俺の人生17
翔太が死んで故郷に帰り俺は慶太郎と翔太の部屋に再び向かった。翔太の両親が必要なものだけは持って帰り後の処分は俺達がやると言ったからだ。たいして片付けるモノ等なく持って帰るのに邪魔な家電や家具の処分を頼まれた程度だった。
『おい!慶太郎!壁に穴あいてるぞ。翔太の奴殴ったな。修繕費用かかるっつったのに』
翔太!お前の笑顔の裏に隠された苦悩の証しのつもりか?1発殴ったぐらいで苦悩は消えねーだろ。乗り越えるしかなかったんだよ。手首だって何度もためらって切っていたな。頑張りたいでも頑張れないと葛藤を繰り返していたんだろ。
『それは俺だ』
『はあ?お前があけたのか?バカだろう!お前が無駄に修繕費用かかる事してどうすんだ!』
玄関を入ってすぐ左側の壁に穴があいていた。お前いつ殴ったんだよ。
『もう誰も住まねーだろう。解約するよ』
『とりあえず金払って家電も処分してもらおう。慶太郎!お前なんで翔太が死んでるってわかったんだよ?俺はまだもしかしてと思ったけどな』
お前なんだよ!どうした?翔太が死んだのは確かに悲しい。でもそれだけの顔じゃねーじゃねーか。わかんねーよ。
『見ればわかる。完全に死んでたよ。大輔!管理人に挨拶して帰ろう。俺は仕事行く』
『あぁー』
慶太郎!なんで見ればわかるんだよ。俺はわかんねーよ。翔太を見つけたあの時もお前は冷静な言葉だったけどお前の握り締めてる拳は暴れたくてウズウズしているような感じだったよな?救急車が来て翔太が運び出された時にお前は壁を殴っていたのか?なんでお前はそんなに哀しい顔して言うんだよ。翔太が死ぬ前からお前は何度もそんな顔を見せてるんだぞ。翔太が死んだ事はもちろん悔やまれる。でもお前はそれだけじゃねーだろ。結城さん!慶太郎の闇は時間なんかではやっぱり解決出来ない程深いんすかね。俺が慶太郎に対してあいつの闇は深く哀しいと最初に感じた通りそれは大人になっても変わらぬままです。俺はどうしたらいいんすか?翔太の死が余計あいつを追い込んだように思います。俺達はそれでも生きなきゃいけねーんだよ慶太郎!翔太の死も受け止めてな。翔太の死から10日程立ち店に少し早く出勤した慶太郎は怜恩が軽はずみに発した心無い言葉に強く怒りを表しボコボコに殴りつけ店も潰せと言う程怒りと哀しみの感情で溢れていてとても冷静に話し合える状態ではなかった。俺は急遽営業を中止して店を閉めアルテミスのスタッフ全員で話し合いをすると言い聞かせ慶太郎を帰らせた。悪かったよ慶太郎!触れない方がいいと思いスタッフには事情をちゃんと話さなかった俺が悪いんだよ。
『怜恩!慶太郎の気持ちがお前はわかるか?わからないんだったら慶太郎の言う通りこの店は潰すべきだな。怜恩以外の者も同じだ。お前らだって悩みぐらいは皆あるだろう。この世界に入ってくるぐらいだ。大なり小なりみんなが何かを抱え生きる為に頑張ってるはずだろ。抱えるモノの大きさや重さはそれぞれだろうが悩みのない奴なんかいねーんだよ。だから抱えるモノがみんなあるんだと言う事を忘れるな。ここで一緒に働く仲間となったからにはそれなりの縁が会ってこそ出逢ったんだ。誰もがライバルであるけれどそれ以上に仲間であると言う意識がなければ互いに協力できねーし店も回らねーよ。蹴落とす事ばかり考えてるようじゃな。1人で仕事するんじゃねーし出来ねーよ。やる気がない奴は辞めればいいと俺は思っている。向き不向きもあるからな。ただ怜恩!翔太はお前に伸びて欲しいと思ってくれていたぞ。お前にも稼ぐ楽しさを知ってほしいって先輩らしくお前の心配をしていた。そんな翔太にお前は何とも思わねーか?感じねーのか?自殺されて気持ち悪いから隣の部屋は嫌だと死ぬなら他所で死ねとお前が発したんだろ?本当にそんなことしか思わないなら慶太郎の言う通り俺もこの店はいらねーよ。親の借金返済の為に頑張ってきた翔太がお前に飯を奢ってくれたんじゃないのか?翔太の気持ちがお前にはわからねーか?わからんねーんだったら残念だな』
怜恩!お前はまだ19歳だ。でももう19歳だ。人の命をしかも仲間であり可愛がってくれた先輩の苦しみを理解出来ないお前は人としてダメだろ。慶太郎の言うように翔太が悩んでいた事に誰一人気づかず死なせてしまった俺達にも罪があるんだぞ。アルテミスは慶太郎が1番最初にオープンさせた店だ。月の神と言う意味に必ずもっと深い意味と想いを込めてな。こんな終わり方はしたくなかった。俺の責任だ。悪いな。慶太郎!
『うっく、す、すいません。俺がバカでした。翔太さんにかわいがってもらってて軽い気持ちで言ったんすけど、うっく、言ってはいけない事を言いました。っく、アルテミスは潰さないでくださいっく、瑛太さんとか悲しでいました。みんな言わないだけで翔太さんの事は悔やんでいます。うっく、何もしてやれなかったなって言ってたんす。慶太郎さんはいつも俺達みんなに声をかけてくれて俺にもやれば出来るって言ってくれたし翔太さんは慶太郎さんに憧れてるって俺にいつも話してくれました。俺だって慶太郎さんみたいになりたいって憧れていたのに慶太郎さんに嫌われるような事を冗談でも言葉に出すべきじゃない事でした。俺はこの店を辞めます。っく、だからこの店は続けてください!お願いします!翔太さんの為にも翔太さんが愛した店だから続けて下さい!うっく、すいませんでした!っく』
翔太さん!すいませんでした。本当に翔太さんが死んだって言う実感が俺にはなくてなんかよくわからなかったんす。何も考えてませんでした。慶太郎さんが怒るのは初めてっすね。それだけ俺は無責任な言葉を発してしまいました。最低っす。俺まだ翔太さんに何もお返ししてないっすよ。飯を奢れるようになるって言ったじゃないっすか。
『怜恩!お前が素直にその気持ちを慶太郎に伝えろ。あいつがお前を嫌う事はねーよ。嫌う所かお前の心配をするだろうな。あいつは俺と違ってバカがつく程お人好しだ。俺達の店で働く事になった奴はみんな神の計らいで縁になったんだから全員出来る限りの事をしてやりたいと思う奴だよ。店だけじゃなくあいつの現場で働く者達にも同じようにな。困ってる奴には手を差し伸べたいってのが慶太郎だ。わかるか?怜恩!』
怜恩!よくわかってるじゃねーか。俺がもっと早くちゃんと説明していればよかったな。これは俺の罪だ。お前らにどう話せばいいのかと逃げ翔太の死から目を背けていた俺の責任だ。一緒に反省しよう。
『っく、は、はい!俺かっこ悪いっす。自分で恥ずかしいっすよ。翔太さんのお墓参りに行って謝罪してきます、うっく』
翔太さん!やっぱ本当にいないんすね!慶太郎さんに殴られてやっと実感した俺は遅いっすね。ひょっこり会えそうな気がしていたんす。俺バカです。すいません。
『怜恩!俺も一緒に行くよ。全員順番で行こう!』
『っく、瑛太さん!あ、ありがとうございます!うっく』
『よし。じゃあ今日はもう店も閉めちまったし全員で飲みに行くか!慶太郎はどうせどっかの姉ちゃんのところで飲んでるはずだ。車があるしな!慶太郎の奢りだからお前ら好きなだけ飲め!翔太にしっかりお別れを言えよ!』
翔太!聞いてたか?悪かったな。
『はい!ありがとうございます!』
『礼は慶太郎に言え。慶太郎を探しに行くぞ!お前ら準備してろ!俺は慶太郎の場所を聞き出すから』
『はい!』
慶太郎!まだ世の中は捨てたもんじゃねーと俺は思いたい。お前はいつもこの世の中は腐ってると言うけどな。お前が背負ってる大きさや重さを俺も知らねーけどお前がいい奴だって事だけを俺は知っているし結城さんにも出逢えたからやっぱり俺はまだ世の中捨てたもんじゃねーと思って生きたい。いいじゃねーか。俺らの周りだけでも腐ってなけりゃな。こいつらちゃんとわかってるんだよ!
『おい!問題児!全員連れてきたからお前が奢れよ!アルテミスは続けるぞ。翔太が愛した店だからって事で全員一致したからな』
お前!どんだけ飲んだんだよ!ボトルあいてるじゃねーか。それでも酔えなかったか。店ではすぐに酔いが回るくせしやがって。
『あっそう。つうか誰が問題児だよ』
『慶太郎さん!本当にすいませんでした!俺がバカでした!瑛太さんが一緒に翔太さんの墓参りに行ってくれるって言ってくれたんで一緒に行って謝罪してきます!俺が最低なバカだっただけで他のみんなは違うんすよ!だから翔太さんが愛した店を潰さないで下さい!みんなアルテミスが好きなんす!すいませんでした!』
『怜恩!俺はもうけっこう飲んだからお前が頭も心も使わず軽はずみに口走った言葉は忘れた。だけどクソ野郎だけにはなるなよ!クズは俺だけで充分だ。俺がクズの変わりに俺の周りにはなぜかいい子が集まってくれるんだよ。俺がちゃんと反省するようにな。翔太によろしく言っといてくれ。俺もいつかいくからってな』
怜恩!その痛みを忘れるな。人の命の重さがわからないような人間にはなるんじゃねーよ。
『はい!わかりました!すいませんでした!』
『俺に謝ってもしょうがねーだろ。翔太に言えよ。それからこれはお前に渡してほしいって翔太の遺言だ。どうする?お前にはまだ早いかと思って俺が持ってたんだけどな。受け止められるか?』
『あっ!それ!うっく、っく、はい!っく、ありがとうございます!翔太さん!ありがとうございます!うっく、っく』
翔太さん!何で俺なんすか!俺なんか最低な奴なのにこれは翔太さんの宝物じゃないっすか。俺がしっかり預かって大事にしますからね!約束します!
『怜恩!レオン!飲むぞ!来いよ!慶太郎さんの奢りだから気にせず飲めるぞ!』
『本当にうちの子達はバカが多いね』
『経営者が大バカなんだからしょうがねーだろ!ほら!慶太郎!飲むぞ!』
『大バカって俺っすか?てかトライアンフの方は大丈夫なんすかね?大輔君がこんなとこで油売ってて!』
翔太!お前の想いをちゃんと怜恩に届けたぞ。怜恩は受け止めるよ。お前の想いを。
『トライアンフは優秀な詩音と力也がいるし連絡がないから回ってるんだろう。それに俺はお前に付き合ったぐらいでは潰れねーからしっかり仕事はして帰るに決まってんだろ。安心しろ』
怜恩は翔太が二十歳の誕生日に慶太郎から貰った宝物の時計を受け取り再び泣き崩れた。俺達の遺言には怜恩にと翔太が大事にしていた時計が遺書と共に置かれており慶太郎はしばらく自分が持っておきたいと言い預かっていた。怜恩が翔太の想いを受け止めきれるか心配だったんだろう?怜恩は大丈夫だよ。全てを理解したんだ。翔太の時計をはめ泣きながら飲む怜恩はすぐに酔い潰れた。
『そうですね。悪かったよ。大輔。お前にまた心配と迷惑かけましたね』
『お前の心配と迷惑には中学の頃から慣れて麻痺してるんだよ!』
『そうっすね。すいません』
慶太郎!俺達はどんな事があっても生きられるだけ生きていこう。そうするしかないんだ。俺達が生まれた事は奇跡なんだろ。奇跡ならばありがてー事じゃねーか。だから生きよう。




