24・孤児院内視察
神官長が冷や汗を流しながら縮こまりながら「こちらへどうぞ」と案内しようとしたところで、ゆったりとした足取りで、一人の人物が現れた。
「これはこれは国王陛下に王妃様。どうぞこちらへ。子ども達の生活環境をぜひ見てやってください」
穏やかな声色と柔らかな笑み。────大司教だ。
先ほどの微妙すぎる空気を見事に何事もなかったかのように流してくれたあたり、さすがというべきかなんというべきか……。
私は内心でほっと息をつきながら、その案内に従ってセドリックと共に歩き出した。
***
「──こちらが食堂です」
通された先では、ちょうど食事の準備が進められているところだった。
長くて大きな木の机の上に大きな鍋がドン、と置かれて、子どもたちがそれをよそいながら、小さな手で一生懸命運んでいる。
「こら、そっちはまだ熱いですよ。それは年長組に任せて、こっちをお願いします」
神官が優しく声をかけると、「はーい!!」と元気な声が返ってくる。
とてもいい雰囲気ね。
子ども達がそれぞれの年齢に会った役割を果たして、保育者である神官たちもそれを見守る。
そんな神官たちのことを、子ども達も信頼しているように見えるし……良い環境だわ。
──次に案内されたのは遊び場だった。
絵本を読んだり、積み木で遊んだり、絵を描いたり、ふと窓の外を見れば、庭で追いかけっこをしている子達もいる。
「王妃様ー!! 見て見てー!!」
一人の女の子が自分が描いた絵を私に見せて、私は戸惑いながらも少しだけかがんでそれを見た。
たくさんの子ども達が書かれた絵。
きっとこの孤児院の子ども達ね。
皆楽しそうに笑ってる。
それを見るだけで、ここでの生活がこの子にとってどんなものなのかが伝わって来るみたいだった。
「ええ、上手ね。とっても素敵だわ」
そう微笑むと、女の子は少しだけ頬を染めて嬉しそうに笑ってから、また皆の輪に入っていった。
──最後に向かったのは、学びの場。
孤児院では簡単な読み書きや計算を教えているらしく、黒板に向かって真剣な顔をしている子どもたちがそこにいた。
その後ろでは神官達が見守り、時折助言をしている。
「そこはこうやるんですよ」
「あ、ほんとだ!!」
理解が出来てぱっと明るくなる顔。
私はあたりを観察してみるけれど、特におかしなところは見られない。
子どもたちは皆、仲が良くて、笑い合い、ふざけ合い、ちゃんと大人が見守る中で自分たちのやるべきことをしながら過ごしている。
神官たちも皆、穏やかで丁寧で、子どもたちとの仲も良さそうだし……。
「……どうかされましたか?」
全ての部屋を見終わって廊下を歩いていると、大司教が黙り込んだままの私に声をかけた。
私ははっとして首を横に振って、すぐに表面上の笑顔を張り付ける。
「いえ、とても良い環境だと思って、感心していましたの。子ども達も楽しむときは楽しんで、しっかりとしなければならない時にはしっかりと役割を果たして……良い保育環境ですわ」
だからこそ、余計に分からない。
こんな場所から、子どもが何人もいなくなるなんて……家で、とは考えられない。
ふと、セドリックの方を見ると、相変わらずの無表情のまま、だけどその視線は鋭く周囲を観察しているようだった。
そしてクレフはというと──。
「ねぇちょっと!! このちょっと地味めの壁の装飾、微妙に魔力の流れ歪んでない!?」
……さっそく通常運転だった。
「あら、違うわ。これただの防御魔法だったわ!! あらヤダ私ったら!! せっかちさんっ♡」
頼もしいのか騒がしいのか分からない。
とりあえず、環境的におかしなところは見られない、か……。
ならいったいどうして……?
頭の中で色々な可能性が広がるばかりで、それらが絡み合って訳が分からなくなってくる。
「推理小説、苦手なのよねぇ……」




