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 1週間ぶりに学校へ行き、窓際一番後ろの自分の席に座るなり、ジークフリート様が声をかけてきた。


「もう体調はいいのか?」


 こんなイベントあったっけ?と思いつつ、余計なフラグを立てたくないので「お気遣いありがとうございます!もう大丈夫なので心配ご無用です!」とばっさり会話を打ち切った。


 彼はまだ何か言いたそうだったが、私の頑なな態度に口をつぐみ自分の席に戻って言った。


 そんな私の態度に周りからひそひそと聞こえてきた。初めは色々言われるかもしれないが、ここを乗り越えればそのうち何も言われなくなるはず。それまでの辛抱だ。


 放課後早速図書室に行き、語学に関する書籍をいくつか見繕った。席に向かう途中で魔術書のコーナーを通ったので、こちらもいくつか手に取った。

 流石に光魔法に関する書籍は置いていなかったが、どの様なことができるかなど概要だけでもわかれば応用を利かせられるかもしれない。


 空いてる席を探すと、一番奥の右端の席で分厚い本を読んでいる、王子の幼馴染かつ将来の側近候補と言われる攻略対象その2のクラウス=グリトニル様を見つけた。


 漆黒の髪に切長でエメラルドグリーンの瞳と真っ直ぐ通った鼻筋。いかにも知的な雰囲気を纏い、口数は少なく、心を見透かされているのではないかと思う様な鋭い視線を持った彼は、まさに私の好みそのもの!そう、前世で唯一クリアした攻略対象というのが彼である。


 記憶が戻る前のノルンがアプローチしていたのも彼だ。思い出した限り、他の人に思わせぶりな態度は一切取っていない。


 ノルンは図書室で彼を見つけるたびに「ご一緒していいですか?」と声をかけ、ちゃっかり彼の隣をゲットしていたが、ある日突然「大嫌いです。」と言われて以来一度も話をしていないし、図書室に来たのもそれ以来ぶりだ。なので彼から一番離れた席にそっと座った。


 卒業まで大人しくすると決めたのだ。目立たない様にひっそりと過ごすのだ。

 決意を新たに借りてきた本を片っ端から読み始めた。


 亡命するなら安全でご飯の美味しい国がいい!と思い、諸国についての情勢や食文化なども調べ、その中で一番私の味覚に合いそうな国を見つけてその国の言語書に目を通す。


 多分ヒロイン特需なのだろう、読んだものが面白い様に次から次へと吸収されていく。    

 一度見ただけで完璧に覚えられるなんて、こんな便利な能力があっていいの?初めてヒロインのメリットを感じた。


 なぜ今までこんな素敵な能力を活用しなかったのか?恋にしか興味のない薄っぺらい私では、知的な彼に相手にされないのも仕方がない。


 はっ!またクラウス様のことを考えてしまった!もう諦めるって決めたのに!未練を断ち切る様に頭を振って、読書に没頭した。


 ゲームのノルンは「集中すると周りの音が聞こえなくなる」という癖があり、それによって起こるイベントがいくつかあったのだが、こちらの癖も健在のようで、係の人に閉館を告げられるまで集中してしまった。


 迎えの馬車を長時間待たせてしまったので謝り、これから毎日図書室通いをするので迎えの時間を少し遅くしてもらう様にお願いした。


*****


 図書室通いを続けて1週間。

 亡命候補の国の言語はほぼ習得できた。それから、光魔法で光の屈折を使って全身を光の膜で覆い、まったく別人の姿に見せることができるらしいということもわかった。

 これは亡命する時に使えるかも!


 でも光魔法の書籍がないので細かいことまではわからなかった。今週末にでも王立図書館に行ってみよう。などと思いながら歩いていると、話し声が聞こえて来た。


「最近の彼女ジークフリート様と距離取ってません?」

「散々押して、今度は引いて、あれ?って思わせるテクニックなのではありません?」


 多分私のことだろう。

 違うから!もともと押してないし!

 あんなにバッサリ会話を切ってるのに、何で「気がある」って思われてしまうんだろう?

 顔を合わせたくないので思わず今来た道を戻った。


 もしかしたらゲームのヒロインちゃんも本当は誰にでも愛想を振りまいてはいないのに、私がフィルターのかかった目で見てただけなのかな・・・もしそうだとしたら申し訳なかったな。

 考え事をしながら階段を駆け上がったため踏み外してしまい、思い切り踊り場にダイブした。


 なんだか疲れたなぁ・・・。


 この数週間で色んなことが起きて疲れていた私は、立ち上がる気にはなれず寝転んだまま何となく呟いた。


「ぷしゅーっ・・・」


 その瞬間、バサバサバサッと何かが落ちる音がして振り向くと、クラウス様がびっくりした顔でこちらを見ていた。


 踊り場にダイブしたままの姿を見られたことに気付いた私は慌てて飛び起き走って逃げた。


 恥ずかしい!なんですぐに起き上がらなかったんだろう。あー、ますます呆れられるー。

 とっくに諦めたはずなのに、またしても未練がましいことを思ってしまった。


 それ以来、クラウス様と顔を合わせたくなくて図書室通いをやめた。きっと彼は気にも留めてないと思うけどね。

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