10・Sideアルフレット
僕は城が嫌いだ。
誰もが僕を見て、『踏み台王子』だって言う。
僕が生まれたら、お父様は聖女様と結婚できるかもしれなくなるから、なんだって。
5歳無事に僕が生き延びたら、お父様は聖女様と結婚するんだって。
そんなの嘘だと思いたいけど、お父様の態度を見ていたら、あぁ、そうなんだろうな、って納得してしまう。
お父様は僕やお母様に笑いかけてはくれない。
まるで、人じゃないみたい。
だけど聖女様といる時だけは違うんだ。
ちゃんと、”お顔”があるんだ。
人形じゃなくて、人間のお顔。
きっとお母様もそれをよくわかっていて、僕よりもずっと悲しい思いをしてる。
お母さまがずっと僕を避けてきたの、僕、知ってるんだ。
とてもとても悲しかったけれど、仕方ないかな、って、ずっと我慢してきた。
だって僕は、お父様によく似ているらしいから。
きっと、お父様によく似た僕を見るのが悲しいんだ。
だけど、そんな僕がお母様に優しくしてあげたら、お母様は喜んでくれるかもしれない。
そう思って必死に声をかけてきたけれど、ダメだった。
お母さまは僕を見て悲しそうな顔をして、逃げるように去っていく。
それが、この城での僕たちの日常、だったのに──。
変わったのは、僕とルナマリアの婚約式ぐらいからだったと思うんだ。
あの日突然お母さまが倒れてから、お母様は変わった。
僕と目を合わせてくれるようになった。
僕の話を聞いてくれるようになった。
僕に笑いかけてくれるようになった。
何でそうなったのか、僕にはよくわからないんだけど……でも、僕はそれがとーっても嬉しいんだ。
ルナマリアも、最初はお父様と同じでお顔が変わらなくて、冷たい子なんだって思ってたんだけど……。
お母さまのことを一緒に心配してくれたり、優しいんだってところがわかってから、それが間違いだって気づいた。
きっとルナマリアとなら、僕は大丈夫な気がしてるんだ!!
「さぁてお子様たち、何して遊ぶ?」
僕らのことをお父様に任されたクレフがにっこりと笑う。
ちょっとなれなれしくてぐいぐい来る人だけど、。僕はこの人が嫌いじゃない。
僕のことをちゃんと見てくれる大人だから。
だけどね、今は遊ぶ、なんて気になれないんだ。
だってお母様やお父様が大変なことになっているっていうのに……。
「ねぇクレフ。やっぱり僕も、お母様の所に行きたい!!」
だめだろうけど、そう口にしてた。
我儘な子どもだって、王子としての自覚がないって言われるかもしれないけれど、それでも思いが溢れてしまったんだ。
「────私も。王妃様の所に行きたいです」
僕の隣からはっきりとした声が飛んで、そちらを見ると、まっすぐにクレフを見つめて立っているルナマリアがいた。
かっこいい。
そう思った。
背筋をピンと伸ばして、その目には迷いがなくて、びくびくしてなくて、思わず見入ってしまった。
「ん~、そうねぇ~……」
腕を組んで唸るクレフに、僕とルナマリアは目を合わせて頷いて、そして────。
「お願い(しますわ!!)!! クレフ!!」
縋るようにクレフに二人で詰め寄ると、クレフは目を丸くしてから、ニコッと笑った。
「んもうっ!! 仕方ないわねぇっ!! そんな可愛い顔そろえて言われたら反対できないじゃないのぅっ!!わかったわ!! あんたたちの思いはしっかり伝わった!! 行きましょうか、王妃様の所へ。アタシの転移魔法、特別に使ってあげるわ!!」
そうwinkを飛ばすクレフに、僕らはまた顔を見合わせて、くしゃっと笑った。
きっとおかあさまは、お父様と聖女様を前に落ち込んでるはずだ。
僕らがお母様を守ってあげないと!!
「あぁその前に……あんた達!! これ!! 持っていきなさい!! 護身用に」
そう言ってクレフの服の魔法のポケットから取り出して僕らに一つずつ手渡されたのは、真っ黒い鉄の────フライパン……。
「えぇ……」
「心もとない、ですわね……」
「つべこべ言わずに、行くわよぉおおおおおおっ!! しゅっぱーつ!!」
こうしてキラキラの光に包まれて、僕らは城から姿を消した。




