移住者、廻谷巡の忠告
『はいどうもー! 福島県非公認、県外住みVTuber、うつくしまももかでーす!』
秋が深まってきたこのごろ、昼間の里山公園を散歩してきた私、まどかちゃん、つぐピヨ、巡ちゃんは、巡ちゃんの部屋で『うつくしまももかチャンネル』を各々のスマホで視聴中。
「ああー、恥ずい心臓バクバク」
うつくしまももかの中の人、廻谷巡は座卓を囲う私たちに背を向けスマホを持って猫背。
『きょうは嬉しいお知らせと、悲しいお知らせがありまーす。勿体ぶることじゃないのでさっさと言っちゃいますね』
中の人の状況はお構い無しに、収録済の動画は進んでゆく。
『まず嬉しいお知らせ! なんと、我が福島県、観光客数が過去最高記録を更新しましたー! パチパチパチパチー』
「わお、それはめでたい。パチパチパチパチー」
「あっ、ありがとうございます……」
『いやあね、福島県ね、地味だし、都道府県魅力度ランキングも中途半端に低めでやっぱり地味なんですけど、おいしいものたくさんあるんです。移住先の友だちを連れてったら太りそうなくらいモリモリ食べてくれたから、そこには自信がある!』
中の人と絵のギャップよ。それはそうと、また福島県のラーメンとか桃とか、いろいろ食べたいな。
『それで、今度は悲しいお知らせ。現在、県内の至るところにクマが出没しています! 私の実家、けっこう街の中なんですけど近所に出ちゃって、そこも近くに山はない、スーパーとかラーメン屋さんがあるような平坦な土地なんです。
もうね、県内どこに出るかわかんない、マジで。一部では未だにクマは臆病だから近寄らなければ大丈夫だって言われてるけど、それはもう古い。どう見ても人間を襲いに来てる。熊鈴はほぼ効かない。福島県を訪れる際は、福島県じゃなくてもクマが出没する地域に行くときはクルマか公共交通機関を利用して、徒歩、自転車、バイクはなるべく避けてほしいなぁ。個人的なお願いです。ということで、短めなんですけど、福島県をPRしている者として、これだけは伝えなきゃという配信でした。それじゃまたねー、ばいばーい』
うつくしまももかがひらひらひらと手を振って配信動画は終了。動画を見終えたところで私たちは近くの回転寿司店に移動。15時、遅めの昼ごはん。巡ちゃんによるとランチタイムとディナータイムのピークは行列ができるらしいけれど、いまは予約なしですぐ入れた。
テーブル席でタッチパネルを操作して注文したり、湯呑みに粉末とお湯を入れてあがりをつくったりする。
私はまぐろの握り、まどかちゃんはいくら軍艦、つぐピヨはあおさの味噌汁、巡ちゃんはオニオンサーモンを注文。到着を待つ。
「クマの問題は洒落になんないね。私たちが行ったところだと、猪苗代と飯坂に出たんだよね」
これは報道されているので神奈川県民の私も知っている。
「そう、しかもどっちも同じ地域ってだけじゃなくて、歩いた場所のすぐ近く」
「ピンポイントなのか」
少し会話していると、注文した各商品が到着。早いね。うん、まぐろうまい。ほぼ赤字の看板商品。
「そう。あとね、配信でも言ったけど、いまのクマは人間を襲いに来てるから熊鈴はほぼ効かない。茅ヶ崎で会ったとある人が、遭遇しても眼を攻撃すれば勝てるとか言ってたけど、そんなわけないから」
「茅ヶ崎人は正常性バイアスが強いからなぁ。私だってクマ相手にメリケンサックで勝てるとは思ってないよ」
と、いつも飼いヘビに食べられそうになっているまどかちゃんは語る。
「茅ヶ崎は災害が少ないからかな」
つぐピヨが言って、あおさの味噌汁をすすった。
「台風が来てもそんなに被害ないからね、だいたい」
それは茅ヶ崎の良いところ。けれど異常時の心構えがしっかりしていないと、条件が違うほかの地域へ行ったとき、いざ茅ヶ崎にも大災厄が降りかかったとき、かなり痛い目を見るだろう。
「とにかく、クマも災害も甘く見ちゃだめ。これは他所者からの忠告」




