つぐみ&武道、再びの横須賀 序
おひとり様を満喫し、武道くんはアイドルライブを楽しんでいた翌日の日曜日、ただいま電車で辻堂から藤沢間を移動中。7人掛けロングシートの4番目に座る私、左の3番目に武道くん、右に見知らぬ痩せ型の男。
武道くんのほうが体格が良いのに窮屈感はなく、右の男のほうが手足を開いて肘が私の脇腹に当たり、靴は踏まれそう。また、武道くんの左隣にいる男は左脚を膝に乗せて靴の裏が武道くんの膝に接触しそうなほど。
こういうことが多々ある。
思考の断片に『痴漢』がよぎったけれど、男同士でもよくあることだと武道くん、陸くん、やや痩せ型の自由電子くんも言う。
ああいうのはテリトリーを拡張して自分を大きく見せたいだけなんだと、陸くんは言っていた。
藤沢駅の次、大船駅で東海道線から横須賀線に乗り換え。緑とオレンジの東海道線は丸みを帯びた顔の電車だけど、青と白砂色の横須賀線はスマートフォンや電子レンジを彷彿させる平たい顔をした新型車両が走っている。不入斗競技場に通っていた高校時代は東海道線よりも丸みを帯びた顔の電車が走っていた。
国内外からの観光客で賑やか、というよりもうるさい横須賀線の車内。しかし大船駅から5分少々で鎌倉駅に到着すると一気に静まり返る。
『次は、逗子です。The next station is Zushi,JO-6』
ドアの上や荷棚の上までサイネージが連なる都会的な電車は流暢な二ヶ国語の自動放送を流しながら、家と家の間隔が開き、雑木林や草むらの目立つのどかな地域をとことこ走る。最後部の11号車には、私、武道くんと車掌さんしか乗っていない。
荷棚上の3連サイネージを見上げると、最新アニメのCMが流れていた。眼の保養。東海道線にもこういう電車入れてほしいな。
他方、隣に座る武道くんはスマホで活字を見ながら「うん、なるほど」と何かに納得している。普段は漫画やゲームばかりなのに珍しい。何を読んでいるのだろう。




