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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
なつやすみ

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知名度が上がらない!

「うーむ、おかしい」


 四人で巡ちゃんの家に泊まり込んで起きた朝10時。座卓の前でスマホの画面とにらめっこしている私は己の眼を疑っている。「何が?」と、私から見て右辺にいる、右手で頬杖をつく気怠そうなまどかちゃん。


 正面に巡ちゃん、左辺につぐピヨ。私の背後にあるテレビ台の上には32インチの薄型テレビが設置されていて、2時間ほど情報番組を見ている。みんな早起き。


 座卓のド真ん中にはまどかちゃんが飼っているアオダイショウが蜷局とぐろを巻いて眠っている。ヘビが苦手なつぐピヨも、犬や猫みたいにコミュニケーションが取れるこのヘビには慣れてきた様子。断じて自分から触ろうとはしないけど。


「モデルをやれば認知度が上がってMVの再生数も上がると思ったんだけどなぁ。サッポロ軒がテレビに紹介されたときは客足けっこう増えたじゃん」


 ある日、私たちが移転前のサッポロ軒を訪れると奥の小上がりでお笑い芸人などが出演する番組のロケをしていて、その放送後、サッポロ軒は客足が伸びた。


「私らがバンドやってること、雑誌に書いてなかっただろ」


「そうだった」


 先日、横浜で撮影した写真が掲載された雑誌が2日前に発売し、売れ行きは悪くないらしいが私たちについてはファーストネームしか記載されておらず、良く言えばプライバシーに配慮されているので必然的に知名度向上は難しくなっている。


 ということで翌日に行われた撮影でバンドの紹介をお願いしてみたよ。


 そして2週間後のお盆休み前に発売。前回と同じく巡ちゃんの家の座卓で確認。


「伸びないひょおおおおおお!!」


 ふおおおおおお!!


「落ち着け頭掻きむしってひょっとこヅラしても何も変わらないぞ」


「でも、なんでだろうね」


 上目遣いで顎に人差し指を当てる天然小悪魔つぐピヨ。


「ちょっとは伸びてるんだけどなぁ。現実はニチアサアニメみたいには行かない」


 日曜朝8時台後半。テレビは女子中学生アイドルが動画サイトを設立し、躍進する話を映している。


 バンドメンバーではない巡ちゃんは会話に参加してこないけど、アニメを見つつ私たち三人をちらちらと伏し目がちに見遣っている。


 アニメの放送が終わると、また別の女子中学生が歌唱するアニメが始まって、更にもう1本女の子が歌って踊るアニメが放送された。私たちは温かいほうじ茶『白露しらつゆ』を飲んで冷房病を予防しつつ、黙ってそれを見ていた。10時になった。


「あのー、そもそもその雑誌の読者層って、どんな人たちなの?」


 巡ちゃんが90分ぶりに口を開いた。


「さあ」


 自分が載っている雑誌に無関心なまどかちゃん。


「メインはティーンから20代前半くらいじゃない?」


 まどかちゃんに続いて私が答えた。


「それだ! 演奏はややハードロックだし沙希ちゃんの詩は切羽詰まった人向けのが多いから、キラキラ世代には響きにくいんだよ!」


「そ、そうなの……?」


 驚いたのはつぐピヨだった。困窮した日々を送ってきた知的な彼女ならではの感想。


「そうかもしれん。キラキラ世代の多数派マジョリティーには響かないかも」


 敢えてキラキラな曲をつくるべきか。でも頭がキラキラしてるおじさんの生態を描いた曲ならある。『MAMIKO』っていうんだけど。


「うんと、まあ、難しく考えてもしょうがないから私は私のままで曲をつくる! みんなも何か浮かんだら教えてね!」


 偽ったところで良案が浮かびはしないから、広告効果はなくても一先ずは自分らしくエンタテインメントを届けよう。そう思った日曜の昼だった。

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