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そうして大人しく過ごすこと数日。学校から帰宅した私に侍女のニーナが手紙を持ってきた。
「お嬢様〜、お手紙が届いてますよ〜。」
彼女がノルンに気安いのはゲームの通り。
ゲームの中だからだろうと思っていたが、実際も気安かった。以前のノルンも気にしてないみたいだし、私もスルーしてる。
誰だろう?
家紋の入った封蝋を見てしばらく思考が停止した。
グリトニル公爵家・・・なんで?
クラウス様が私に用があるわけないわよね?お父様同士は王宮で毎日顔を合わせてらっしゃるし・・・。
「お兄様宛ではないの?」
「ちゃんとノルンお嬢様宛ということで確認してお預かりしましたよぉ。それに宛名だって、ほら、お嬢様のお名前になってますよ〜。」
どういうこと?もしや踊り場で寝ていたことが、淑女らしからぬ行為とやらで糾弾されたりとか?いやいや、まさか。
震える手で何とか開封して手紙を読むと、
極秘で話したいことがある。迎えを送るので都合の良い日を教えて欲しい。くれぐれも誰にも言わないようにという内容のことが書かれていた。
行ったら国の要職者が集まっていて糾弾されたりするのだろうか?でっ、でも私一応レアな光魔法の使い手だし、命まで奪われることはない・・・よね?
震えが止まらないが、心証が悪くならないように急ぎ返事をした。すぐに連絡が来て、あっという間に会う日が決まり、その日を迎えた。
時間きっかりに来た迎えの馬車に乗り、あぁ、光の屈折魔法を調べるの忘れてたな・・・と今更ながら思った。
きっとうちの数倍はあろうかという庭や豪華なロビー、階段などを通ったのだろうが、極度に緊張していて全く覚えていない。気付いたら一室でクラウス様と向かい合って座っていた。
何も言わずじっとこちらを見たかと思うと視線を逸らして何か思案したりを繰り返している。
なんだろう?もう逃げようもないので覚悟を決めて声をかけた。
「あ、あの、本日はどの様なご用件で?」
「あぁ・・・なんと言えばいいのか・・・」
つぶやいたクラウス様が意を決したように顔を上げ私をじっと見た。
「ぷーちゃん?」
・・・あれ?なんだっけ?・・・なんか・・・あぁ、懐かしいな・・・。
前世の私の名前は「ゆう」なんだけど、私が一度気が抜けた時に「ぷしゅー」って言ったら、まさとくんのツボにハマったみたいで。
何がそんなに面白いのかわからないけど、あまりに楽しそうだったので、それ以来、気が抜けた時や疲れた時に「ぷしゅー」って言ってたら「ぷーちゃん」って呼び出したんだよね。「ぷしゅーちゃん」は呼びにくいから「ぷーちゃん」でって。
まさとくん元気かな?
・・・って、あれ?なんでクラウス様が知ってるの?えっ!?どういうこと???
まさか!?
「・・・まさとくん?」
私が問いかけると、目を見開き固まるクラウス様。
「前世の記憶を取り戻したのはいつですか?」
「ひと月ほど前に噴水に落ちて、その時に・・・。」
「やはりそうですか。思い出したばかりなのですね。」
「はい・・・すみません。」
何に対して謝ってるのかはわからないがとりあえず謝ってしまった。
まさとくんなのかどうかの返事がないまま質問が続けられた。
「最近ジークフリート様たちと距離を取っているのは、やはり前世の記憶を取り戻したからですか?」
いや、ノルンがアプローチしてたのはあなただけなんですけどね。しかもジークフリート様「たち」って何?イベントの起こった王子だけならまだしもジークフリート様「たち」って?
私が思い出してないだけ?それともやっぱりゲームの強制力でみんなの頭には「ノルン=気が多い」って植え付けられてるのかな?
「記憶を戻す前のノルンにジークフリート様たちにアプローチしていた意識は全くないんです。むしろ、好きな人に誤解されたくないので避けようとしていました。でも、多分ゲームの強制力が働いて、望んでもいないのにイベントが発生してしまったみたいで・・・」
まさとくんかどうかの返事がないままだけど、転生者という前提で話してみた。
「前世の記憶」って言ってるから、クラウス様も転生者であることは間違いないよね?
するとクラウス様は何かを思い出したようで「では、図書室でジークフリート様と抱き合っていたのもイベントなのですか?」と聞いてきた。
「抱き合ってなんかいません!・・・あれもイベントです。急に背中を押されたみたいになって、ジークフリート様はそれを支えてくれただけです・・・と言うか、見てらっしゃったんですね。」と聞くと、「あぁ、そうですね・・・すみません。」と気不味そうな顔をした。
「まさとくん?」
もう一度確認をすると一瞬の間の後に「そうだよ。」と今度は答えてくれた。
そして私の隣に座って私の手を握り「ぷしゅーっなんて言う人ほかにいないからすぐわかったよ。」と笑ったがすぐに悲しそうな顔をした。
「ぷーちゃんだけでも助かって欲しいって思ってたんだけど、転生してるってことはダメだったんだね。ごめんね。」
「ううん、私1人が助かっても嬉しくない。それよりも一緒に生まれ変わってまた一緒にいれる方がいい!・・・でも、クラウス様はノルンのこと大嫌いなんだよね?」
クラウス様の口調がまさとくんに引っ張られて砕けていたので、私もつられてしまった。
クラウス様はそっと私の手を離した。
いくらジークフリート様のことは誤解だったと言えども急に気持ちを切り替えるのは無理なのかな?当然かもしれないけど、さすがに悲しいな。
「俺はこちらで5才の時に溺れて高熱を出して、そこで前世の記憶を思い出したんだ。
ぷーちゃんが会社の先輩から借りたゲームをするのを一緒に見てたからよく覚えてて、すぐにあのゲームの世界だって気付いた。だからノルンに出会った時もすぐわかったし、絶対に引っかからない様に警戒してた。でも、話してると結構面白いし、(あれ?意外にも俺だけっぽいな?)とは思ったけど、もしかしたら自分の知らない所で他の人にもアプローチしてるかもと思って様子を見てたら、ジークフリートと抱き合ってる所を見てしまって・・・それで頭にきて思わずあんな事を言ってしまったんだ。本当にごめんね。」
そういえば、あのイベントの直後でしたね。「大嫌い」と言われたのは。
「記憶を戻す前の事だけど、ノルンが一途にクラウス様だけを思ってたのは間違いないと思う。」と言うと「自分のことなのに他人事みたいだね。」と笑われた。
そうなんだよね。前世で読んだ転生ものでは、みんな前世の記憶を思い出してわりと早い段階で馴染んでいたようだけど、私は未だに全くの別人の記憶のような気がしてしまう。
幼少期に思い出していれば、ちゃんと融合してたのかな?時間が経てばそのうち落ち着くのかな?クラウス様はどうなんだろう?などと考えていると優しく微笑むクラウス様と目が合った。
本人がこう思ってるぐらいだから、周りから見れば余計に記憶を戻す前と後のノルンは全くの別人に見えるのかもしれないけど、ただ一つ確かなことがある。
「私は前世も現世もあなただけが好き。」
何の迷いもなく、堂々とそう言えることがすごく嬉しかった。




