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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
大学1年の秋

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小出川の彼岸花

 夏休みが終わり、もう9月さえ終わろうとしている。朝は少しさらりとして、昼はまだほんのり暑い。どこからかミンミンゼミ、アブラゼミ、ヒグラシ、ツクツクボウシの声が聞こえる。


 足元をちょこまか飛んでは着地するシオカラトンボの翅はだいぶ傷んでいる。それとは対照的に、上空ではウスバキトンボの群れが元気に飛び交っている。


 小さな川沿いの空は広く、雲はぽつりぽつりとファンデーションのよう。


 そして足元には、幾千も連なる曼珠沙華まんじゅしゃげ。付近をタテハチョウがせっせと舞い、アゲハチョウはひらひらと優雅に留まって蜜を吸っている。


 華やかで、賑やかな季節だ。


「自由電子くん、そろそろ疲れてない?」


「はい、まだ大丈夫です」


 僕はいま、まどかさんとともに藤沢市北西部の曼珠沙華が連なる道を歩いている。毎年盛況の『小出川こいでがわ彼岸花まつり』の会場だ。付近のバス停からここまで数キロ歩いてきた。


 藤沢市から茅ヶ崎市を経由して寒川町までの小出川沿い約3キロメートルに亘って連なる赤ときどき白の曼珠沙華。


 いくつかのスポットでは特産品や地場産野菜などを販売している。湘南産の野菜は地元のレストランに卸されるほど高品質で瑞々しい。


 大型車1台分ほどの幅があるアスファルトの道がしばらく続き、茅ヶ崎市に近付くと川の両側に道が分岐して急に狭くなる。足元の感触がやわらかくなった。人がすれ違うにも彼岸花を踏まぬよう、川に転落せぬよう注意せねばならぬ細い畦道だ。こんなに細いのに、曼珠沙華は両サイドに連なっている。対岸も同じ。


 僕が先に歩いて、安全を確認しながら歩く。花や川を眺めたり、空を見上げたりしながら、茅ヶ崎市の柳谷やなぎやとに続く新道橋しんみちはしの前に辿り着いた。


 まどかさんは飛行機雲を見上げている。時間からして、羽田はねだ発、沖縄おきなわ行の便だろう。


 夏至は記憶に新しいが、秋分の日を過ぎ、17時前なのにもう空は白んでいる。


 新道橋を渡り、柳谷の砂利道を辿る。ここにも曼珠沙華が連なり、左にぽつりぽつりと咲くコスモス畑、右は黄金の稲穂がぎっしり詰まっている。


 曼珠沙華の蕾に留まるシオカラトンボは僕らに背を向け、狭小な水路の彼岸に咲く華を見つめている。生物が好きな僕らはしゃがんで彼を見つめたり、高所を飛ぶツバメやタカを見上げ、前を向いた途端に横切ったオニヤンマに驚いたりしながら、ささやかで華やかなひとときを満喫した。

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