エピローグ:シルバー・ブレッド
島の一件から3ヶ月が経った。
あれから娘は両親とは会いたくないと言ったので私は娘の意志を尊重して両親には娘は国外に行ってしまったと伝えた。
能無しだとか役立たずとか罵詈雑言を言われたが言われる筋合いは無い。
何よりどうもその時は私の癇に障ったから両親に平手打ちを一発ずつお見舞いして事務所から叩き出してやった。
それから娘は以前に襲撃されたスペイン料理屋の住み込みで働き始めた。
仕事は大変だと言っていたが、それでも両親から解放されて嬉しいと言っていたので良しとしようじゃないの。
もちろん飛天の口添えで店主を納得させてからだけどね。
私と飛天はというと相変わらず何も変わらずに過ごしていた。
今夜も例のBARで夜の午前零時に待ち合わせをしている。
私はこの前と同じく血まみれマリーを飲みながら左腕に嵌めたオメガのスピードマスターを見て飛天を待った。
きっかり午前零時になると同時にドアが開き飛天が中に入って来た。
「・・・・マンハッタンを」
飛天は何時ものカクテルを頼み私は新たにカクテルを頼んだ。
出されたカクテルはシルバー・ブレット。
どんな怪物でも一発で仕留める銀の弾丸。
そして私が飛天に依頼を頼む暗号。
「・・・仕事か」
マンハッタンを飲みながら飛天は私に尋ねた。
「えぇ。今度はちょっとした狩りよ」
私は楽しさを隠し切れずに笑顔で言った。
ロンドン郊外にある辺鄙な私立探偵事務所が私の住まいだ。
何で天使が人間界で探偵などをしているのだとよく言われる。
その答えは決まっている。
『スリルを味わいたいからよ』