最後の一人は?
アイとマキの家はS級冒険者と王宮騎士団隊長の夫婦に似つかわしくない質素な家だった。
必要最低限のものしかないが、部屋の窓枠から花畑は絶景だ。
「良い眺めでしょ? 私が、花が好きだって言ったらわざわざ彼が探してくれたの」
花畑を眺める僕にマキは微笑みながら言ってきた。彼とはアイ・スプリングのことだろう。
「彼ってアイさんのことですよね?」
「知ってるの?」
「カンバラさんから聞きました」
「あんまり言いふらさないでって釘を刺してるのに。さてはここ教えたのもカンバラちゃんね」
マキは不満そうに嘆く。
「殺しますか?」
いきなり物騒なことを言い出すのはポニーテールの女だ。名前はグロウ・アイシン。さっきマキが紹介してくれた。
「殺さない。アイくんの友達だからダメ」
「で、そのアイさんはどこにいるんですか?」
早く話を終わらせたのか、カノンがマキに尋ねる。
「今は仕事に行ってる」
「へー。どんな依頼で?」
「依頼? あー、冒険者の仕事はしてないわ。街で力仕事してる」
最初は首を傾げていたが、僕の言葉の意味がわかったのかマキは頷きながら、そう教えてくれた。
「何ですか? わざわざ力仕事なんてしなくても冒険者の仕事をした方が稼げるんじゃ?」
よっぽど疑問に思ったのか、エリーが会話に入ってくる。
「そうね。でも私に心配かけたくないからってアイくん冒険者やめちゃったの」
そんな理由でS級冒険者が冒険者をやめたのか。S級クラスともなれば大金が入る仕事だってこなせるはずなのに。アイさんはどれだけこの人が好きなんだ?
「アイくんに何か用事?」
「はい。実は——」
僕はマキに対抗戦のこと、アイをスカウトしに来たことを話した。
「なるほど。うーん。グロウはどう思う?」
「無理でしょうね。アイさんは極力ギルド関係のことには関わらないようにしていますし。しかも対抗戦当日はマキお嬢様とのデートの日です。アイさんがお嬢様との約束を無下にするとは思えません」
グロウは長々と語るが要するに無理ということである。
「マキさんからお願いすることはできないですか?」
こんな厚かましいことを言うのはカノンしかいない。
「それは私がしたくない。……私、病気でね、この通り動けなくなったんだ。一応二番隊隊長っていう地位にはいるけど、その名が私にふさわしかったのは病気になる前の話。今二番隊があるのはグロウと隊員のみんなが頑張ってくれてるからよ」
マキは僕たちから顔を背けるように窓枠の花畑を眺める。
「私もう長くないんだって」
カノンとエリーがぎょっとした。きっと僕も今二人みたいな表情をしているのだろう。
「そんな私にアイくんはプロポーズしてくれた。『同情じゃない。ずっと一緒にいたいから結婚しよう』って。私はアイくんが本当に好き。だからせっかく彼が私に気を遣ってギルドに関わらないようにしてくれてるのに、私が関わって言うのは嫌。まあ、アイくんが自分から対抗戦に出たいって言うなら別だけど」
てなわけでアイのスカウトは失敗した。
話を聞く限り直接アイをスカウトしても断られるだろう。
「どうしたらいいですかね? ミラさん?」
僕は対抗戦のことをミラに相談していた。
「それじゃ私が出ましょうか?」
突然ミラがそんな提案をしてきた。
え? いいのか? でもたしかミラさんは元々冒険者なんだっけ?
「ほう。君が出てくれるんですか」
カンバラが興味深そうに言いながら話に入ってくる。
「ウロナさん、彼女はこう見えても十六人しかいないA級冒険者の一人です」
「ええええええええええええ!」




