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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
大学1年の日常2

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222/277

復活のサッポロ軒

 サッポロ軒へ向かう道中、東海岸北四丁目のローソンの前から押しボタン式信号機のある横断歩道を渡り、むかし木造の商店とか丸ポストとか酒屋があった、一中通りと雄三通りをつなぐ住宅地を悟と並んで雑談しながら歩く。


 茅ヶ崎ではほぼ不可抗力でいくつかのラーメン屋さんが暖簾を下ろしたけど、この度その中の一つが復活。待ち侘びていた市民は多い。


「姉貴の唄って、ヘイッ! とか言ってノリと勢いで誤魔化してるけど、根暗で嫉妬深い本性が滲み出てるよな」


「おう遠慮ないな弟よ。まどかちゃんさえそこは踏み込んでこないのに」


「旧知の仲じゃ言うまでもないからな。けど見た感じ湘南のギャルって感じなヤツが醜い本性をドロドロと」


「そう、私は見た目が可愛い。お目々パッチリ声ハキハキ。……まあ私はさ、自分では真っ直ぐ生きてるつもりだけど、きっと‘凡人マジョリティー’から見たら捻くれ者だから、離縁もたくさんあって、少数精鋭の仲間たちのなかで生きてるけど、私みたいに可愛くてキラッキラした感じで性格もそんな感じな人でも悩みは出てくるかもだし、もちろんそうじゃないフラットな感じな人も、見るからに暗い感じの人だって悩みとかモヤモヤはあるわけさ。たぶん。限りなくマストビーに近いメイビーで。


 私たちのコンセプトは『青春に飢えている』って勝手に位置づけてるんだけど、いわゆる『青春時代』って呼ばれる年ごろにそんな日常を送った記憶がなくても、私みたいに泥沼な思春期だったとしても、これから、むしろ苦しい思いをして生き抜いたなら、いつかは楽しいときが来るぞーっていう、心のどこかに秘めてる可能性を引き出すきっかけをつくったり、私自身も自分の唄を呪文のように唱えて言い聞かせたり、そんな感じで聴いてくれる人とリンクできたらなって思うわけさ」


「ふぅん、まあ、それなりに才能はあるのかもしんないけどさ。姉貴、文学ギャングのまどかさんをライバル視してるしな。恐れてるくせに「まどかちゃんも作詞しちゃいなよ」とか言っちゃうの、なんていうか、そういうとこは女だよな」


 お前、私がまどかちゃんに作詞を勧めた話、どこで聞いた?


 それはさておき、


「そういうとこは? 生まれつきおチ◯ポ付いてませんけど? 性自認的にも女ですけど?」


「わかったよるっせーな。路上でそういうこと言うな」


「大丈夫だよ、ここ茅ヶ崎だから。下ネタソングの街だから」


「有名な先輩を免罪符にするな」


 軽い勾配を上がり、それ以上の勾配を下る。雄三通りが近付いてきた。


「嫉妬もライバル視もしてるけどさ、同時に誇らしくもあるよね、そういう人が仲間で、友だちで、なんやかんや長い間付き合ってくれて。陸上に一所懸命取り組んで、思いの丈もしっかりしてて、文学の才能。類は友を呼ぶっていう意味では、自分っていうちっぽけな存在まで少し誇らしくなったりもするよ」


 悟はちらり私を見やると、アスファルトへ向いた。


「いやお前なんかリアクションしろ。あと本人に言うなよ」


「言わねえよ。ほら、人通りが増えてきたからボーッとしてると事故るぞ」


 パン屋さんのあるY字路から二つの道が合流すると、途端に人通りが増えた。


 さてさて到着しましたスーパーマーケット『たまや』の横。壁面にはまみちゃんとか香川屋分店のカメの同級生が描いた母子が自転車に乗ったイラストが描かれている。


 そして『たまや』の正面、雄三通りの横断歩道を渡った先にあるのがサッポロ軒の新店舗。『創業昭和39年 北海道ラーメン専門店 サッポロ軒』と黒で記された黄色い地の看板が出入口の上に掲げられている。ラーメンのイラストがプリントされた赤い暖簾は旧店舗と変わってないみたい。


 左右をよく確認して信号機のない横断歩道を渡り、いざ入店。


「はいいらっしゃい」


「こんにちはー」


 お店の人は旧店舗と変わらず。厨房に立つ店主のおっちゃんとご挨拶。悟は「うっす」と会釈。奥ではおばちゃんが何か作業をしている。


 新店舗(といってもかなりの年季が入っていて昭和感満載)は6人くらい入れるL字型のカウンター席のみの手狭な内装。私と悟は揃って看板メニューのみそラーメンを注文。久しぶりのサッポロ軒、ラーメンのできあがりが楽しみだぞい。

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