王剣
フウマに吸い寄せられるように風が彼のもとに集まる。彼のスキルは風を操る力のようだ。風は五つの塊に別れて人の形になっていった。さしずめ風人間といったところだろうか。
「凄い。あのレベルで風を操るなんて……!」
風を操るカノンが驚いているんだからフウマの風を操る技術は相当なレベルなのだろう。そういえば妖魔族の強みは能力値の高さだと聞いたことがある。
「大丈夫なんですか? あの人?」
エリーが僕に聞いてくる。
「うん。バフがかかっている間は、あいつは無敵だよ。あいつのスキルは人間族秘伝のスキルだ」
フウマが風人間と共にバビロンに襲いかかる。対してバビロンは余裕たっぷりの表情で……、
「王剣」
するとバビロンの前に突然大剣が現れ、大地に刺さった。彼は大剣を引き抜いて空を切る。
「風よ。俺に従え」
バビロンがそう言うとフウマの周りにいた風人間たちが消えた。
「な……!」
フウマも驚きを隠せないようだった。
「どうなってるの!」
「バビロンのスキルだよ。バビロンのスキルは人間族秘伝スキルの一つ【王剣】。ある条件下でのみ扱える剣を召喚できる。そして、その剣で切ったものを自由自在に操れるんだ」
バビロンは今風を切ったのだ。そうすることで風を支配下に置いた。相変わらず恐ろしいスキルだ。
バビロンはフウマとの距離を詰め彼に切りかかる。フウマはバビロンの攻撃を刀で受けるが、そのまま弾き飛ばされてしまう。
「さて、降参してくれると助かるんだけどね」
相手を見下した表情を浮かべながらバビロンは言う。
「断る! 俺はA級にならなきゃならない! ムテキさんを救うためにな!」
フウマはバビロンを睨みながらそう叫ぶ。
そうか。この人はムテキさんを……
「ゴクギ!」
フウマの身体から空気爆発が起こったような音がして、会場全体に黒い霧が発生する。
これがフウマのゴクギ。相手の視界を奪えるのか。でもバビロンのスキルの前では霧なんて無意味だ。
と思っていたが黒い霧は全然晴れない。観客も試合の進行が見られないから退屈だろう。
しばらく経って霧が晴れた。
まずぼんやりと見えたのは虚ろな瞳のフウマだ。それから無様にも地面に這いつくばるバビロンが見えた。
「ク、クソが。なんで王剣が使えない!」
バビロンは剣を立てて、立ち上がろうとする。
まさか……!
「な、なんで俺のステータス値が下がってる! どういうことだ!」
息を荒げながらバビロンはそう叫ぶ。
「何がどうなってるの?」
カノンが首を傾げる。
「王剣を扱う条件はステータス値が一万以上あること。たぶん、僕のバフが切れて王剣が使えなくなったんだ」
僕がカノンにそう説明する。恐らく僕の仮説は当たっている。最悪のタイミングでバフ切れがきたものだ。
這いつくばるバビロンにフウマは容赦なく切りかかる。
「ひっ……」
バビロンはなんとか剣で受けるが吹き飛ばされる。
「まさか……! まさかぁああ!」
叫びながらバビロンは僕を見る。
「ウロナ! 俺にバフをかけろ!」
「あの人今さら何言ってるんですか?」
エリーが冷たい顔つきでバビロンを睨む。エリーさん。怖いです。
「いや、バビロンにバフをかけるよ」
「あんな奴ほっときなさいよ。それにバレないとは思うけどルール違反よ」
カノンもエリーと同意見のようだ。しかも第三者の介入は重大なルール違反だ。それでも、あいつは否定したけどバビロンは僕の……、
「この勝負は負けでいい。後で謝りに行くよ。でもあいつは友達なんだ。友達がやられるところなんて見たくない」
僕はバビロンにバフをかけることにした。が、忘れていた。僕のスキルが同時に使えるのは三人まで。一度三人にバフをかけたら一日誰にもバフを使えない。
昨日、僕は対抗戦でゴクギを使用するため、三名のギルドの人に僕のバフをかけた。つまり……、
「バフ使えないや」
「ウロナ! なにやってる!」
バビロンは必死に叫ぶ。
「なぁ、頼むよ! 俺ら友達だろ! ……いや、お願いします! バフをかけてください!」
高圧的な態度をとっていたらバフをかけてもらえないと思ったのか、バビロンはいきなりこびへつらってきた。
フウマがバビロンの前に立ち、彼の首筋に刀を当てる。
そこでバビロンはまさかの失禁をしてしまう。これには観客もドン引きだ。カノンもエリーもぎょっとしていた。
「こ、降参します」
バビロンは今にも泣きそうな瞳でフウマを見ながらそう宣言した。
こうして次鋒戦の決着がついた。




