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私たちは青春に飢えている ~茅ヶ崎ハッピーデイズ!~  作者: おじぃ
東京さんぽ

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スカイツリーと水族館

 展望デッキでは、私と沙希、つぐみと巡の二組に自然に分かれた。


 巡は「高い高い! 高い高いがすぎる!」と興奮気味。対してつぐみは「高いね〜、高い高〜い」と巡をあやしていた。


「うむ、高いですなやはり。路上を歩く人の姿が顕微鏡で見る微生物より小さく見える」


「建物はキャラメル、クルマは豆粒みたい」


「それで、地球はデカい。だが地球も太陽がフッと一息吹けば消し飛ぶし、太陽だってもっとデカい星がフッてやったりブラックホールに呑まれたりしたら一巻の終わり。でも無数の菌はちょびっと石鹸を塗れば大惨劇。世の中、大も小もキリがないのう。おや、あのちょろっと目立つビルはヨコハマランドマークタワーですかな」


 少し霞んでいるものの関東一円がほぼ見渡せる展望デッキ。左を向けば房総半島と果ての見えない海、右を向けば平野の向こうに甲州の山々。


「たぶんそうだね」


 その右に武蔵小杉むさしこすぎのタワマン、更に視点を右へ移すと都庁やコクーンタワーが目立つ新宿しんじゅくのビル群がある。


「ふむふむ、ということはその向こうに茅ヶ崎。烏帽子岩はもちろん、江ノ島も見えないね」


「ビルとか山とか半島に隠れて見えないんだろうな」


「意外と山あるもんね、あのへん」


 横浜の見える位置からゆっくり歩いて地球を俯瞰する。


「あれが富士山、富士宮ぶじのみや身延みのぶ富士吉田ふじよしだ。あっちが長野ながの高崎たかさきとか前橋まえばし宇都宮うつのみや水戸みと千葉ちば鴨川かもがわ福島ふくしままでは見えないか」


「関東平野の向こうだからね。沙希から他県の地名がスラスラ出てくると、いま目の前にいる沙希っぽい人間が本物かどうか疑わしく思えるよ」


「おお? それはどういう意味だいまどかちゃん。向こうはハワイ、ホノルル、ニューヨーク、パプアニューギニア、ケアンズ、台北タイペイ、ソウル、ウラジオストク?」


「なんとなく周囲にありそうな土地を並べ立てただろ」


「そうそう、チャイナは東西に広すぎて都市の方角わからんから言わんかった。が、しかし! 世界は広いということはいま目で見て理解している! 見よこの広き地球を、太陽の一息で消し飛ぶ地球を! キミは感じろコスモを!」


「アースじゃないのかよ」


「そうさ、いつか音楽を宇宙へ届けるのが、たったいまから私の夢さ」


 ふざけたような話をしながらも、沙希は音楽のことを考えている。私も考えている。


 展望デッキから降り、続いて敷地内の水族館へ。


「さかなー!」


 水槽が並ぶ薄暗い館内ではしゃぐ巡が、つぐみをクイクイと促している。巡がそっちを言えば良かったんじゃないか?


「ち、ちっ、ちんあなご……!」


 ちんあなごの水槽前で赤面しながら鉄板になりつつあるネタを言うつぐみ。


「わっほーい! ちんあなごちんあなご!」


 ここでもバカみたいに両手を広げる沙希。ちんあなご視点だと「わーいごちそうだ! いただきまーす!」と言われているような絵面で恐ろしい。


「ほら、さかなだよまどかちゃーん」


「さかなー」


 やれと言われそうだったから先にやった。


「ちんあなごー!」


 その後、私たちは水族館をゆっくり見て回った。印象的だったのは、ぎっしり並んだ提灯ちょうちんが賑やかな金魚のエリア。


 茅ヶ崎は観光地も水族館も近くにあるから都内にはあまり来ないけど、たまにはいいものだ。


 水族館を出たら夜8時を過ぎていた。そろそろ帰らねばと地下鉄半蔵門線、丸ノ内線と東海道線の特急『湘南』号を乗り継ぎ、寝落ちして茅ヶ崎へ帰った。

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