イタズラ
「ん……ん~ん」
よく寝た。でもなんか首の辺りとか足の辺りがこそばゆい
それになんか、身体ガッチガチに固められてるんだけど?え。なにこれ。
瞼は重くて開けるのが億劫だけど、少しだけ力を入れて隙間を作ってみた。
ぼやけた視界の中に、見慣れた田端さんの横顔が映り込む。
「……田端さん?」
我ながら、間の抜けた声だ
「……ん!?」
田端さんはまるで心臓を突き刺されたかのような勢いで肩を跳ねさせた。
その驚きっぷりに、夢か何かを見ていたのかな、と僕はぼんやりと思う。
その瞬間
首筋に張り付いていた生温かい湿り気と、太ももの内側をなぞっていた指先の感覚が、ちゅぱっという湿った音と共に消え去った
ちゅぱってなんの音だろ
「お、おはよ。神崎」
田端さんの声が何故か少し高く、熱を孕んでいるように感じた
「おはよ、田端さん。……よく寝た、今何時」
「え、えっとね……7時半」
「……そっかぁ、7時半かぁ……よく寝た」
「40分くらいしか寝てない」
僕は欠伸をして深呼吸する
少し意識がはっきりしてきた
「田端さんごめんね?足辛かったでしょ」
僕は申し訳なさを滲ませて言った。
田端さんはずっと僕を上に置いていてくれたんだ。せめてお礼くらいは言わないと
「いや、全然。神崎かるいし。次も全然いいよ」
「そんなこと言っちゃってぇ~、もしかして
えっちいこと考えてる~?」
僕は冗談半分で少し微笑みながらいう
田端さんのことだ「な、なんのこと」とか
「そんなわけないじゃん」とかいい感じの言葉で返してくれるはず。そう思った
「……」
あれ、返事がない。
ただ、田端さんから立ち昇る熱気がなんだか異様にねっとりとしているのをなんとなく感じる
……なんか僕が寝る前と雰囲気違くない??
いや、僕の勘違いかな。僕って昔からこういう空気感とか全然読めないし。絶対に気のせいだ。
そんな、田端さんが僕に対して強引になにかするなんてことは無いはずだし
「どうしたの?ほんとにえっちなことしたくなったの?」
僕はわざとらしく、田端さんの胸元に頭を預けたまま、ぐりぐりと頭を擦り付けた。
田端さんの体育着の生地が、僕の頬をかすめる。
「……」
また黙り込んだ。田端さん、もしかして相当眠いのかもしれない。
僕が寝ている間、ずっとここで待っていてくれたのかと思うと、なんだか申し訳なくなってくる、
「……え、ほんとにどうしたの。勝手に寝たから怒ってるとか……?てか、そろそろ大丈夫だよ?起きたしさ、離してもいいんだよ?軽いって言ってくれたけどさ、
長時間はキツかったでしょ……?」
僕は田端さんの腕の中で身体を少しだけくねらせた。
離していいよ、という意味で身体を引いたつもりだったのに、田端さんの抱きしめる力は緩むどころか、逆に僕の身体を自分のものだと強く、強く締め付けられた。
痛……くはないけど、なんだろ。田端さん熱い
てか気が付かなかったけど、僕、田端さんに座りながらバックハグされてるみたいな感じになってるのか。
だから暖かかったのね
「田端さん、力入ってるよ」
僕は笑いながら言った。田端さんの方を向きたかったけど、昔、首を無理やり回したままくしゃみをしてゴワーンってすっごく鈍い痛みが走ったことがあるからやめとく
でも、やっぱり僕の勘はあてにならないな。
田端さんはただ、僕の寝相が悪すぎることを心配してくれているだけなんだろうなぁ。
そう思うと、すごくいい人なんだな田端さんって
てか、田端さん全然話さないけどもしかして寝ちゃってる?それともほんとに怒っちゃってるか
もう一度抜け出そうと動いてみるが抜け出せない
……でも、人間って寝ながらこんなに力強く人間を抱けるものなのかな?
「田端さん?ほんとに大丈夫?怒ってるとか?それとも寝ちゃった?」
「……」
え!?ほんとに何!?田端さんとんでもなく眠りが深いとか???それはそれで心配だよ???
「ちょ、ちょーーっと失礼しましてーー!!」
僕はものすごく、ものすごーく、それはそれはすごく頑張って田端さんと向かい合わせになる
……胸が近い。僕だって男、少し意識してしまう
まぁ、今はそんなことよりやる事あるからそんなにだけど
「田端さん?」
下から覗いてみると少しトロンとした目で僕の方を見ていた
……あれ?怒ってない。この目、眠かったのか。
良かった!田端さん温厚な方だから怒ったら何するか分からないし。
「田端さーん、起きてー」
「……」
え。もしかして寝てる!?田端さんって目を開けて寝れる人なの??あんまり良くないよ??
「朝だよー。嘘だよー。起きてよー。帰るよー」
しかし田端さんはうんともすんともいわない
んえぇ……、ほんとにどうしたんだろ。
うーむ。少しなにか響くこと言ってみるとか?
「田端さーん。そんなにお寝坊さんなら、寝てる田端さんにえっちなことしちゃうよー?」
「……っ」
ん!!少し反応あった!!死んでない!!
良かった!!でも、返事ない。もう一息かな?
「いいのー?田端さんが寝てる間にあんなことやこんなことされちゃうよー?」
「……」
田端さんの呼吸が少し荒くなり、更に目もさらにとろんとしている
……瞬きしてるよね??てことは生きてるよね?
なんで何も言わないの??
でも、方向性は合ってるはず。頑張ろ。
「じゃ、まずは田端さんに抱きついちゃおっかな」
田端さん。身長は僕よりかなりおっきいのに座ると僕とあんまり変わらないんだなぁ。
僕のスタイルが悪いだけ?……泣きそ。やめだ。
そうして僕は田端さんに頑張って全力で抱きつく
「……っあ、ぁ……っ! ん、ぅ……っ!!」
ん?!なんかすごい色っぽい声出たんだけど!?僕変なとこ……触ってない、ね。ん?なにした?
「田端さん、起きた?」
「……」
なにこれ??
田端さんから返事が一向に来ない。しかし向かいあわせで抱きつくと田端さんからの力はいっそう強くなる。ギリギリ痛くは無い
「田端さん力強いけど、向かいあわせだと柔らかいからなんか癒される。いい匂いするし」
そう言うと田端さんが少し息を荒くする
「じゃあ、もーっとえっちなことしちゃおっと」
てかこれほんとに寝てたら罪悪感で明日田端さんの顔合わせられないかも……
そう思った直後学校の放送が鳴る
『8時になりました。校舎内にいる生徒は荷物を持って下校してください。間もなく警備員が校舎内を巡回します』
良かった……正直これ以上何したらいいかよく分からなかったし
「残念。時間になっちゃったね。またいつかね」
僕はそう言って、田端さんに回してた腕を退けた。そして、もう時間だから離してーという意思を込めて田端さんをトントンと軽く叩く
……あれ、離してくれない。
動いても抜け出せない
「ねぇ……神崎」
引き留めるようなその声は、掠れていて、吐息に熱を感じ、甘く湿っていた。
「え、あ!ようやく話してくれた!って、どうしたの?」
僕が呑気にそう訊ねて田端さんの方を見る、その田端さんは僕の方をじっと見ながら激しい呼吸を繰り返している
「……なんでも……ない」
「……え?」
「何とか我慢した。次は危ないかも」
その言葉からはとんでもなくねっとりとしたものを感じる
なんのことだろ……、怒ったのかな、
「ご、ごめんね、勝手なことして」
「いや、それじゃない。むしろもっとしてもいい」
「ん?ほ、ほう?」
なんだろ、雰囲気が……
「じゃ、じゃあさ、次って、なんのことなのかな……?」
「次は次だよ」
そう言って田端さんは最後に僕を力ずよく抱き締めて
「すぅぅぅぅぅーーーッッッ」
と、肺がいっぱいになるほどの息を吸った
「帰ろっか。神崎」
「え?あ、うん。そうだね。僕が先に出るから後で出てきてね」
「わかった」
田端さん、なんだかよく分からないけど一応怒っては無いみたいだし大丈夫そうでよかった!
……でも、まぁ。まだいけるでしょ!
襲われてないし!田端さん優しいし!
そして抱きつかれながらドアの方を向いた瞬間
「……イタッ」
首筋を少しの痛みとくすぐったさが襲った
……なんか一瞬少し痛かったな、疲労かな
その時田端さんが
「次は……ほんとに危ないかも」
と舌なめずりをしながら僕を見てそう言った
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