表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第2章:トラブルは突然に

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/129

騎士現る!?

 少しずつ、人恋しくなる冬の季節は過ぎゆき、春の訪れを感じられる暖かな休日の昼下がり。


 1LDKの築年数二十年オーバーな家賃6万円の古びた……よく言えば赴きのあるマンション。


 二〇四号室にて。


 そこは二ヶ月前とは違って、洗った食器はしっかりと棚にしまわれており、リビングに脱いだ服や雑誌、漫画の類も見当たらない。


 出来る嫁? アカーシャが奮闘した結果である。


(まさか、ここまで出来ちゃうとはねー……)


 そう心の内で呟く千恵子は一人、ゆったりめなヴァンパイア柄のパーカー姿で、リビングのソファーに寝転びながら、漫画や小説を読むといった充実した時間を過ごしていた。


(まぁ、おかげでのんびり出来ているんだけど)


 彼女は読んでいた漫画をテーブルの上に置いて、ソファーに背面からダイブした。


 そのまま、ふと目を閉じてみる。


 開けた窓から爽やかな風が入り込んで、カーテンの揺れた音が聞こえて、その風が頭からつま先まで撫でてくる。


(にしても、静かだなー……)


 緩やかに流れていく時の流れ……アカーシャが来るまでは、こういった時間が一番のご褒美だった。


 休日前の仕事終わり、行きつけの居酒屋で愛美と人外談議で大盛り上がりして、それを終えたらコンビニで向かい酒用の酎ハイや肴なんかを買う。


 そこから家に着いたら、項垂れるようにお風呂へ、入浴を終えたらリビングで一人、好きな人外の小説や漫画を読みながら向かい酒を始め、寝落ちをキメる。


 そして翌日の昼下がりに目を覚ましからの、ソファーで一日中ごろごろダラダラ。


 これで良かった……けれど。


(なんだろう……この変な気持ち……)


 ただ静かに流れる時間では満たされない。


 どこか物足りなさを感じてしまう。


 大学に進学することなく、高校を卒業した時から、始まった一人暮らしだった。


 ただ、なんとなく早く働く方が社会の役に立てるとか、仕事をなりふり構わずに頑張る方が立派とか、そんなことを信じて、今の今まで生きてきた。


 別にそれは変わらない。


 それなのに……。


 掃除機と格闘するアカーシャ、電子レンジよりも自分の方が便利だと言い張って、魔法で食べ物を温めようとして消し炭にしてしまうアカーシャ。


 まるで母親のように口を尖らせて、「一度着た服は、洗濯機に入れるのだ!」と言いながら、汗のついたシャツを嗅ぐアカーシャ。


 YouTubeで時短レシピを見つけてきて、その動画を何度も、何度もリピートするアカーシャ。


 怒られたら凹む癖に、千恵子が名前を呼ぶと、誰よりも笑顔を咲かせるアカーシャ。


 瞼の裏には、色んな表情を見せるアカーシャが焼き付いて、


「私って実は賑やかな方が……好きなのかもね……ふふっ」


 思わず、笑みがこぼれる。


(けど、やっぱり……一番いいと思うのは、あの大人バージョンだけどね……月が輝く夜をお姫様抱っこ、見上げれば整ったご尊顔! 思い出しただけで供給されるわ!)


 せっかくのいい話を台無しにする千恵子である。


(でも、力を使いすぎたとか、なんとかで……あの後、結局子供の姿になったんだよねー……)


 独走蝙蝠をけちょんけちょんにした後、家に着くとアカーシャは色香漂う大人モードから、見慣れた子供モードへと姿を変えていたのである。


 それどころか、


(転移魔法使わずに空を飛んで帰ったのも気になるし……なにかあったのかな?)


 わざわざ、隠行の魔法を使って家まで、飛ぶことを選んだのだ。


 まるで千恵子と空を翔けることを楽しんでいるかのように、笑みを浮かべながら……。


 もちろん、全てアカーシャの恋煩いが引き起こしたものである。


 けれど、千恵子がそんなことに気付くわけは当然なくて、

 

(それに、初めて会った時は血を使いすぎたら、どーのって言ってたはずなのに……なんか色々と引っかかるなー)


 色々と、違う方面に思考を巡らせていた。

 

 こんなふうに、彼女がアカーシャに興味(無意識)を持ち始めていると、なにかタイミングを見計らったようにインターフォンが鳴った。

 

 


 ☆☆☆

 



「はーい!」


 千恵子を返事をして立ち上がり、玄関先の立鏡(身だしなみ用にと、アカーシャが置いた)で寝癖なんかを軽く直して、ドアノブに手を掛け開けた。


「は、は、はい……?」


 扉の向こうに立っていた人物? に固まる千恵子。


 アカーシャは鍵を持っている。

 なので、違うということはわかっていた。

 ならば、休日に訪ねてくる人は、三択。


 休日に暇を持て余した愛美、宅配業者、そして何かしらの勧誘である。


 しかしながら、目の前いる人物? はそのどれにも当てはまらない。


 これがアカーシャと出逢う以前の千恵子であれば固まって、状況を飲み込めた直後、思いの丈を叫んでいただろう。


 だが、こういった出逢いは二度目なのである。


 重要なことなので、もう一度言おう。


 二度目なのである。


(いや……この流れっていうか、百パー、アカーシャの知り合いの方だよね……宅配業者が鎧着てるわけないし)


 苦笑する千恵子の前には、煌めく白銀の鎧を纏い、腰には白銀のサーベルを携えた、まるで中世ヨーロッパの騎士が立っていた。


 しかも、それだけではなくて、


(頭も、首もないし、首元から、青白い炎も出ているし……そもそも頭部をラグビーボールみたいに抱えているし……)


 誰がどう見ても人間ではない……存在、つまりは人外。


 そしてこの特徴からするに……。


(どう考えてもさ……首無し騎士(デュラハン)だよね?)


 その察し通り、目の前にいるのはデュラハン……主にヨーロッパで語り継がれる死の妖精であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ