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少女のお願い


『こんにちは、蟲人さん。私の声、きこえますか?』


どうやら頭の中に響くこの声、これは少女によるもので間違いなさそうだ。そう考えていると再度声が響く。


『もし私の言うことが分かれば、うなずいてください』


おれはとりあえず言われた通りに少女に向かってうなずく。そうすると少女は少しだけ緊張が解けたようだ。表情が緩む。それにつられて俺も気持ちが少し緩む。改めて少女の様子を観察する。


少女の年齢は十代半ばだろうか。子供というほど幼くもないが大人というほどでもないという感じだ。日本でいうちょうど高校生くらいの年だろう。髪の毛は金色をしていてバンドで後ろにひとくくりにしてある。顔を見ると眼鏡をかけており、顔立ちは整っていていて知的な印象を受ける。体つきは中肉中背で、今度は服装に目を向ける。上は白い薄手のシャツとモスグリーン色のポケットがたくさんついた上着を着ていて、下は茶色のズボンと足には茶色くてごついブーツのような靴を履いていた。いかにも森を探索する探検家のような格好だ。背中には大きめのリュックを背負っているが中には何が入っているのだろうか。


しかし、それよりも先ほどの頭の中に響いた声、本当にあれは何だろう。彼女の口から発した言葉は理解できなかったのに、なぜ頭に鳴り響く声は理解できるのだろうか。


『今は私のスキル【念話】によってあなたに話しかけています』


こちらの疑問に答えるかのように少女によって再度頭の中に声が響く。そうか、スキルか。


少女が続ける説明によるとスキル【念話】は人やモンスターに語りかけることができるのだという。その際、音による会話ではなく念によって行われるため、言葉の違う相手でも意思疎通することが可能らしい。言葉の発音ではなくイメージを伝えるとかなんとか、俺が少女の肉声を理解できなくとも念話を理解できるのは伝えるものが空気の振動ではなくスキルによるイメージや気持ちだからということだろうか。

詳しいことはよくわからないがとりあえず意思疎通がとれるようだ。


『先ほどは危ないところを助けて頂いてありがとうございました。』


少女は念話の説明が終わると俺に礼を言った。念話によって彼女の感謝の気持ちが伝わってくる。


『助けて頂いた身で申し訳ないのですが、お願いを一つ聞いてもらえないでしょうか?』


まさかこのタイミングでお願いをされるとは思ってなかった。なんだろうか、とりあえずそのまま聞き続ける。


『私はモンスターの研究しながら旅をしている者です。しかし、研究中、先ほどのようにモンスターに襲われてしまうことがたまにあります。』


彼女は研究者らしい。俺も前世で研究者を目指していたのでそれだけで彼女を応援したい気持ちがわいてくる。しかし・・・。


『なので、護衛をお願いできないでしょうか?』


少女のお願いを聞いて、俺は考える。うーん、どうしたものか。

言うは易く行うは難し、だ。護衛といってもこの森にどれほどの脅威がいるかわからない、。俺と仲間で彼女を守ることができるのだろうか?護衛によって負担が増えて逆に俺たちが危機に陥ってしまうのでないか?それよりも今仲間のは数を増やしたり、レベルを上げることに集中するべきではないだろうか?むやみに危険を増やすことはできない。彼女には悪いが断ろうか悩んでいると、彼女はそれを察したようだ。急いで念話によって話しかけてくる。


『もちろんお礼はします!森での食べ物や私がわかっている限りのモンスターの情報を伝えます!』


少女は必至に語りかけてくる。うーん情報か。それは、とても欲しいな。情報が今一番俺が求めているものかもしれない。この世界に転生しておれはまだ4日しかたっていない。食べ物のの情報があればこれから増えるであろう蟲たのための食料を効率よく集められるかもしれない。それに自分自身やこの世界についての情報を集めることは生き残るうえで重要事項だろう。研究をしているということは若いとはいえそれなりに知識がありそうだ。ちょっと気持ちが揺らいできた。


『それに私のスキル、【念話】は人型モンスターにも取得可能なことが分かっています。私といるうちにうまくいけば蟲人さんも念話を使えるようになるかもしれません。』


なんだと。それは聞き捨てならない。この便利なスキルを俺も覚えられるということか。これがあればこれから会う人や人型モンスターと意志疎通ができるようになっておくというのは大切なことだ。それにもしかしたらいちいち触覚を合わせずとも仲間たちに命令ができるかもしれない。うまくいけば戦闘時の連携も格段に上がるな・・・。


よし決まりだ。


おれは少女に向かって一度、うなずいた。


すると彼女はぱっと顔を輝かせて大きく頭を下げ、念話を使って語り掛けてくる。


『ありがとうございます!それではこれからよろしくおねがいします!』


少女と共に生活することが決まった瞬間、頭の中で念話とは違う声が流れた。アナウンスだ。


【人間の若手研究者、ソフィアが仲間になりました。】



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