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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
なつやすみ

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ジョイフルトレインの旅

「こーおりやまー!」


 電車を降りると沙希ちゃんが駅名標の下で両手を上げて広げ、笑顔で地名を呼称した。


 車両から発する空調の音などで殆ど掻き消されているけれど『キセキ』の発車メロディーが微かに聴こえる。


「次は磐越西ばんえつさい線に乗り換えだよね」


「沙希ちゃんの口から『磐越西線』……!」


「前回来たとき乗ったから覚えてるぞいっ」


 乗り換え列車までまだ少し時間があるため、一旦駅舎の外へ出た。中高層ビルが並ぶ駅前は人通りが多く、ロータリーにはバスやタクシーがぎっしり待機している。


「ほー、けっこう都会だね。おや、高層ビルの中に球体が格納されている」


 駅舎を出て右側の高層ビルの上層部に郡山名物の球体。


「あれはプラネタリウムだよ。いま行ったら西線さいせんの時間に間に合わなくなっちゃうから、帰りに寄ってみようか」


 ということで、左側の家電量販店がメインのビルにテナント入りしているアニメショップで心の栄養を調達し、磐越西線の乗り場へ向かった。


「おや、なんだねこの1両は黄緑、もう1両は水色の列車は」


「きょうはこれに乗って行くよ」


 ホームに待機しているのは通常の電車ではなく、東京(かた)が黄緑ベース、会津若松あいづわかまつ方が水色ベースのジョイフルトレイン、快速『あいづSATONO』。全車指定席の2両編成。今回はネット予約しておいたこれに乗って行く。


 黄緑色の車両に乗って視界に飛び込んできた大きな窓、ゆったりしたテーブル付きの2人用ボックス席。スマホの予約画面で座席番号を確認すると、私たちの席は扉からいちばん近いこの席。ほかに4人ボックス、窓を向いた1人用の席もある。どれも青い革張りのガッツリしたデカい座席。


 私たちの席の反対側には座席がなく、窓辺にきょうの日付が記され、端に黄緑、水色それぞれの車両のイラストがあしらわたプレートが立て掛けられていて、その手前の台には赤べこなどのイラストがあしらわれたプレートが置かれている。


「いいねえ、旅情感がある」


「うん、私も初めて乗ったけど、ゆったりしてるし、今後もチケット取れたらこれで帰りたい」


 やがて列車が走り出し、男性クルーによる列車や沿線についての案内放送が始まった。磐越西線の車掌はたまに訛るけれど、これは天然ではなく敢えて方言を交えているのがわかる。


 街を抜け、窓いっぱいに田園風景が広がってきたころ、女性クルーがやってきて座席番号の確認と車内販売、そして無料の記念撮影を勧められたので、沙希ちゃんがノリノリで応じた。撮影は乗客のスマホを使用。


 撮影してもらった写真を見ると、私は緑の車窓をバックにぎこちない笑顔だった。


 快速という割にはややゆっくりと走り、駅は主要駅のみ停まるスタイル。ブーン、トコトコと、ディーゼルエンジンの音とレールの継ぎ目を通過する音が程よく聴こえてくる。


「いやあ、なんかのんびりしてますなあ。同じ景色なのに前回通ったときと見え方が違う」


 現在通過しているのは山間部の中山峠なかやまとおげ。山を切り崩した斜面をゆき、車窓は深い森や、ときに沢が見える。先ほどのグルーから買ったシャインマスカットサイダーの栓を開け、ふたり揃ってちびちび飲む。冷えた瓶飲料のうまさよ。


「気に入ってもらえて良かったですわ。旅はゆったりがいい」


 ぼんやりと車窓を眺めたり、声は控えめに雑談したり、猪苗代までの時間をゆったり過ごした。

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