アオハル真っ只中?
「ど、どうであるか?」
照れるアカーシャが身に着けていたのは、真紅の色をしたビスチェ風のハイウエストフリルビキニ。
トップスとボトムス部分には、夜空に瞬くようなラメ付きフリルがアカーシャのキュートさを際立たせる。
(なんというか――)
可愛いし、アカーシャの髪色、白い肌にも合っている。
なかなか見ないデザインからして、色んな場所に足を運んで選んだのだろう。
けれど――。
(なーんか足りない……)
可愛さは文句のつけようがない、満点。
だが、子供の姿では色っぽさやかっこよさが足りない。
(そうだ……めちゃ似合っているに勿体ないんだわ!)
千恵子が大人アカーシャを知らなかったなら、そんな気持ちなんて抱くことはなかった。
でも、この水着のポテンシャル、アカーシャ(推し? 人外)の魅力を、最大限発揮する姿を目にしているのだ。
要は潜在意識下に潜むオタクの性である。
だから、どうしようもない。
「うん、かっこいいし、可愛い……でも――」
「でも?」
「ちょっと……物足りないような――」
(し、しまった! 素で反応しちゃった!)
「な、なんか物足りないっ?!」
その問い掛けに対して隣にいる臣下組へチラっと視線を向ける。
「あ、いや、その――」
「ムッ! なかなかに失礼であるなー!! 大人でないとダメということであろう?!」
「そんなことないよ! 今のアカーシャだって、十分に可愛いし、守りたくなる感じだし?」
「フーン、そうであるか……では、これでどうだ?!」
そういうとパチンと指を鳴らし、子供から大人へとその姿を変えた。
お団子ヘアから、長く艷やかな真紅の髪色。
手足は折れるほどに細く、だが出るところはしっかり出ている。
それでいて、いやらしさというより、高潔な雰囲気を感じさせる。
「めちゃくちゃいい!!! とんでもなくいい!!!」
などと、口にしながら前のめりなる千恵子。
普段の死んだ魚のような瞳は、活締めした魚を超えて、大海原を伸びやかに泳ぐ生きた魚そのもの。
眩しいくらいに輝いている。
気遣っていたかと思えば、推し? を前にしたら、その全てをぶん投げて脊髄反射で会話してしまうのだ。
オタクとは、なかなかに業が深く、全く学ばないという証明であろう。
そんな千恵子にアカーシャは、奥歯を噛み締めながら、
「ぐぬぬぬ! やっぱり旦那様も外見で判断するのだな!!」
グイグイ距離を詰めていく。
「いや、違うって! ほ、ほら、推しを前にしたらさ! どうしようもないって気持ち、アカーシャにもわかるでしょう?」
「わかる! 確かにわかるのだ! 我だってマヒルに出逢えたら、忠実に服装を再現して欲しいと思う」
腕を組んでウンウンと頷くアカーシャ。
「で、でしょ?」
(ちょ、ちょろい……)
「だが! 今回は違うのである! だって……我と旦那様は……そんな関係ではないであろう……? 家族……いや、夫婦ではないのか?」
子供の姿とは違い、口元からは発達した犬歯が覗き、白い肌に汗が滴って、艶やかな真紅の髪は潮風に揺れる。
絵に描いたような理想のヴァンパイア。
そんな存在が夫婦と口にした。
してくれたわけだが――。
「そ、その手には乗らないからね!」
出逢った頃とは違って落ちない千恵子である。
とはいえ――。
(あ、危なかったー……てか、整い過ぎだって!)
作画崩壊などありえないほどの整った顔。
その美麗さに胸は高鳴り、顔が熱くなった。
その上、いつもとは違う、鎧で見ることのなかった素肌である。
つまり、控えめに言って――。
「最高かよ……」
ボソッと本音をこぼす。
「ムフフ〜! 旦那様ったら顔を赤くして可愛いのだ〜!」
「るっさい!!! というか、夫婦って”まだ”付き合ってもないし! 」
(……まったく、あの子は“家族”のつもりなんだか“嫁”のつもりなんだか……いや、一緒か?)
「ニヒヒ〜!”まだ”ということは……今後はあり得るということであるな!」
この二人、なかなかに家族っぽい所もあるというのに、どこか友達以上恋人未満な部分もある。
なんというか、つまりは――アオハル真っ只中なのだ。
それを本人たちが認識しているのかは別として。
千恵子たちが、天然アオハルトークを繰り広げていると、猛が駆けてきた。
その姿は潜ったのか、ツルツルピカピカのスキンヘッドに海藻が乗っかり、濡れた肌にはきめ細かい砂が張り付いていた。
その姿はまるでボロ雑巾だった。
そんなボロ雑巾となった猛は、一同の前に辿り着いたかと思えば、
「も、もう……む、りだ……」
と一言残して、砂浜に倒れ込んだ。
「し、死んだ……」
思わず、そう口にする千恵子であった。




