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クラウス様に真っ直ぐな気持ちを伝えて数ヶ月。
今日は3学期の初日。
このゲームは「学期の頭」とか「学年最後の日」などキリのいい所でイベントが起きているので、次にいつ何が起こるかわかりやすくて助かる。
ゲーム通りなら今日はジークフリート様との遅刻イベントが発生する日。
イベントの内容はこうだ。
寝坊して時間ギリギリに学校に着き、廊下を走るヒロイン。曲がり角で王子にぶつかる。そう、あのベタなやつ。
「大丈夫?君が遅刻なんて珍しいね。何か悩みでもあるのかい?ちょうど君に話したいことがあるから、放課後生徒会室に来て欲しい。」みたいな内容を一気に言われる。
しかも選択肢はなく、強制的に放課後生徒会室に行くことになる。
行ったが最後、急な欠員を補うため書記にされてしまい接触率が高くなる&好感度が上がりやすくなってしまうのだ。
まさとくんが「ジークフリートも遅刻じゃないの?」とか「ジークフリートと同じクラスなのに何でぶつかるの?」と冷静にツッコんでたな。
「脚本書いた人が徹夜明けだったとか?」って流したけど、実は私も不思議に思っていた。
そんなことより、私はクラウス様とのハッピーエンドを迎えるためにも、このイベントの回避に全力で立ち向かう所存である。
<私にできること>
1.遅刻しない
いつもは起きるのに今日に限って二度寝したなんてことがない様に、前日に「私が起きて部屋を出るまで見張っててね!」とニーナに頼んでおいた。
「二度寝なんかしたことないじゃないですか〜。どうしたんですか〜?」と訝しんでいたが、きちんと起こした後も見張ってくれていたお陰で寝坊することなく、しかもいつもより早い時間に家を出ることが出来た。しかし途中で馬車が故障してしまい、何故か今日に限って知り合いの馬車も通らず、歩ける距離だったので歩いて学校に行くことになった。
なんとしてもイベントを発生させようとする強制力に対抗意識が湧き上がった。
2.ぶつからない
ゲーム画面では廊下の左側を歩き、インをついて曲がったところで左からやって来た王子とぶつかっていたので、私は右側を歩き大外回りのコースを取った。が、右からやって来た王子とぶつかった。
くっ、やられた。
でも、教室が左側にあるので、王子が右から来るのは正しいと言えば正しい。
3.セリフをぶった斬る!
こうなったら無理やりにでも「悩みごとでも」の辺りで「ないです!悩みは何もないです!」と切り込もうと構えたていたら、ボソッとジークフリート様が何事か呟いた。
「クラウスが言ってた通りだな。」
よく聞こえなかったので「えっ?」と聞き返すと、「いや、なんでもない。ノルン嬢も急がないと遅刻だよ。」とだけ言ってジークフリート様は足早に教室に向かってしまわれた。
なんと!セリフが変わった!
やった!ゲームの強制力に勝った?
何でセリフが変わったのかわからないけど、クラウス様に告白したことで何か変化が起きたのかな?それならば嬉しい。
まだ卒業まで気は抜かないけどね!
さっさと婚約してしまえばいいのかもしれないが、それによって万が一卒業式で私とクラウス様の婚約破棄イベントが起こる事態になったら・・・という不安をクラウス様に正直に打ち明けたところ、イベントを警戒しつつ、婚約は卒業してからという話になっていた。
というわけで十分に警戒していたのだが、その後に起こるはずの学園祭やジークフリート様の誕生日パーティーなどでのイベントは全く発生することなく過ぎて行き・・・あっという間に1年が経った。
卒業まであと数ヶ月となった今日は、ゲーム通りなら待ちに待ったエンド確定イベントの日!
このゲーム、製作者がジークフリート推しなのか、やたらジークフリート様のイベントが発生するんだよね。一番好感度が上がらなそうな選択肢を選んでいたにもかかわらずである。
クラウスエンドにたどり着けるか最後まで心配になったものだ。
そのための救済措置なのか、この時点で好感度の高い上位2名が選択肢に出て来て、選んだ方と一緒に試験勉強をする約束をする。
ゲームでは、
・ジークフリート
・クラウス
となっていたので、クラウス様をギリギリ選ぶことができた。
放課後に図書室で待ち合わせて、クラウス様のお家で勉強する約束をする。
クラウス様が来るのが遅かったのでノルンが読書に集中してしまい、クラウス様が来ても気付かずそこからさらに1時間経ってしまう。
遅くなってしまったので、馬車に乗ってすぐ「今日はもう送って行くよ。」とクラウス様に言われてしまう。
残念そうにするノルンにクラウス様がいわゆる顎クイというものをして「そんなに残念がるくらいなら、もっと早く俺に気付けよ。」と、俺様クラウスが発動!
キャーーー!!!って叫んだもんね。
まさとくんに「ストレス溜まるとか言いながら楽しんでんじゃん。」って白い目で見られたっけ。
そんなことより、俺様クラウスが見られるのはこのイベントだけ!
もう他のイベントが起きていないのだから必要ないかもしれないけれど、俺様クラウスが見たいので、私はこのイベントに全力で臨む所存です!
と言っても、実際の私たちはほぼ毎日図書室で待ち合わせをして一緒に帰っているので、改めて約束をしたわけではない。
いつも通り放課後に図書室へ直行し、目に付いた本を掴んでいつもの席で待機。
緊張して本の内容がなかなか入ってこないけど、とりあえず読んでいれば集中するだろうと思っていたら、隣に気配を感じた。
あれ?まだまだ来ないはずのクラウス様がもう来てしまった?でも気付いてはいけないので、気付かないフリをして本を見続けていると声をかけられた。
「ノルン。」
やっぱりクラウス様だ。
でも、まだ早過ぎるので、もちろん気付かないふり続行。
クラウス様はノルンが集中すると周りの音が聞こえなくなることを知っているので、そっとしておいてくれるはず・・・
「ノルン。」
・・・もしかしてクラウス様今日がイベントの日って気付いてる?イベント回避しようとしてる?
こうなったら意地と意地のぶつかり合いだ!俺様クラウスを見るために、私は負ける気は一切ない!とここに宣言しておこう。
するとクラウス様は私の両肩を掴んで自分の方に身体を向けさせると、とてもいい笑顔で言った。
「ノルン帰りますよ。」
実力行使に出た・・・やっぱり気付いてるな。これ。
先ほどから馬車の中で一言も話をしていない。
当然である。私は怒っているのだ。
私がずっと黙っているのでクラウス様が呆れた様に言った。
「何を怒っているんですか?試験勉強する相手を選んだ時点でエンド確定なのですから、その後は気にしなくてもいいのではないですか?攻略対象者のイベントも、あれ以降発生していないのですから。」
やっぱりイベントのこと覚えてたんだ。
クラウス様は前世の記憶を思い出したのが早かったせいか、まさとくんの感情に引っ張られることはあまりないみたいで、最近ではすっかりクラウス様口調に戻ってしまっている。
「確定させるための大切なイベントなので、きちんと熟した方が安心できると思うんですけど・・・このイベントを熟さなかったせいでエンドが変わったらって心配になりませんか?」
「あんなセリフ絶対に言いませんよ。」とクラウス様までそっぽを向いてしまった。
恥ずかしくても、あのイベントを熟してくれれば安心できるのに。クラウス様はエンドが変わっても別にいいって思ってるの?
悲しいのとちょっとムッとしたのとで私もそっぽを向いた。
お互い背を向けてどのくらい時間が経っただろう。
「はぁ・・・」
クラウス様が苛立ち混じりのため息をついたので、ちょっと意地を張り過ぎたかな?本気で怒らせちゃったかな?と怯みそうになった。
するとクラウス様の手が伸びて、待ちに待った顎クイが。
キターーーっっっ!
次に来るセリフをワクワクして待っていたら、クラウス様の整ったお顔がどんどん近付いて、どんどん近付いて、どんどん・・・?
気付くとクラウス様の唇が私の唇に重なっていた。
「!!!」
クラウス様の思いもよらない行動に、耳まで真っ赤になったのが自分でもわかる。
言葉が出ずじっとクラウス様を見ていると
「ドキドキさせればいいんだろっ!」と、ちょっと不貞腐れ気味に言って、またそっぽを向いてしまった。
クラウス様の耳が赤い・・・。
キャーーーッ!!!
ゲームと違うけど、なんかいい!!こっちもいいー!!
一瞬、ファーストキスが不貞腐れ気味なのはどうなんだろう?とは思ったけど、なんか萌えたからOK!
でもお互い恥ずかしくて、結局クラウス様の家には寄らず、私の家まで送ってもらったのでした。
*****
エンド確定イベントはちょっとゲームと違う内容になったけど無事卒業式を終えることができ、正式に婚約することもできた。
卒業後はクラウス様も私も王宮で勤めることが決まっている。
ゲームではここまでだけど、ノルンとクラウス様の人生はこの後もまだまだ続く。
楽しいことばかりじゃないかもしれない。喧嘩もするだろう。
でも、「この人と一緒にいたい」
そう思える相手と2度も出会うことが出来た。
それなら、どんな気まぐれな運命も2人で乗り越えていこう。
今度こそ、この手を放さない様に。