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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第5章:伝わる気持ち

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アオハル真っ只中?

「ど、どうであるか?」


 照れるアカーシャが身に着けていたのは、真紅の色をしたビスチェ風のハイウエストフリルビキニ。


 トップスとボトムス部分には、夜空に瞬くようなラメ付きフリルがアカーシャのキュートさを際立たせる。


(なんというか――)


 可愛いし、アカーシャの髪色、白い肌にも合っている。

 なかなか見ないデザインからして、色んな場所に足を運んで選んだのだろう。


 けれど――。


(なーんか足りない……)


 可愛さは文句のつけようがない、満点。

 だが、子供の姿では色っぽさやかっこよさが足りない。


(そうだ……めちゃ似合っているに勿体ないんだわ!)


 千恵子が大人アカーシャを知らなかったなら、そんな気持ちなんて抱くことはなかった。


 でも、この水着のポテンシャル、アカーシャ(推し? 人外)の魅力を、最大限発揮する姿を目にしているのだ。


 要は潜在意識下に潜むオタクの(さが)である。


 だから、どうしようもない。


「うん、かっこいいし、可愛い……でも――」


「でも?」


「ちょっと……物足りないような――」


(し、しまった! 素で反応しちゃった!)


「な、なんか物足りないっ?!」


 その問い掛けに対して隣にいる臣下組へチラっと視線を向ける。


「あ、いや、その――」


「ムッ! なかなかに失礼であるなー!! 大人でないとダメということであろう?!」


「そんなことないよ! 今のアカーシャだって、十分に可愛いし、守りたくなる感じだし?」


「フーン、そうであるか……では、これでどうだ?!」


 そういうとパチンと指を鳴らし、子供から大人へとその姿を変えた。


 お団子ヘアから、長く艷やかな真紅の髪色。

 手足は折れるほどに細く、だが出るところはしっかり出ている。


 それでいて、いやらしさというより、高潔な雰囲気を感じさせる。


「めちゃくちゃいい!!! とんでもなくいい!!!」


 などと、口にしながら前のめりなる千恵子。


 普段の死んだ魚のような瞳は、活締めした魚を超えて、大海原を伸びやかに泳ぐ生きた魚そのもの。

 眩しいくらいに輝いている。


 気遣っていたかと思えば、推し? を前にしたら、その全てをぶん投げて脊髄反射で会話してしまうのだ。


 オタクとは、なかなかに業が深く、全く学ばないという証明であろう。


 そんな千恵子にアカーシャは、奥歯を噛み締めながら、

 

「ぐぬぬぬ! やっぱり旦那様も外見で判断するのだな!!」


 グイグイ距離を詰めていく。


「いや、違うって! ほ、ほら、推しを前にしたらさ! どうしようもないって気持ち、アカーシャにもわかるでしょう?」


「わかる! 確かにわかるのだ! 我だってマヒルに出逢えたら、忠実に服装を再現して欲しいと思う」


 腕を組んでウンウンと頷くアカーシャ。


「で、でしょ?」


(ちょ、ちょろい……)


「だが! 今回は違うのである! だって……我と旦那様は……そんな関係ではないであろう……? 家族……いや、夫婦ではないのか?」


 子供の姿とは違い、口元からは発達した犬歯が覗き、白い肌に汗が滴って、艶やかな真紅の髪は潮風に揺れる。


 絵に描いたような理想のヴァンパイア。


 そんな存在が夫婦と口にした。


 してくれたわけだが――。


「そ、その手には乗らないからね!」


 出逢った頃とは違って落ちない千恵子である。


 とはいえ――。


(あ、危なかったー……てか、整い過ぎだって!)


 作画崩壊などありえないほどの整った顔。

 その美麗さに胸は高鳴り、顔が熱くなった。


 その上、いつもとは違う、鎧で見ることのなかった素肌である。

 

 つまり、控えめに言って――。


「最高かよ……」


 ボソッと本音をこぼす。


「ムフフ〜! 旦那様ったら顔を赤くして可愛いのだ〜!」


「るっさい!!! というか、夫婦って”まだ”付き合ってもないし! 」


(……まったく、あの子は“家族”のつもりなんだか“嫁”のつもりなんだか……いや、一緒か?)


「ニヒヒ〜!”まだ”ということは……今後はあり得るということであるな!」


 この二人、なかなかに家族っぽい所もあるというのに、どこか友達以上恋人未満な部分もある。


 なんというか、つまりは――アオハル真っ只中なのだ。


 それを本人たちが認識しているのかは別として。


 千恵子たちが、天然アオハルトークを繰り広げていると、猛が駆けてきた。


 その姿は潜ったのか、ツルツルピカピカのスキンヘッドに海藻が乗っかり、濡れた肌にはきめ細かい砂が張り付いていた。


 その姿はまるでボロ雑巾だった。


 そんなボロ雑巾となった猛は、一同の前に辿り着いたかと思えば、


「も、もう……む、りだ……」


 と一言残して、砂浜に倒れ込んだ。


「し、死んだ……」


 思わず、そう口にする千恵子であった。

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