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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
遠州・豊橋の旅

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肉食系ブローチ

「わ〜お、ここもジャングルだね。緑いっぱいで蒸し暑い。多摩たまとか新宿御苑しんじゅくぎょえんにもこんな感じの建物あったね」


 出入口に近いクリアなガラス張りの建物の正体は、世界の植物が一堂に集う植物園。建物内は空調管理され、中には温室もある。多摩や新宿へは中1の夏休みにまどかちゃん、つぐピヨと出かけた。


「多摩って、建物の中に蝶々いなかったっけ」


 まどかちゃんが滝壺の錦鯉を覗き込みながら言った。


「そう、ナナフシもいたよ」


「ひいっ……」


 つぐピヨが軽く引き攣った。


「大丈夫だよ私なんか廃屋に忍び込んだとき首筋に何か落ちてきたと思ったらでっかいムカデだったから」


「それは、私だったら、死。比喩じゃなくて、ほんとうに死」


「でも小学校のプールの授業で水泳帽にトンボが留まったときは平気だったよね」


「トンボとかちょうちょは鱗粉りんぷんが付かなければ大丈夫だよ」


「そっか、トンボは鱗粉ないし、ちょうちょより大丈夫だね」


「トンボいえば」


 まどかちゃんが何かを思い出し、微かに上向いた。


「どしたのまどかちゃん」


「中3のとき家出して、中2の林間学校で行った富士の樹海に一人で行ったんだけど」


「いやもうそこから不穏。林間学校で女子二人迷子になったよね。みんな帰りのバスの中で30分くらい待ってたらやっと戻ってきた」


 私たちが卒業した中学校では中2の6月に山梨県の山奥で林間学校を開催した。その2日目に森の中を突き進みながら登山をして、遥か遠くの富士山までずっと森が続く樹海を見渡した。ほんとうに樹の海で、例えば江ノ島シーキャンドルなど、高所から見渡す大海原がすべて森に置き換わったような、何にでもないが『絶望』という感情を視覚と本能に突き付けられた。森よりも、希望を抱かせる大海原のほうが実は恐ろしいのにね。


 自ら踏み込む絶望より、希望を抱かせてから襲い掛かる絶望のほうが、生き延びてもきずは深い。


「そのときにスズメバチが私の周りをウロチョロしやがって、めんどくせえなコイツと思ってたらどこからともなく現れたオニヤンマがそいつをキャッチして、私の胸元に留まってバリバリ凄い音出して捕食したんだ」


「ひいいいっ!」


 ホットな温室にこだまする青褪めたつぐピヨの悲鳴。


「肉食系ブローチだね」


 オニヤンマ、茅ヶ崎でも見かけるけど、体長10センチくらいあるしセミ喰ったり高速で逃げるほかのトンボを追いかけて視界の限界辺りでキャッチしたの見たときは驚いた。路上で3割くらい小さいギンヤンマに喰われてるの見たときはもっと驚いた。


「虎模様のボディーにエメラルドグリーンの瞳がお洒落だったよ。肉食バーサス肉食の生き様を見せつけられて、自分ももっと強く生きなきゃなって思ったんだ」


「タナトスの入口に踏み込んだまどかちゃんは、スズメバチのタナトスとオニヤンマのエロスに触発されてエロスの道を辿りいま、豊橋ここにいるのであった。めでたしめでたし」


「そ、そういうお話だったんだぁ」


 つぐピヨはピクピクした拳を口元に添え、腑に落ちたような落ちていないような様相。


 さてさて次は何が待ち受けているのかな。

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