新曲『青春に飢えている』
ああ、うめぇ。
姉貴のつくるメシはいつもうまい。
食パンと目玉焼き、ミニトマトにサニーレタス、デザードに炭酸水とフルーツたっぷりボウルいっぱいのフルーツポンチというシンプルな朝食だけど、目玉焼きの半熟よりちょっと固めた感じとか、フルーツポンチの炭酸水ちょい多めで微妙にシロップを足してるところとか、なんかめちゃくちゃセンスあるんだよな、コイツ。
「姉ちゃんのメシはうまいかい? 弟よ」
「うん、まあ……。ごちそうさま」
「おそまつさまでした」
食後はソファーに横たわってスマホで姉貴たちのバンド『茅ヶ崎ハッピーデイズ』の動画を見る。
昨夜、新曲『青春に飢えている』がアップロードされた。テンポ速めのポップとロックの間くらいな感じの曲。
収録場所はどこかのスタジオ。姉貴も、まどかも、つぐみさんも、知らない男のメンバー二人も、眼を輝かせて演奏している。ところどころ茅ヶ崎の風景が差し込まれている。
メシだけじゃなくて音楽の才能もある。ヤバいヤツだけど天才。天才はヤバいヤツ。そのへんはよくわからんけど姉貴は凡人ではない。
姉貴が天才だから、弟の俺は凡人なのか?
いやでも後から開花する可能性もある。俺もなんかの才能があるかもしれない。
「へえ、見てくれてるんだうれしいね」
「あっ、クソ」
見つかった。
背後から姉貴が現れて俺のスマホ画面を見ながら微笑んでいる。
「家族が何してるか把握しておく必要があるだろ」
「この前サッポロ軒で雑談した人は妹がDJやってるけど活動は見てないって言ってたよ」
「サッポロ軒、移転オープンしたんだっけ」
「うん、雄三通りのたまやの正面。私もまだ行ってないからきょうの昼にでも行ってみる?」
「そうだな、久しぶりに食べたい」
「そういえばこの曲も、出だしはいまは無いラーメン屋さんをイメージしたんだよ」
◇◇◇
『青春に飢えている』
・作詞作曲∶白浜沙希
海と緑がきらめく街
私の青春が詰まっている
バイパス下の行列で眺めた夕焼けも
スーパースターが通ったあの店も
くたびれながら歩いたエメロードも
あの日常はみな思い出に変わった
どこか胸踊るときめきを
振り返れば微笑むような思い出を
青春と呼ぶのだろう
それがずっと続いてゆくように
私はいつでも前を向いている
闇の中彷徨うときも心のどこかで
ああ私は青春に飢えている!
欲望に満ちあふれて生きている!
矢羽が降り注ぐ日もかなりある
周りは気付きやしないけどね
もしもあなたもそうだとしたら
何もかも終わらせたいとしたら
少しずつ
少しずつでも
あなたの空が晴れますように
私の空も晴れますように(ヘイッ!)
海と緑がきらめく街
色んな思い出が詰まっている
サザンCの前にあった自販機も
スーパースターが唄った細い道も
くたびれながら歩いた一中通りも
あの頃とは違う景色になった
すごい恥ずかしいざわめきも
思い出すだけで苦しいトラウマも
青春の一部だけど
それはさっと断ち切れるように
私はいつも前を向いている
どうせ全ては捨て切れないから
ああ、なんてもどかしいんだ
物心ついたときからモヤモヤしてばかりだ
でも私には幸せになる才能がある
……でも実はみな潜在的にある!
一人ひとり違うからみな特別だけど
唯それだけはみな普通だっ!
ああ私は青春に飢えている!
欲望に満ちあふれて生きている!
濡れた衣で帰る日もかなりある
周りはそれを見て嘲笑している
もしもあなたもそうだとしたら
何もかも終わらせたいとしたら
少しずつ、いや、できるだけ早く
あなたの空が晴れますように
私の空も晴れますように(ヘイッ!)
ああ私は青春に飢えている
欲望に満ちあふれて生きている
未来のことなんて全然わからないけど
あなたの空が晴れますように
私の空も晴れますように
生きてて良かったと心から思える日が来ますように(ヘーイッ!!)




