怒り
すいません
「あ! カンバラちゃんだ! おーい」
僕らに気づいた紫の女がカンバラに向かって手を降ってくる。カンバラはちょっと嫌そうに手を振り返す。
「知り合いなんですか?」
僕は二人の関係が気になって聞いてみた。
「ええ。彼女は二番隊隊長マキ・スプリング。うちのギルドのS級冒険者アイ・スプリングの奥さんです」
「ええええええええええええ!」
自分でも大げさすぎると思うぐらいオーバーリアクションで驚く。王宮騎士団の隊長とS級冒険者ってどんなビックカップルだよ。
カノンもサリーも驚いている。でもエリーの表情はピクリとも動かなかった。なにかに怯えて、それどころではない様子だ。
「あらら、カンバラクン。ボロボロやん。もしかして弱なった?」
僕がエリーに話しかけようとすると、その声は聞こえてきた。発したのは金髪ピアスの男だ。
「試してみますか?」
「ハハッ。そういうとこ好きやわ。でも今はええ。万全の状態じゃないとおもろない」
金髪は獰猛に笑う。
「あの人も知り合いなんですか?」
またまた僕はカンバラに尋ねる。
「ええ。何度か一緒に仕事したことがあるだけですけど。三番隊隊長ワープ・ストップ。彼があの森の依頼に参加していれば魔王のパーツから生まれた魔物はもちろん、青い炎を扱う男や、戦いの後に現れた女も撃退できていたでしょうね。彼は私たちとは違う異質な力を持っている」
そんなに強いのか、あの人。というか異質な力ってなんだ?
「あれ、それとそこにおるんはエリー・キュウイやんけ」
昔遊んでいたおもちゃでも見るような目でエリーを見たワープはその瞬間僕の視界から消えた。
「罪人がこんなとこきたあかんやろ?」
その声は僕の隣から聞こえた。慌てて横を見ると、そこにはさっきまで正面にいたはずのワープがいた。ワープは怯えるエリーの肩に腕を回す。
「罪人じゃありません。エリーは無実です」
僕はワープを睨む。
「あ? 君なに? もしかしてこれの飼い主?」
ワープの表情と声からは余裕のようなものがうかがえた。
「エリーは人間ですよ! 物みたいに言わないでください!」
「……ウロナさん」
エリーは感激したように僕の名を呼んだ。
「ふーん。お前なに調子に乗っとるん?」
冷たく言い放つとワープはエリーの腹を殴る。腹をえぐるようなワープの拳を受け、エリーは口からよだれを垂らしながらその場に膝をつく。
「エリー!」
僕はエリーに駆け寄ろうとしたが、身体が金縛りにあったときみたいに動かなくなる。気がつくと、さっきまで目の前にいたはずワープがいない。
「おい殺人鬼。土下座しろ。命令や」
「……はい」
エリーは口を袖で拭って正座する。
「やめろ! エリー!」
「無駄や。あれが囚人時代、僕が散々虐めたからなぁ。僕という恐怖が身体に染みついてる。まあ、どれだけ虐めても罪を認めようとはせんかったけど」
「無実だって言ってんだろ! なんで信じなかったんだ!」
「なんでって……信じたらあれ釈放されるやん。そしたら僕のおもちゃがなくなる。僕、結構あれ気にとったからな。手放したなかってん」
僕はもう怒りでどうにかなってしまいそうだった。
そんな理由でエリーを……! 今すぐこいつを八つ裂きにしてやりたい!
「おい。笑えや。カス。僕が悪いみたいになるやろ」
「……はい」
エリーはぎこちない笑みを浮かべる。カノンやサリー、カンバラの表情が歪む。だがみんな動かない。たぶん動けないんだ。僕みたいに。
僕は我慢の限界だった。そのとき……
「ワープ。やめさせろ」
総隊長アイス・ウインターが口を開いた。
「はーい。命令取り消しや。土下座やめ」
エリーは慌てて顔を上げる。僕は彼女のもとに駆け寄った。
「……ウロナさん。ごめんなさい……」
エリーは泣いていた。
「アイスクン。そんな怒らんといてーや」
ワープは笑顔で手を合わせる。
「騎士団の格を落とすようなことはするなよ。席につけ」
アイスはワープを睨みながらも彼を許した。
身体が勝手に動いた。歯止めがかからなかった。
僕は大地を蹴り大きく飛ぶ。そして、ワープを殴り飛ばした。




