5話
サリーナの部屋に着き、ライトは寝台にサリーナを寝かせる
ハルト「俺はカキと父上に話があるから。ライト、姉上のこと見てて。絶対そばから離れないで。」
サリーナをライトに託した
謁見の間にて、ハルトはカキと国王とサリーナの今後について話す。
ハルト「あの砂の野郎は、諦めずに必ずまた来る。早く手を打たないとまた姉上が危ない。」
カキ「ザルハーン王国からの婚約について、角の立たない断り方を考えていたら今回サリーナが攫われた。正面から断ればあの国は軍事的な報復に出かねない。かといってサリーナを差し出すなど論外だ。」
国王「……ならば、既に婚約者がいるという形を作るのはどうだ。」
カキ「つまり、ハルトとサリーナの婚約を発表し、外堀を埋めるということですか。」
国王「ハルト。お前にその覚悟はあるか。偽りの婚姻ではなく、生涯を賭して守るという意味での覚悟だ。」
ハルト「覚悟なら、とうの昔に。....血が繋がってないのを知ったときから。」
国王「案が通ったら、サリーナにはハルトの口から伝えよ。」
ハルトは短く頭を下げ、サリーナの元へ向かった。
サリーナとライトの話し声が聞こえる。ハルトはノックもせず部屋に入る。
ライト「殿下戻られたか。」
ハルト「もう大丈夫なの?さーちゃん。まだ顔色良くないよ、横になってたほうがいいって。」
ライト「では殿下、俺はこれで。」
ハルト「うん。ありがとう。もういいよ。」
サリーナ「ハルト、ジックから助けてくれてありがとう。」
お礼を言われた瞬間、ハルトは目を伏せた。嬉しいはずなのに、素直に喜べない自分がいる。あの時もっと早く駆けつけていれば、姉はあの薬を盛られることもなかった。
ハルト「お礼なんていらない。さーちゃんが連れ去られたって気づいた時、俺……」
ハルトにとって、あの数刻は永遠にも等しい地獄だった。思い出すだけで、ハルトの中で魔力がざわめき、部屋の隅に置かれた花瓶の水面がかすかに波立った。
ハルト「怖かった。もう二度とあんな目に遭わせない、絶対に。俺の傍から離れないで。」
サリーナ「うん。ねえハルト。こっち来て。」
サリーナに呼ばれて、吸い寄せられるように近づいた途端、温かな魔力が流れ込んできた。
ハルト「っ……さーちゃん、だめ、まだ体調戻ってないのに。」
そう言いながらも、離れようとしない。魔力が枯渇しかけていたのは事実で、ジックとの戦闘で放った氷魔法の連発と転移魔術の酷使が、今になって全身に重くのしかかっていたのだ。
ハルトほどの魔法使いが魔力切れ寸前まで追い込まれるというのは、尋常なことではない。それだけジックが手強かったということであり、ハルトがどれほど無茶をしたかということでもある。
ハルト「あったかい。……さーちゃんの魔力、昔から好き。ずっとこうしてたい。」
(サリーナはハルトの魔力が半分ぐらい回復したところでやめる)「ねえハルト、そういえばカキに同じ部屋にしてほしいって言って、カキになんて言われたの?」
ハルト「同じ部屋で良いって言われたよ。それ伝えに行ったらさーちゃんがいなかったんだ....あの砂野郎のせいで。」(ハルトから冷気が漏れ出す)
サリーナ「どこの部屋で一緒に?」
ハルト「さーちゃんの部屋に俺が行く。俺、結界張れるし、何かあってもすぐ守れるし。さーちゃんは嫌?俺と同じ部屋。」
サリーナ「嬉しいけど、私が回復したら同じ部屋はちょっと恥ずかしいかも...今は心細いから一緒にいてほしいけど。」
「嬉しい」という一言で、ハルトの中で花が咲いたような笑みが広がりかけて、続く言葉にぴたりと固まった。恥ずかしい。その単語がハルトの脳内で何度も反響する。
ハルト「恥ずかしいって……なんで?じゃあ今は一緒にいる。ずっといる。俺の荷物持って来るから待ってて。」
名残惜しそうにサリーナから離れたかと思うと、すっと立ち上がって指を鳴らした。ニマルディア王国一の魔法使いの結界は、並の術師では触れただけで指が凍傷を起こすほどの代物だった。
ハルト「これで誰も入れない。さーちゃんも出ちゃだめだよ。すぐ戻るから。寂しかったら俺のこと考えてて。」
しばらくしてハルトが帰ってきた
「ただいま。食事もここで食べよう」
運ばせた食事をサリーナと並んで取る時も、ハルトは向かい側ではなく隣の椅子を選んだ。パンをちぎっては「はい、あーん」と差し出し、スープの温度を確かめてから渡す。
そして夜。ひとつの寝台に二人分の体温が沈み込み、ハルトは迷いなくサリーナの腰に腕を回した。背中からぴたりとくっつく形で、銀色の髪からふわりと石鹸の香りがサリーナの首筋にかかる。
ハルト「……ん、あったかい。どこにも行かないで。」
満ち足りた吐息が耳のすぐ後ろに落ちて、ハルトはずっと離さなかった。




