寂寥の柳通り
藤沢駅へ向かって柳通りを歩くまどかちゃんと自由電子くん、つぐピヨと武道、そして私。
夜が更けると、藤沢の街は少し静かになるらしい。といってもまだ21時。茅ヶ崎の開けっ放しの飲み屋では加速する下ネタが路上にドバドバ漏れ出すころ。藤沢も飲食店が閉まるにはまだまだ早く、閉め切った扉の内側はガヤガヤしているはず。
「こんど、まどかさんが作詞した曲も演奏してみたいです」
車道側を歩く自由電子くんがまどかちゃんに言った。
「そうだなぁ、沙希に肩の力抜けってアドバイスした割に、自分は重い詩しか浮かばないんだよな」
「いいじゃないですか、重くても」
「あぁ、うん、まぁ、考えてみるよ」
歯切れの悪いまどかちゃん。作詞をしているにはしているけれど、いい感じのが書けないといったところ。
「武道くん、ドラムの呑み込み早いね」
「沙希に誘われてなんとなくやってみたが、天職かもしれないな」
高校時代、武道との進路に関する雑談で「なぁ、俺って、将来何になればいいんだろうな」と漏らされたことがあった。ガテン系の仕事が向いていそうなのでそう言ったら「力仕事は得意だが、俺とは気質の合わない人らの職ってイメージでな」と。
「天職! じゃあプロドラマー目指すんだね」
「ん? プロ目指してやってるんじゃないのか? 俺たち」
「そう、だっけ」
「あれ?」
「そう言われてみると、そうだったかも?」
「そうだ、そうに違いない」
「そうだよね。漫画家と両立できるかな」
「そのときは沙希と相談しよう」
こんな感じで自由電子くんとまどかちゃん、つぐピヨと武道はそれぞれに会話している。私は空気と化して聞いているだけ。
好きな人と想いを寄せ合えている。それだけでも贅沢だと理解はしているけれど、私もこうやって、ふたりで街を歩きたい。そんな侘しさが込み上げてくる。
少し湿気た向かい風がふわり吹きぬけ、頬をぬるり撫でた。




