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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第2章:トラブルは突然に

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黒カビVSヴァンパイアの仁義なき戦い

 時間は進み、お昼過ぎ。


 夕飯の買い出し前に、トイレ掃除と風呂掃除を終わらせようと取り掛かっていたが……アカーシャは浴室の四隅を睨みつけて、


「黒カビか……」


 深い溜息をついていた。


 トイレ掃除は完璧だった。

 自堕落な千恵子であっても、使う度に汚れが目に入るからである。


 だが、風呂は違った。

 いや、掃除自体はしていたのだろう。

 良く見れば、その名残りはあって、手に触れる所や桶に椅子、そして鏡はヌルヌルしておらず綺麗であった。

 

 けれど、千恵子は眼鏡をかけているのだ。


 それがどういうことなのかは、言うまでもないだろう。


 いくら隅々まで掃除をしたくても、曇るのだ。


 あの分厚い牛乳瓶のような眼鏡が。


 そうすると、必然的に眼鏡を取るしかなくて、結果こうなる。


(旦那様、見えなかったのであろうなー、まぁ、そういう完璧でないところも魅力だとは思うがな♪)


「ムフフッ」


 見えない中、必死に目を凝らしている千恵子の姿が浮かび、表情が綻ぶ。


(しかしながら、こやつ、かなり厄介であるからな……何かいい方法はないだろうか?)


 そう、いくら微笑ましいと感じても、黒カビが厄介なことに変わりはない。


 それは不死の存在であり、夜の国の王、真祖の血を引くヴァンパイアであっても、同じだった。


 そもそも、アカーシャは王族であって、黒カビというものと対峙するのも、この世界に訪れてからであった。

 

 ということは、当然、対黒カビのノウハウなど持ち合わせているわけもなく、頭を悩ませていた。


 いたわけだが……アカーシャは、ふと、少し前にした荒療治を思い出す。


(前回のように、ひたすらに擦るか……? いや、それは悪手であるな――)


 少し前にやったことは、物理的に黒カビを消滅させることであった。


 分身して、取れるまで、ひたすら擦りまくるというアカーシャらしい脳筋プレイで。


 けれど、それが悪手だったのだ。


 何がなんでも黒カビを滅ぼしたいアカーシャ、そして胞子を飛ばしどうにかして生き残ろうとする黒カビ。


 仁義なき戦いを続けること数十分。


 まさかまさかの、黒カビが『最後の抵抗』として胞子を(ヴァンパイアであるアカーシャにしか見えない)大量にまき散らしたのだ。


 それにイラッときたアカーシャが浴室自体をぶっ壊そう大人へと姿を変えた……けれど、千恵子に怒られる未来が見えて、攻撃を躊躇ってしまった。

 

 確かに、その戦いの勝者は、アカーシャとなった。


 しかし、初めに行なった脳筋プレイで、すでに防水の為に付けられていたパッキンがゴムの部分は摩擦で溶け、樹脂の部分にいたっても、歪み変形するといった見るも無惨な姿になったのである。


(今、思い出しても、恐ろしいのである……)


 その後に起こった記憶を芋づる式に思い出して、青い顔をするアカーシャ。


 それはー応、魔法で元の状態に戻しはした後のこと。


 掃除に時間が掛かりすぎていることが、心配になったのか、アカーシャに声を翔ける為に、浴室へと入った千恵子が違和感を覚えて、


「……あれ? なんかさ、妙に綺麗じゃない? まるで新品って感じがするんだけど、もしかして……アカーシャ、また何かやらかした?」


 疑いの目を向けた。


 心を見抜くような鋭い眼光で。


 結果、アカーシャはその眼光に気圧されてしまい、「し、しておらぬぞ!!!」と視線を逸らすといった、挙動不審な受け答えをしたのである。


 そして、案の定、全てがバレてしまい、そこからは一方的な流れとなった。


 「この辺の常識を身に付けないとダメ!!」と、死んでいたパッキンを指さす千恵子、それを受けて肩を落とすアカーシャといったように。


(……で、あれば――)


 アカーシャは、思いついたことを試すことにした。


 それを実行する為に、フリルショートパンツのポケットから、子供用スマホを取り出し、スマホに魔法陣を施して電話を掛けた。


《久しぶりであるな、キルケー》


《ああ、久しぶりだね! アカちゃん、急にどうしたの?》


 アカーシャのことをアカちゃんと親しげに呼ぶキルケーという人物。


 薬草学や薬学に対して右に出る者は居ないほどの知識を有し、アカーシャの治めていた夜の国にも、どの国にも肩入れしない、深い森に一人住まう変わった魔女である。


 また、一部の人間からは、その外見的特徴な白金色の長髪から、髪麗しい女神とも言われている。


 ということは……。


《黒カビの退治方法を教えてくれんか?》


 そう、アカーシャが思いついたことは、専門家に聞くということだったのだ。


《黒カビ……黒カビかぁ〜、カビはね、熱湯なんかを掛けてタンパク質に変化させちゃうとすぐ落ちるんだけどねーって、アカちゃんにはわかんないか》


《ム……ムッ、け、決して! わからぬわけではないが、もう少し砕いて伝えてくれた方が誰でも覚えやすいと思うぞ?》


《んふふ♪ わかったよ! じゃあ、ボクが誰でもわかるように伝えるね♪ えーっとね――》


 そこから、アカーシャは黒カビの正しい討伐方法を教わったのであった。


 


 ☆☆☆


 


 キルケーから教わった黒カビ退治方を行なったことにより、浴室のパッキンに根を張っていた黒カビは綺麗さっぱり、いなくなっていた。


「ほぉぉぉーーー! 完璧ではないかっ!!」


 アカーシャはピカピカになった、パッキンに目を輝かせる。


 そして、その手に持っていた、塩素系漂白剤【カビバスター】を賞賛した。


「にしても、この塩素系漂白剤とやら、なかなかに凄いな……人間もやるではないか! これなら、ラフレシアなんかも倒せそうだな」


 ラフレシア、アカーシャの世界で甘い匂いを放って、誰これ構わず喰らおうとする魔物の一種である。厳密に言うと植物なので、カビバスターが本領発揮できるか不明なのだが――とにかく、アカーシャがキルケーに教わったのは、塩素系漂白剤や熱湯、そして換気という黒カビの弱点。


 そしてなぜ弱点なのかということであった。


 元々、素直で育ちが良い為(多少の? ズレはもうどうしようもない)その知識をすぐに吸収し見事、黒カビを討伐した。


 つまりは、ここにカビキラー、アカーシャが爆誕したわけである。


「魔法を使わずともこの世界の“常識”で勝ったわけであるから……我が凄いのではないか?! フッ、さすが我!」


 カビキラーアカーシャは、ニヤリと犬歯を光らせた。


 もやは定番となった勘違いポンコツムーブであろう。


 そんなことはわけ知らず、彼女は明るい笑顔を咲かせて、


「よし、あとは夕飯の準備であるな! 冷水で流して拭き取ってから、ゆくか!」


 夕飯の買い出しに向かっていった。


 背中に翼を生やしていないのに、まるで生えているかのような軽快なステップを踏みながら――。



 ☆☆☆

 


 この後、帰宅した千恵子は綺麗になった浴室に感心したような表情を浮かべつつも、しっかりとツッコミ。


「え、めっちゃ綺麗じゃん?! すんご! でも、新品っぽい……? もしかしてまた壊した?」


 対して、アカーシャはわちゃわちゃと慌てながら、自らの手柄を伝えた。


「ち、違うぞ! 今回は魔法なしの我の実力である! あ、カビバスターも使った……な……ふむ」


「そ、お疲れ様。ありがとうね」


 素っ気ない返事をしながらも、千恵子は優しく微笑みアカーシャの頭を撫でる。


 不意打ちからのギャップ、ダブルパンチ。

 いや、そこに想い人という強力な要素が加わるので、そう、トリプルパンチという表現が適切であろう。


 それを受けてしまったアカーシャは、


「う、うむ……喜んでくれたなら、良かったのである」


 顔を赤く染めてしまい、ノックダウン寸前となってしまった。

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