ヴァンパイアVS魔女③
「そ〜♪ 僕特製のどんな傷も一発で治っちゃう秘薬だよ〜! で、こっちも変えないとね!」
そういうとキルケーの体が光出し、収まった時にはローブ姿となっていた。
「じゃ、今度は……」
トンガリ帽子を被り直し、全身に力を込めたかのように見えた……瞬間。
右手に炎が顕現し、左手に風が渦巻く。
「こっちから――だね!!!」
地面を蹴り全身のバネを使ったかのような左フックを皮切りに、炎と風を纏った拳から繰り出される、怒涛の連打がアカーシャを襲う。
受けるだけではなくて、横に流したり、持ち前のスピードで活かしヒットアンドアウェイで応じるアカーシャ。
再び拮抗する両者。
玄関先はもはや瓦礫の山、もう戦場のようだ。
(この戦いどうすれば、終わるんだよー……誰かどうにかして……)
目の前に広がる惨事に頭を抱えて、ヒーローを求める千恵子。
けれど、当然そんなものは現れるわけもなくて――。
王様と魔女は、同時にお互いの手を掴んだ。
「おい! お前こそ……どういうつもりだ……? 我の旦那様を傷つけようとした者を連れてくるとは――」
「これは、ちゃんと理由が――」
「そんなものは知らぬ!」
キルケーがなにか言おうとしたが、すぐさま一蹴し、アカーシャはその手を振りほどいて、
「というか、一番の問題は貴様だ! キルケーの後ろで情けない。よいか? あの時、貴様を殺さなかったのは、旦那様がそう言ったからであるぞ? 公園での一件を忘れているとでも思ったのか……? 旦那様の胸ぐらを掴んだあの時を――」
グイッと距離を詰め、後ろで大きな体を丸ませていた猛を睨みつける。
あの時(公園)の因縁を忘れられないのか、アカーシャの瞳には怒りの炎が宿っていた。
すると、その声に覚えがあったのか、猛はゆっくりと振り向いた。
「ん……? って、お前はあの時の魔法少女じゃねぇか!」
「き、貴様……夜の国の王である我を魔法少女呼ばわりか……謝る機会を与えてやったというのに……」
そう告げた瞬間、もう一度距離を取って、
「もういい……消してくれる!!!」
そこから深く息を吸い込むと拳を後ろに引いて――繰り出した。
それは先程の速さとは段違いだった。
直後――ブワァァン!! と衝撃波が巻き起こり、部屋中の硝子や陶器など、共振しやすい物は次々と粉々になっていき、いつの間にか激しさを増す戦いにリビングも瓦礫の山と化していた。
それが突風に乗って、ここにいる全員に容赦なく降り注ぐが――。
「あ、危ない……」
アラクネが玄関先から、千恵子と愛美がいるリビングに移動し、その手から紫色に光る無数の糸を蜘蛛の巣を張るように空間へ広げて、二人を覆う。
「いい判断です! アラクネ様……しかし――これでは」
アラクネの前、フリーディアは本気モードになったアカーシャを止める為、廊下でサーベルを突っ立て耐える。
けれど、今にも吹き飛ばされそうになっていた。
すると、膝を着き、途方に暮れるフリーディアへアラクネは近づいて、
「任せて……」
そう声を掛けると、紫に輝く糸で地面と足を縫い合わせ、同時に部屋の至る所に糸を飛ばしていき、
「これで……飛ばされないよ……あと結界も――」
瞬時に縫いつけていった。
壁全体に広がった無数の糸は、まるでプロジェクションマッピングのように幻想的な輝きを放つ。
「縫合完了……です……」
(さっきより、破片が飛んでこないや……建物の縫ったみたいな感じかな? なんにしても、ラクネちゃん、凄い……! けど、これでもあの二人には近付けない――)
心の内で呟く千恵子の言う通り、この間にもアカーシャとキルケーの争いは徐々に激しくなっていた。
その周囲の壁はヒビ割れて、鏡の破片、転がる端材、砕けたシューズボックスと散乱する靴。
ありとあらゆるものが散乱し宙を舞う。
最初は、それを跳ね除けてながらの、超近距離&魔法らしき物を纏っているとはいえ拳のみの接近戦。
それが今では、距離を取って戦いたいキルケーVS距離を詰めて戦いたいアカーシャといった構図になっていた。
まず、キルケーがローブ下から取り出した杖を用いて魔法を発動させる。
直後、緑に光り輝く杖。
同時に、その先端から緑のオーラが放たれて空中を駆ける全ての物に繋がっていき――次の瞬間。
一段と強く光を放った。
そこから、狙いを定めたようにアカーシャへ向けてギュン! と風切り音を立て、四方八方から襲いかかる。
対して、アカーシャは魔法で分身を作り出し、その分身が四方から襲いかかる緑のオーラを受け止めると、一気に本体が距離を詰める。
(こ、こんなの……どうしろっていうんだよ!!)
内心でぼやく千恵子。
全くその通りである。
頼みの綱だった人外たちでさえ手が負えないのなら、千恵子ではどうすることもできない。
忘れそうになるかもしれないが、彼女はいたって普通の――いや、もしかしたらちょっと普通じゃない――でも、とにかく人間なのである。
つまりは、この状況下で下手に止めに入るのは、死を意味するのだ。
千恵子は深く、深いため息を吐いた。
(となると、このまま自然にほとぼり冷めるまで、待つっきゃないってこと? いや、それっていつよ……)
そこに誰かが入る余地は残されていなかったのだが――。
「ま、待ってくれ! あの時は俺が悪かった……すり寄ってきた犬を可愛がっていたら、イジメんなとか言われて頭にきてしまってよ……ホントすまねぇ……仲間も居たからよ……引っ込みもつかなくて……」
まさかまさかの、猛がキルケーの前に飛び出て、謝罪したのである。
「キルケーはなんも悪くねぇ。悪いのはすぐカッとしちまう俺だ! そいつは俺の趣味を認めてくれたいい奴なんだ! だから、頼む、許してくれ!」と言い放った。
その上、ツルツルの頭をしっかりと下げていた。
(おお……すんごいツルツルだ! どうやって手入れしているのかなー……って、そんな場合じゃない!)
「えっ?! じゃあ、悪いのってさ、私じゃない?!」
猛の言葉に千恵子が思わず本音を口にした。
その声に全員の動きがピタリと止まって、千恵子に視線が集まる。
それにより、事態は収束するかに思えた。
しかし……ここでキルケーがアカーシャを逆撫ですることを口にしたのだ。
「アカちゃん、鈍ったんじゃないの〜?」と、こうしてアカーシャは再度ブチギレしまい、今に至る。
かつて師事を受けていたからこその反発だったのかもしれない。
例えるなら、子供扱いされたことへの苛立ちといったような感じだろう。
真意はわからない。
けれど、これは事実。
依然として話を聞かず、声を掛けようと無反応。
どうしても争う姿勢を崩さない二人に、とうとう、女性山本千恵子がブチギレたのである。
「もう……いい加減にしろぉーーーーー!!!」
ビリビリと空気が震えるような大声が鳴り響く。
もう我慢の限界だった。
戦場みたいなこの家を何とかして、早く日常に戻したい。
その強い思いが、千恵子を突き動かしたのである。
戦場のようだった、その場の空気が一瞬止まった。
社会的に〜とか、ご近所問題は〜など、もはや頭になかった。
あるのは、この大惨事を起こした困った王様と、困ったインベンターから格上げとなった、トラブルメーカーの魔女に対する怒りだけ。
いや、猛との一件を勘違いした自分にへの憤りも混ざっていた。
だが、それはそれ! これはこれなのである。
今、一番にすることは、この争いをいち早く止めて、半壊寸前となった部屋を修復すること。
この二つだけは絶対に譲れない。
だから、家主千恵子は反論の余地すら与えない勢いで、畳み掛けることにした。




