私のものだって印
神崎が、私の胸の中で完全に寝息を立て始めた。
腕の中で小さく動いていた肩の力が抜け、私の胸に預けられた頭の重みが、狂おしいほど愛おしい。
私はゆっくりと、神崎の体育着の襟元から覗く白い肌に鼻先を寄せた。
「……ふぅ……ッ、はぁ……」
いい匂い。汗と、少し甘い制汗剤、そして神崎そのものの匂い。
それが混ざり合った瞬間、私の脳髄は甘い痺れに支配される。
……もう、限界だ。
この匂いを吸い込まなければ、私は息の仕方を忘れてしまいそうになる。
誰もいない、清潔な匂いの充満するこの背徳的な密室で、今この瞬間だけは、彼は完全に私の所有物だ。
私は彼を抱きしめる腕に、先ほどよりも強く力を込めた。
彼を私の身体の輪郭に塗りつぶすように、逃げ場がないほど限界まで引き寄せる。
寝ている神崎は、私に全てを委ねている。私が何をしても、彼には分からない。
私は震える指先を、彼の体育着の襟元へと伸ばす
ゆっくりと指を引っ掛け、すこしずつ引き伸ばす。伸びた生地の隙間から、神崎の白く柔らかな鎖骨ラインと、その奥の熱を帯びた肌が露わになった。
「……っ、あ……ッ……、はぁ……」
私の心臓が、喉元までせり上がってくるほど激しく跳ねた。
隙間から立ち昇る彼自身の熱気に、私の頭の中は真っ白に塗りつぶされる。
私はその伸びた隙間に顔を埋め、温かな肌をじっとりとした吐息で湿らせた。
「……神崎……神崎……っ、どうして、こんなに……っ、」
私は彼を服の上から抱きしめたまま、その隙間から覗く胸板のあたりに掌を滑り込ませた。
布越しだというのに、彼の柔らかな胸の温かさとその奥にある心臓の鼓動がダイレクトに掌に伝わってくる。
「……っ、う……、っんぁ……ッ!」
指先に力を込め、服の上から彼を執拗になぞる。
乳首のあたりを親指でじわりと圧迫すると、彼は
「……んッ……、あ、……っ」
と無意識のうちに身体をビクリと震わせ、声を漏らす
その微かな反応だけで、私の下腹部にズキズキとした疼きが走り、呼吸が浅くなる。
私は隙間から見える鎖骨を指でなぞる。彼の匂いに脳がやられていく。
正常な思考なんて、もうどこにも残っていない。
彼を私の匂いで塗りつぶしたい。彼を私で満たしたい。彼を私の体の一部にしてしまいたい。
「……全部、私のものだ……全部、私の……全部……ッ」
私は指先で、彼の胸元を円を描くように優しく、けれど執拗に押さえつけた。
布越しに伝わる彼の手触りに、脳が沸騰するような快感を覚える。こんなにも簡単に触れられて、こんなにも私の熱にさらされているのに、彼は何も知らない。
彼が起きれば、気がついてしまったら、この時間は……関係は終わりだ。
そう分かっていながら、私は服の隙間に顔を押し込み、彼の鎖骨のくぼみを何度も何度も嗅ぎ回った。
もう、我慢できない。
理性の細い糸が、彼を貪り尽くしたいという獣のような欲望に焼かれ、音を立てて断ち切れる。
腕の中で完全に無防備に寝息を立てる彼。
強者としての余裕を捨て、ただそこにある無垢な首筋が、私の視界と世界をすべて独占していた。
「……ねえ、神崎……私だけの印、つけてもいいよね……?」
返事なんて待っていない。
実験室の窓から差し込む街灯の明かりが、彼の手入れされた美しい首筋を白く浮かび上がらせている。
私は吸い寄せられるように顔を寄せた。
肌が触れ合う直前、彼自身の熱気が鼻腔をくすぐり、また私の心拍を跳ね上げる。
まずは、彼の肌で最も脈動が心地よい場所に唇をそっと押し当てた。
壊れ物を愛でるようなふりをして、吐息を殺し、彼という生命の熱さを肺の奥底まで吸い込む。
でも、それもほんの一瞬。次の瞬間、私の内側で濁った欲望が爆発した。私は牙を剥くように口を開け、その柔らかな皮膚にキスする
「……んッ……っ、……ちゅっ……」
情けないほど官能的な、湿った音が誰もいない実験室に響き渡る。
キスして、離し、またキスをする。
皮膚がみるみるうちに赤くなってゆく。
ああ、最高だ。
私だけの愛の証―――キスマークが、その白く美しいキャンバスに色濃く刻まれていく。
同時に、私はもう片方の空いた手で彼の太ももを触る
膝から少し上の、しなやかな筋肉が覆う太ももの内側。
布を通さない、彼の剥き出しの肌を直接なぞる。
指先でゆっくりと線をなぞり、そこから太ももの
付け根へと向けて、執拗に指先で肌を愛撫した。
「……んぅ……っ、はぁ……」
私の吐息が荒くなる。服の上から胸を締め付け、首筋には熱い印を残しながら、彼の肌を直接蹂躙する。
その考えられないような快楽に、全身の神経が焼き切れるような痺れが駆け巡る。
彼が寝ている隙に、彼の身体の隅々に私の支配権を刻み込んでいく。
この背徳感こそが、私の求めていたものだ。
私の指が太ももの内側を執拗に刺激すると、彼の身体が微かにピクリと反応した。
寝息がわずかに乱れる。その反応だけで、私は自分が壊れてしまいそうになる。
「ふふ……っ、神崎、そんなに、反応して」
キスの度に、彼の脈動が私の唇に伝わってくる。
それは、まるで彼という存在が、私の熱に呼応しているかのよう。一度刻めば終わらない。何度でも、もっと濃く、もっと深く。
彼が他人の視線に晒されるとき、あるいは鏡に映すとき、誰もがそこに私の爪痕を見るのだ。
私は、首筋に残した赤みを、さらに自分の指でなぞり、こねくり回した。
「……あは、……すごい……」
自分の指先が、その赤みの周りを震えながらなぞる。私が、彼の肌という無垢なキャンバスに侵入し、傷つけ、所有したという動かぬ証拠
「……ハハ」
喉の奥から、くつくつと低い笑みが漏れる。
少しだけ指に力を入れてその痕を押し広げる。彼の肌の温度が指先から全身へ逆流してくる。
私は彼の耳元まで唇を這わせ、濡れた吐息を吹きかけながら、もう一度首筋に強く牙を立てた。
「……これで、完璧……っ」
首筋に刻まれた赤黒い印。それを見つめているだけで、下腹部の疼きが限界を超えていく。
もう、ここから先は戻れない。
彼が目覚めたとき、この跡を見つけた彼がどんな表情をするのか。
私は彼を胸に抱き寄せたまま、自分の吐息で彼の耳元を湿らせ続けた。
彼という麻薬を吸い尽くし、私の痕跡で塗りつぶす。
まだ足りない……もっと、もっと深く……
「……んッ……ちゅ……っ、……んくっ……ちゅるり……」
彼が目を覚ますまで、私はこの愛おしい痛みと熱を、ただひたすらに貪り続けるのだ
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