
頑張っても結果が伴わないことは多々ある。
どうか、2年次は出られますように。
私自身も、将来に不安を感じている。
高校時代、本気で練習に取り組んでいた軽音楽部が面倒で入部しなかった。けれどいまは、きっとあの中の誰よりも熱心に音楽活動に取り組んでいる。
スマホの左上が示す22時03分。両親不在、悟は自室で自家発電中だと思う。美人な姉を持つとネタ探しにも苦労するだろう。
誰もいない薄暗いキッチンに出て、マグカップに牛乳を注いで電子レンジで温めた。学校の冬休み期間中は牛乳の消費量が減る。けれど牛さんのお乳は出続ける。だから私はこの季節、普段より多めに乳製品を摂る。フルーツミルクの香りがする夢のような女子、白浜沙希。
「ふ〜ミルクうめ」
冬はホットミルクがうまい。飲むと眠りが深くなる。
ちびちびと2分かけて飲み干し、マグカップを洗って自室に戻りベッドに寝転んだ。そういえばホットミルクを飲む前に歯磨きしちゃったな。
怠惰を悔いて曲をつくろうと躍起になるのもこの時間帯。けれど浮かぶのは明け方4時くらいの眠りが浅くなるころ。夢の中で。
そうじゃないときに浮かぶ曲も多いけれど、そういうときに浮かんだ曲は、神様から世に送り出すように指示されたものだとなんとなく思っている、無宗教の私。
浮かんだもの、降りてきた詩曲をつらつら書き連ねる。メッセージ性を込める詩も、そうでない詩もある。
出来上がった曲たちを、欲している人へ届ける。それがいま抱えている課題の一つ。
生きるって、大変だ。
そう思えるってことは、私はなかなか優秀な人間の可能性があると、自己肯定感を高める。誰も褒めてはくれないから。
入眠。お値段そこそこ自室のベッド。小学3年生のころ、北茅ケ崎駅近くの家具屋さんで買ってもらった。
起床、日の出少し前の6時半。悟の朝食を用意。大きめ梅おにぎりとフルーツの盛り合わせ。
昼前から大学に行って、辻堂駅前のショッピングモールで展開されているイルミネーションをひとり見上げる日没後。何年か前のヒゲダンの曲を聴きたくなる。
単独行動の日は、何ら変わり映えない日常を過ごしている。
30分後、帰宅した私は悟の分を含めた2人前のオムライスをつくって食べさせ、湯浴みをして自室に篭もる。この日、両親の帰宅は遅かった。
これが最近の、私のルーティーン。
自分の道を幸福へつなげるように。
秘かに祈り、今宵も眠る。




