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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第4章:繋がる縁

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ヴァンパイアVS魔女②

「な、な、な、にがどうなっているの?!」


 よくわからない状況に尻もちを着き、動転しまくる千恵子。

 それはいつもなら動揺することのない、愛美も同じであった。


「わ、私にもわかりません! ビュンって音が鳴ったら、ブワッって風吹いて――目を開けたら、こうなっていました……」


「だよね……」


(よくわかんないけど、揉めているわけだし……まずは、理由だよね……なんでこんなことをしたのか聞かないと……)


「アカーシャ――」


 その真意を知る為、千恵子は声を掛けようと試みたが――。


「二度目は許さぬ!!!」


 アカーシャがそう言い放った瞬間。


 動きを止めていたアラクネの糸は弾け飛び、そこから怒涛の連撃が繰り出された。


 打撃音が腹の奥まで響く。


 猛も一体なにが起きたのか理解できないようで、キルケーの後ろでしゃがみ込んでしまった。


「うわっ! な、なんなんだ!! なんなんだよぉーー!!!」


 彼が頭を抱えようとも叫ぼうとも、その苛烈な打撃は止むことはない。


(そりゃそうなるよね……普通……)


 千恵子は、猛の置かれた状況に一瞬だけ、新居の状態を忘れて同情する。


 一方で、鋭い眼光で射殺さんとするアカーシャは、


「フッ、情けない」


 といった嫌味を口にする。


 しかし、猛には、その声が聞こえていないようで、その場でしゃがみ込み背中を丸めたままだ。


 その間も、アカーシャは角度と変え、テンポを変え、明確に命を獲ろうとする動きで襲いかかる。


「こ、これはなかなかに堪えるかも……ね!」


 キルケーはどうにか対処しようと試みるが、庇いながらの反撃は厳しく、体中に切り傷と鮮血が滲み、次第にセーラー服が裂けていく。

 

 それどころか新居自体にも多大な被害をもたらしていた。


 玄関先の壁には、無数の亀裂が入り、今にも崩れ落ちそうな状態だ。


 手前にあったシューズボックスも砕け、その左側にあった姿見鏡も割れて、床には靴と鏡の破片、壁の散乱していた。


「引っ越したばかりなのに……」

 

(てか、補修するだけで、どんだけ掛かるんだろう……保険適用範囲かな?)


 その後を想像して、肩を落とす千恵子。


 魔法の存在をすっかり忘れてしまっている。


 だが、持ち前の割り切りの良さで、切り替えた。


(って、落ち込んでいる場合じゃないよね! 早く止めないと!)

 

「ちょ、ちょっと――」


 でも、彼女がどれだけ声を上げようとも、戦いは一進一退。二人とも一步も譲らない。


 けれど、キルケーが少しずつ押され始める。

 

 アカーシャは攻撃を手を緩めることはなく、どんどん加速していく。


 一方キルケーは猛への攻撃も捌きながらの反撃、自然と手数が減ってしまう。


 もしかして、疲れからだろうか。

 ここから、防戦一方になり体勢を崩して膝を着きそうになる。


 そこに情け容赦なく打ち下ろしの右ストレートを叩き込もうとするアカーシャ。


(あのままじゃ――キルケーさんが!)


 絶対絶命かに思えたが――。


 キルケーはなんとか踏ん張り、それを寸前の所で躱すと、 


「ぐっ、これじゃすぐダメになっちゃうかっ! じゃあ――」

 

 と言い放ち、どこからともなく、ピンク色の液体入り瓶を取り出してそれを飲み干す。


「えっ?! な、なに?! 治った?! もしかして魔女の秘薬的なやつ?! さすがにチート過ぎない?」


 みるみるうちに傷が治っていく。

 それは夢にまで見た、あの秘薬(エリクサー)のような効能だった。


「きっと秘薬! いやエリクサーですね! つまりはロマンです!!」


「確かにロマンかも……エリクサーだもんなー。使えばMPもHPも回復するんだよねー」


 愛美の言葉に昔プレイしたゲームを思い出し頷く千恵子。


「いや、違うでしょ! 今それどころじゃないよね!?」


「あははー! まぁ、当然ですよねー!」


 千恵子が愛美に大きな声でツッコもうとも、やはり二人には届かない。


(だめだ……ぜんぜん、こっちに向いてくれない)


 目を輝かせる愛美と、肩を落とす千恵子の視線を受けても、アカーシャとキルケーは止まらなかった。


「これで振り出しだね〜♪」


「小癪な……回復薬か!」


 アカーシャの発言に、見るからに落胆する千恵子。


「エリクサーじゃなかった……」


 それに続く愛美。


「残念です……」


 そんな残念極まりない二人に、反応することなく、アカーシャとキルケーの戦いは続いた。

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