第3話 忘れるために
友哉の元に同窓会の案内ハガキが届いたのは3週間ほど前だった。
今年で廃校になる小学校に集まり、同窓会をしようという趣旨の誘いだ。
それぞれの年度生で日にちをずらしながら校庭に集まり、バーベキューでもしようというものだった。
「物好きな奴らだな」
と、すぐさまハガキをゴミ箱に捨てたが、運悪く母親に見つかってしまった。
「ちょうどいいじゃない、行ってきなさいよ友哉。せっかくじいちゃん達もあそこに戻ってきたんだし。この夏、母さん達は仕事で行ってあげられないしさあ。友哉が行ってあげたらきっと喜ぶよ二人とも」
もともと関東出身で方言もすっかり抜けた母が、自分の名案に嬉々として言った。
それは実際同窓会うんぬんよりも、親の思惑だったわけだが。
友哉にも仲が良い友だちがいないわけではなかった。
5年生まではごく普通のやんちゃな少年だった。
夏休みともなれば友だち数人と連れ立って、近くの遊泳所に指定された川で真っ黒になるまで泳ぎ、
山で作った秘密基地では、誰かが家から持ってきた成人向け週刊誌をドキドキしながら覗く、ごく普通の少年期を過ごした。
そう。6年生の春に、あの双子の姉弟が転校して来るまでは。
友哉は布団に転がりながら、磨りガラスと障子を抜けてくる月明かりをボンヤリ見ていた。
体はぐったり疲れているのに、頭が冴えて眠れない。
もう最後にしよう。
もう一度ここに来て思い出と決別しようと思った。
結局この地を遠く離れても、忘れることは出来なかった。
もう一度あの場所に行って、花でも供えて、そしてすべて終わらせるんだ。
友哉は目を閉じた。
どこかでチリンと風鈴の音が聞こえた気がした。
◇
6年生の春。
友哉のクラスに、8月いっぱいまでということで転入してきたのは双子の姉弟だった。
1学年1クラス。それも男女会わせて21人しかいないクラスにとっては、センセーショナルな出来事だった。
たった一学期間とはいえ。
そして、その双子の姉、保奈美は息を呑むほど美しい少女だった。
「東川保奈美さんと、弟の由宇君です。ご両親の都合で2学期が始まるまでの滞在となるそうです。短い間ですが、皆さん仲良くしてあげてください」
担任の女教師がそう説明する間も、クラス全員が姉の保奈美に釘付けになっていた。
女子までもが、だ。
背丈は女子にしてはかなり高く、スラリと伸びた手足はとても白くしなやかで、バービー人形を思わせた。
癖の少しもないストレートの長い黒髪は、薄いブラウス越しにふっくら膨らんだ胸に、軽くかかっている。
黒目がちの美しい目は、凛として少しも臆すること無く、新しいクラスメート達をまっすぐ見つめていた。
教室は水を打ったように静かになり、友哉は少しの間、息をするのも忘れた。
雑誌やTVで見るモデルやアイドルにも、これほどまでに心を震わされたことはなかった。
しなやかな細い体から放たれるのは、今まで机を並べてきた女子たちとは明らかに別のものだった。
女子ではない。そこに居るのは、異性だった。
しっかりと落ち着いた声で保奈美が自己紹介を終えても、しばらく誰ひとり雑談するものはいなかった。
教室中のだれもが、言葉を失っていた。
そしてたぶんその時、誰も、もう一人の少年のことは見てなかったはずだ。
姉の影に恥ずかしそうに隠れ、緊張で小さく震えていた華奢な少年の事を。




