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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
大学1年の日常2

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沙希&まどか、浜辺のハイライト

「うーん、うんまかった! スープがじっくり炊かれてて濃厚だったね。プリンも濃厚」


 ラーメン屋さんを出たところの雑居ビルに挟まれた路地で天に向かって全身を伸ばすと、食後の眠気が少しだけ誤魔化された。食後の私はハイテンションを装いながら眠気と闘っている。


「これからどうしよ。ご飯にする? お風呂にする? それとも……」


 わざと瞳を潤ませて上目遣いでまどかちゃんを見つめる。これで陸と自由電子くんと武道とその他私のキャラを知る男子以外はコロッといくと思う。


「腹ごなしに散歩でもするか」


 はい全然墜ちませーん。つぐピヨなら社交辞令で可愛いって言ってくれるかな。


 腹ごなしの散歩でやって来たのはいつもの浜、サザンビーチとヘッドランドの間の砂利がごろごろしている波打ち際。西の富士山は霞み、東の江ノ島も少しぼんやりしている。サイクリングロードの脇には浜昼顔が咲いている。


 きょうは珍しく、見える範囲にサーファーの姿が無い。


 水面に向かってひょいっと平べったい石を投げ、水切りして遊ぶまどかちゃん。石は3回跳ねた。私もやってみると5回跳ねた。


「わーおミラコー! 奇跡だよ」


「クソ、なんか悔しいな」


「まあまあ、人生そんなときもあるって」


「むしろそんなことばっかりだろ、ちくしょう」


「苦虫を噛み辛酸を舐め、窮鼠きゅうそになって猫を咬む勇気や気力が出るか出ないか、そこが分かれ道かもしれないね」


「そこは咬みまくるけどな、グチャグチャに咬んでやる」


「動物虐待はアカンよ」


「比喩だろうが。本物の猫は咬まないよ」


「吸うか撫でるか耳をはむはむするか、それが問題だ」


「全部やる」


「それだわ。さすがまどかちゃんジーニアス」

 

 それからしばらく水切り合戦をした結果、ほぼ凪なのに二人とも一回も跳ねなかった。


「ハァ……クソ、水切り如きで疲れた」


「平べったい石がなかったね」


 軽い深呼吸をして、遠く烏帽子岩を見つめる。


「この浜に二人で立ってると、けっこう映えるよね」


 足元に打ち寄せる波が引き際にきらめき、また光の塊が打ち寄せては引いてゆく、その繰り返し。なんてことない、いつもの茅ヶ崎。


「馬子にも衣装だね」


「見た目だけは可愛いよ?」


 自らの右頬に人差し指を押し当て、再び上目遣いでまどかちゃんを見つめたら、彼女の瞳のハイライトが消えた。むむむむむ。


「こういうシーンって、よく片瀬東浜かたせひがしはまとか七里ヶ浜がロケ地になるよな」


「話逸らしたな」


 私も悪女の如くハイライトを消して応戦。


「でも確かに、茅ヶ崎はあそこほどロケ地にはならないね」


「藤沢とか鎌倉はフィルムコミッションがあるからロケしやすいんだろ。観光地として栄えてるのもあって、多くの視聴者に馴染みのある場所でもあるんだろうね」


「茅ヶ崎海岸もロケ地にはなってるけど、この地点で二人といえば『ちびまる子ちゃん』でまるちゃんとサザンの桑田さんがめぐり逢うシーンくらいしか思い浮かばないなあ」


 アニメ『ちびまる子ちゃん』の『まる子、茅ヶ崎の約束』での一幕。


「あったね。まあでも、ここは浜の面積が広くて開放的だし、人が少なくて落ち着いた雰囲気なのも魅力だから、知る人ぞ知る場所でいいんじゃない?」


「それはあるね。向こうはワイワイ、こっちはしっとり」


「さて、そろそろ帰るか」


「作業も残ってるしね」


「課題は?」


「そういうとこだよ、まどかちゃん」


「流行りネタのパクリか」


「バレたか。さて、ぼちぼち音楽つくりますかな」

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