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ツヨイチカラ  作者: 桃馬 穂
第8章 拍動を合わせて

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第8.4 量子パルス:確保か、攪乱か

 ≡ Quantum Pulse 8.4 / Secure or Disrupt


 二十時五五分、〈ミズハ〉・ブリッジ。左の表示は船体の骨格に固定、右は張力計。外は灰の海で波は低い。空調の低音が床を這い、舵輪の革は手汗を吸ってひやりと冷たい。

 抽出のゼロ線は細く揃い、小さな峰が同じ間隔で並ぶ。紙帯ロガーの擦れは一定で、梁がときどき短く鳴る。張力計の針は中央に張りつき、後部甲板から金具の短い鳴きが一度返る。

 影山は右後ろで立ち、声を落として切り分けた。

  影山「状況をまとめる。ひとつ、抽出は成功域だが安定は脆い。ふたつ、外部の接近は二方向。海面の小型艇は二百、水中の“足”は百の手前で減速中。みっつ、ここでやめる線は百。——ここから二択だ」

  ライラは拍を維持し、視線で全員を拾ってうなずく。翔太は舵輪を抱え、親指の段差に指腹を沈めて呼吸を短く切った。郷田はウインチ柱に肩を当て、張力計の針の震えだけを見ている。

 影山「A。このまま小瓶一本を完全に封し、すぐ撤収。滞在は少し延びるが、目的は果たす。B。封を途中で切り、砂幕と影で視線をそらして浅い水路へ移動。安全幅は増えるが、回収量は最小だ」

  カナデ「外部接触、更新。海面、一八〇。水中、九八に落ちて再加速の兆候。一致率、八割弱。識別は保留」

  郷田「張力、中央。撚りゼロ。巻き上げ余力あり。砂幕は三枚重ね、まだ利く」

  結衣「学園、連続、穴なし。風は弱」

  リク「研究、温度の揺れ、小。今の帯の整いが最良に近い」

 翔太は一度だけ舌を噛み、すぐ離した。怖い。だが、怖さで余計が削れる。

  翔太「Aがいい。一本を完全に封って持ち帰る。持ち帰れば、次の戦いが減る」

  ライラ「私もA。今の帯は一番きれい。ここで封に入れば戻せる」

 影山は顎を一ミリ下げて決める。

  影山「Aでいく。理由は三つ。いま帯が最良、砂幕が効いている、海面の目は影に取られている。——封入を開始。攪乱は撤収用に温存」

  ライラ「了解。封入プロセスに入る。拍、維持。——翔太、横は半目、戻しは滑らかに」

  翔太「半目——戻す。維持」

  郷田「後部、巻き上げ準備。合図で二段。張力、中央で持てる」

 カナデ「外部接触、更新。海面、一七五。水中、九五。——やめる線に近い。一致率、八割。識別は保留」

  影山「止める線を言う。九五で一度固定。九〇で封を確定。八五で巻き上げ開始。声は短く、判断は一度」

  結衣「学園、追認。ただいまの線を記録」

  リク「研究、同意。九〇で封、八五で巻き上げ」

 ライラは表示を一段暗くし、喉を鳴らさずに息を吸った。

  ライラ「——今、封入。一拍」

  小瓶ユニットの弁が閉じ、管路の圧がほんの少し上がる。翔太の指先のチップが自分の血清の型で回路を閉じ、遅れは生まれない。ゼロ線の帯は崩れず、間隔はそのままだ。

 カナデ「外部、九三。進路、こちら。速度、わずかに上げ」

  影山「九〇で封を確定。——ライラ、次の『今』で確定」

  ライラ「三、二、一——封、確定!」

  郷田「張力、中央。巻き上げ、準備よし」

  結衣「学園、封入確定を打刻」

  リク「研究、封入済み。ログ固定」

  カナデ「外部、九〇。一致率、変化なし。視界は砂幕で薄い」

 影山「八五で巻く。——カナデ、海面の小型艇は」

  カナデ「一六五。進路、こちら。速度、維持。熱像は二。無線の雑音、変化なし」

 梁が低く鳴り、ガラスが二度だけ小さく叩かれる。舷側の影は堤防の影に寄り、輪郭が薄く滲む。張力計の針は中央から動かず、骨格表示の角は静止したままだ。

 影山「撤収の図を言う。翔太、姿勢は影の角を保ったまま浅い水路へ斜めに出る。ライラ、拍で押し返し。郷田、二段で巻け。カナデ、距離の更新は五ずつ。学園と研究、いまの決定を打刻。記録に“重要”の印を付けて残せ」

  結衣「学園、了解。重要の印で保存」

  リク「研究、了解。打刻して保存」

 返事は重ならず、短く並ぶ。ライラの「三、二、一」が空気に刺さり、全員の体が同じ方向へわずかに傾いた。紙帯ロガーの擦れは一定、舵輪の革は固く、汗は冷たい。

 カナデ「外部、八八」

  影山「八五——巻け!」

  郷田「巻く!張力、中央から一割増——持つ!」

  ライラ「拍、維持! ——今、横、半目」

  翔太「半目——戻す! 維持」

 骨格表示の角は崩れず、張力計は中央の上で止まる。砂幕の面が黒い影になり、水中の“足”の線は太らない。海面の小型艇は堤防の影に食われ、輪郭が溶ける。

 結衣「学園、追認。撤収パターンへ移行、記録」

  リク「研究、同意。封入済み、ログ固定」

  カナデ「外部、八四。進路、こちら。速度、わずかに上げ」

 影山は短く頷き、次を出す。

  影山「撃退は狙わない。抜けるための戦いだ。——〈サギリ〉を舷に寄せろ。合図したら、翔太はすぐ渡れ」

  カナデ「〈サギリ〉、寄せに入る。姿勢、合わせる」

  ライラ「三、二、一——今」

 舷と舷が触れそうな距離まで詰まり、甲板の金具が短く鳴った。翔太は舵輪から手を離す準備をし、指先の汗を拭う。持ち帰る。仲間を残さない。正面で止める。その三つだけを胸に、目を上げた。


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