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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第6章:蜘蛛っ子の奮闘・ヴァンパイアも奮闘

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大人になるって、こういうこと?!

 ピンクと白を基調としたキャンディランドの店内。

 

 キュルミ、ポイズンを筆頭に、ドラゴンやデュラハン、妖精に魔女。


 さまざまな種類のゆるキャラグッズが並び、アカーシャやアラクネと同じ歳に見える子供たちと、その保護者。


 千恵子のように、童心を忘れることのなかった大人たちで賑わっていた。


「やっぱり、いつの時代も、人外はいいよねー!」

 

 左手にアカーシャ、右手にアラクネ状態の千恵子が言う。


 全くもって個人的な意見だが、千恵子は人外を、世界すら救ってしまう存在だと信じていた。


 いや――信じてしまっていたというのが、正しい表現だろう。


 初めは、ただ仕草や声が可愛いと思った。

 でも、言動や価値観が人間と違うからこそ、余計に愛着がわいた。


 そして好きになってからは、一人の日々も。

 みんなと違うと感じる時間も。

 耐えてこれた。


(そうだったなー……私にとっての、初めてのお友達だったもんね……)


 かつては、ここにいる子供たちのように「友情」や「可愛さ」を求め信じていた。


 ……なのに、いつの間にか、もっと刺激を求めてしまっていた。


(忘れてたなー、この純粋な感じ……)


 今では好奇心が止まらず、ついに異世界の扉まで開いてしまった。


 結果、ちょっぴりいかがわしい恋愛描写のあるやつとか、同性がいちゃいちゃしてるやつとか。


 趣の深い、でも世間的には“ちょっぴり後ろめたい”あの薄っすい本。


 そういうものが、普通の漫画や小説よりもはるかに手元に多い。


 もちろん、ゆるキャラよりも断然に多いのである。


(……あれ? なんか――)


 純粋にゆるキャラを可愛いと思う存在を前にして、自分の薄汚れた日々と比べてしまったせいか、千恵子は頬がじんわり熱を帯びるのを感じて、


(あ、あついなー……あははー)


 更に、自分を見返すことで観察者羞恥心が発動した。


(って、いかんいかん! この子たちは、未来の私じゃない! もっと凄いところに行ける可能性を秘めているんだ!)


 凄いところ……それが一体、なにを指しているのか、興味は尽きない。


 けれど、これは確かであった。


 拳を握り締め、目をギラつかせるその姿は、もう絶滅危惧種となった熱血系教師――夏休み明けの生徒に空回りするタイプの、それに近しかった。

 

 とまぁ、幼少期時代から、今までを思い出して、感傷に浸り、絶滅危惧種熱血系となった千恵子であったが……。


(まぁ、でも、私ルートだと、本物の人外と過ごせる可能性もあるわけだし……悪くはないような――)


 まるで人外好きの理想を体現しているかのような自分に、ちょっとだけ酔っていた。

 

 アカーシャの自尊心高めマインドを受け続けた結果であろう。


 というか、人外好きからしたら、願ってもない状況なのは確かだ。


 けれど、


(――でも、それって……私から、見たらって感じだよね? アカーシャたちは、違う。そもそも私だって……)


 でも、それは人間である千恵子の視点。

 同時にこの世界に来たのが、アカーシャでなかったら、やっぱりこういう未来は訪れていない。

 


 千恵子が自問自答を続ける最中。



 両腕をグイグイ引っ張る感触があった。


 千恵子が視線を下へ向けると、 


「ちえちえさん……」


「旦那様!」


 フードを深く被り、不安そうな顔をするアラクネと、ムスッとした表情を浮かべるアカーシャがいた。


「ふふっ」


(他の誰かになんて、やるもんか)


 そう、誓う千恵子であった。



 

 ☆☆☆


  


 目を輝かせている人外姉妹を制止したり、ツッコミながら、店内を散策していると、お目当てものがあったらしく、先頭を歩いていたアラクネが足を止めて、


「ちえちえさん……これが、欲しかったやつです……ポイズンちゃんのランドセル……!」


 壁に掛かった薄紫色のランドセルを指差した。


 どうやら、そのポイズンちゃんのランドセルに見覚えがあるらしく、アカーシャも頷いた。


「ほほう……これは、ポイズンちゃんのランドセルではないか! 確か作中で使っておったな!」


「……うん! この回、テレビでやってなかったから、アーちゃんが貸してくれたスマホで調べたんだよ」


「そうか、なるほど……だから、この店を選んだわけだな」


「さすが、アーちゃん……なんでもお見通しだね」


「当たり前である! 我はアラクネの姉なのだからな!」


 その話曰く、このお店を選んだのは、偶然ではないらしい。


 アカーシャに渡したスマホを駆使して、色々と調べた末に、ここを選んだようだ。 


(そらそうだよねー! というか、じゃあ……あれじゃない? もしかして、私、気を遣われた?)


 遣われたのか、遣われていないのかは、アラクネのみぞ知るところだが。


 もし、気遣っているとすれば、千恵子だけではなく、姉であるアカーシャにもだろう。


 なんせ、ゆるキャラを前にして、はしゃぐアカーシャに付き合っているのだから。


(一番、大人じゃん……ラクネちゃん)


 控え目で可愛い上にである。


 見た目は子供、中身は大人な蜘蛛っ子に、自分の不甲斐なさを感じていると、


「ちえちえさん、どうかしましたか……?」


 アラクネが顔を覗き込んできた。


 そして、


「……はっ!」


 突如、小さな体をちょこんと跳ね上がらせた。


 その表情は芳しくない。


 なにか、重大なことを忘れていたかのような表情をしていた。


 同時にその隣で、どこからともなく、脚立を持ってきて、ランドセルを手に取ろうとしていたアカーシャも、「ふぎゃ!」と、恥ずかしい声を上げる。


 けれど、それがバレるのは恥ずかしいようで、何事もなかったかのように、ランドセルを元の位置に戻して、


「ど、どうしたのだ?! 急に大声を出して」


 申し訳なさそうにしているアラクネへと声を掛けた。


(いやいや、なかったことにできないって! アカーシャ……。でも、確かになんで声を出したんだろう?)


 特に驚くこともないし、ここには敵意を持った人間はいない。


 それに関しては、きっとアラクネの方が理解しているはず。


 なのに、声を上げた。


(あれかなー、楽しんでないとか思わせちゃったのかなー? ラクネちゃん、大人しいけど、気遣いさんだし……)


 などと、推測したわけだが、それは残念な結果に終わってしまう。 


「あ、いや、その……お金のこと考えていなかったなって……」


「あ、お金……」


 そうお金である。


 決して間違った気遣いではない。


 あっているし、彼女、アラクネが歳上だということを踏まえれば、より一層腑に落ちる。


 人間としての生もあった。


 半人外になったあとも、引きこもり生活をしていたとはいえ、本をたくさん読んでいた。


 そういった話も聞いた。


 けれど、


(ここに来て……お金か……なんだろう、これは一番くるやつだ)


 早朝から終電まで、休日出勤もこなしてきた。

 友人関係は壊滅的になってしまったが、汗水垂らして、推し活と酒以外に、浮気はしてこなかった。


 仕事に全てをBETしてきたといっても過言ではない。


 だから、千恵子は物的証拠を持って、静かなる抗議をすることにした。

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