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グレイグ  作者: 夢之中
2/52

共生


パインはゆっくりと目をあけた。

まだ、意識がハッキリとしない。

身体中が鉛で出来ているように重い。

しかし、しばらくすると次第に意識がハッキリとしてきた。


パイン:(どうやら寝ていたようだ。)


そう思いながら天井を見つめる。

天井は記憶にない作りだった。


小さな子供の顔がチラッと見えた。

女の子だ。

足音が聞こえた。

 「パタ、パタ、パタ、パタ。」


 「おねーちゃーん。

 あのおにいちゃん、めさましたよー。」


 「バタ、バタ、バタ、バタ。」


目の前に突然顔が現れた。

見たことが無い女性だった。

年齢は自分と同じぐらいだろうか?


 「大丈夫ですか?

 私の事見えます?」


パインは声に反応するように、ゆっくりと頷く。


女性はにっこりと微笑む。

 「あぁ、よかった。

 ゆっくり休んでくださいね。」


パインはゆっくりと目を閉じた。


夢を見ていた。

声が聞こえる。


 (・イン。

 ・・える・・パイ・。

   :

 パ・ン。

 きこ・る・・パイン。

   

 パイン。

 きこえるか?パイン。)


いや、聞こえるのではない。

頭の中に直接語り掛けているのだ。


 (どうやら、聞こえているようだね。

 これから話すことをよく聞いてくれ。

 私は君の命を助けた。

 その対価として、ある物を探し出してほしい。

 その為に、私も協力しよう。

 その証拠として、まずは君の身体を治そう。

 私は常に君と一緒だ。)


パインは目を覚ました。

そして、身体を動かす。

鉛の様な重さは、消えていた。

腕、脚に副木があった。

寝たまま、身体を動かし確認する。

痛みなどはなかった。


そして夢の事を考えた。


あの夢は何だったのか?


考え事をしていると、突然声をかけられた。

???:「大丈夫ですか?」


パインは彼女を見た。

美人というわけでもないが、非情に可愛らしい顔だ。

守ってあげたい。

そう思わせるような顔をしている。

髪は、長髪だ。

真っ黒な、とても綺麗な黒髪。

服装は、庶民が好んで着るようなワンピースだ。

貴族ではないのは明白だった。


パイン:「あっ、もう大丈夫です。」

そう言うと、おもむろに起き上がった。


 「まだ、起きてはだめですよ。

 診察しますので、寝ててください。」

パインは彼女の指示に従う。


彼女は首から下げていた小さな鏡のようなものを手に取った。

パイン:「それは?」

 「あっ、これですか。」

彼女はパインによく見えるように顔の前に突き出す。

形状は、まるで手鏡のようだった。

材質は木材の様に見える。

一面は鏡になっており、反対の面は魔法陣が描かれている。

 「司祭様の天眼鏡です。」


天眼鏡は、物を透過して見る事ができる魔法の鏡である。

いわゆるレントゲン的な物と思えばよいだろう。

神聖魔法が使えないと使用できない為、多くの人は、

司祭はこれを使って人の心を見通す事ができると思っている。


天眼鏡を患部に当て検診を始めた。

彼女は小さく驚きの声を上げた。

 「えっ。

 どうして?」


無言のまま次々と診察する患部を変えていく。

そして、最後の患部を調べた後、口を開き、

目を見開いて驚きの声を上げた。

 「えぇぇぇぇぇぇー!!

 どっ、どうして!!

 なんでーーーーっ!!」


パインは冷静に言った。

パイン:「どうしました?」


女性はまくしたてるように言った。

 「あなたの怪我は、半日やそこらで治るような怪我じゃ

 なかったんですよ。

 まあ、確かにヒーリングの魔法は掛けましたよ。

 でも、レベル0なんですよ。

 レベル0。

 レベル0なんて、疲労回復ぐらいしかできません。

 あっ。」


女性は少し落ち着き、間をおいてから恐る恐る口を開いた。

 「もしかして、上位司祭様*1ですか?」


神聖魔法を知っている者なら誰でもそう思っただろう。

骨折というのは、ヒーリングレベル3以上の

魔法が使えなければ治す事はできない。

大司教や司教は人数も少なく、民衆に広く知られているため、

自分が知らない人物となる。

つまり、パインの事を上位司祭だと考えたのだ。


パイン:「いえいえ、私は精霊魔導士です。

    ところで、怪我はそれほど酷かったのですか?」


 「えぇ。

 村の入口に倒れていた時は、腕や脚は、間接以外の所が

 変な方向に曲がり、、、。」


パインは少し青くなり、女性の話に口を挟んだ。

パイン:「ちょ、ちょっとまってください。

    もう結構です。」

パインは聞いた事を後悔した。

 「そうですか。」

彼女は少し残念そうだった。

 「でも、どうして。」

 

彼女の疑問は何故怪我が治ったのか?ということだ。

パインは思い当たる事があった。

そう、夢の中の言葉。

 『その証拠として、まずは君の身体を治そう。』


彼女はまだ考え込んでいた。

パインは、上半身を起こすと、

その考えを遮るように言葉を発した。


パイン:「あっ、自己紹介するのを忘れていました。

    私はパイン。

    先ほど言いましたが、精霊魔導士見習いです。

    助けていただいて感謝します。」

一度頭を下げたあと、ゆっくりと右手を差し出す。


彼女は考える事を中断し返答した。

 「私は、アリスです。」

アリスも右手を差し出し、握手をする。

パインはアリスと握手した瞬間、ある感覚を覚えた。

 (自分と同じ。)

パインはその意味が分からなかった。

そしてその考えを振り払うように話始めた。


パイン:「冒険者です。」

アリス:「私は、王国魔導学院の学生です。

    今は訳あって、司祭様の代わりを務めています。」

パイン:「なるほど。

    神聖魔導士の卵という事ですか。」

アリス:「はい、そうです。

    あっ、そうだ、食事にしませんか?」

パイン:「そういえば、お腹が空きました。」

アリスは、にっこりとほほ笑むと言った。

アリス:「ですよね。」




2人は、食卓に着いて食事をしていた。

食事は質素なものだったが、おいしかった。


食事中の団欒は、楽しかった。

色々な事がわかった。

村の名前がバジール村ということ。

森での薬草の採取・販売で成り立っていること。

倒れていたのはパインのみだったこと。

この村は、『不帰(かえらず)の森』(パインが逃げ込んだ森)の

近くにあり王国の領地であること。

この家が司祭の屋敷だったこと。

アリスは司祭の元で神聖魔導士の修行を受けていたこと。

この村にいた司祭は他の村へ移動したこと。

最初に目を開いた時にいた子供、

彼女は村長の娘で、アリスの妹ではなかったこと。

色々な話をした。

そして、最後にパインが何故怪我をしたのかに至った。


パインは、グレーターアントやゴブリンに襲われた話をした。

パイン:「実は、滝から落ちてからの記憶がないんです。」

アリス:「そうなんですか。」

パイン:「ところで、お手伝いすることはないですか?」

アリス:「えっ、身体の方は、もう大丈夫なんですか?」

パイン:「えぇ、何かしないと落ち着かなくて。」

アリス:「それなら、お願いしたことがあるのですが。」

パイン:「なんでしょうか?」

アリス:「危険が伴うかもしれません。」

パイン:「問題ありませんよ。

    冒険者ですから。」

アリス:「ホーリーバジルという薬草をご存知ですか?」

パイン:「いえ、聞いた事はありません。」

アリス:「ヒーリングポーションの材料に使われる薬草です。

    希少な薬草で、不帰の森に自生しているんです。

    毎年、村の者と採取に行っていますが、

    今年は司祭様と魔導士の方がいらっしゃらないのです。

    強化魔法*2の術者が必要なんです。」

パイン:「なるほど。

    理解しました。

    私でよければお手伝いさせてください。」

アリス:「あー、よかった。

    よろしくお願いしますね。」


その時、パインの頭の中に声が聞こえた。

 (私の名は、グレイグ。

 君と共生するものだ。)


パイン:「グレイグ?共生?」

アリス:「えっ?

    どうしたの?」

グレイグ:(私と会話するには、

     声を出す必要はない。

     頭で考えるのだ。)

パイン:「いや、すまない。

    何でもない。」

グレイグ:(まずは、君が落ちた滝つぼへ向かえ。

     そこで、新たなる力を手に入れるのだ。)

パイン:(新たなる力?)

グレイグ:(そう、新たなる力だ。

     その力は君の旅を助けるだろう。)

パイン:(お前は誰だ?

    何が目的なんだ?

    何故私に?)

グレイグ:(今は教える訳にはいかない。

     旅を続ければ、いずれ知る事になるだろう。

     話は終わりだ。

     滝つぼへと向かうんだ。)

パインは思った。

何が何だかわからない。

声に従うべきなのか?

それとも拒否するべきなのか?


アリス:「パイン、どうしたの?

    何かあったの?」

パイン:「本当にすまない。

    何でもないんだ。

    ちょっと考え事をしていただけだ。」

アリス:「ならいいけど。

    体調異常なら、ちゃんと言ってくださいね。」

パイン:「あぁ、ありがとう。」

アリス:「ホーリーバジルの採取は3日後よ。」

パイン:「了解した。」

その返事にアリスは、この上ない笑顔で答えた。


次の日の朝。


パインとアリスは、採取時のメンバーのもとを訪れた。

メンバーは、自分達を除き3人。

そのいずれも元冒険者だと言う。

最初に目に入ったのは、元戦士のアッシュ。

パインより二回りほど大きな身体だ。

短く整えた髪、大きく太い眉、堀の深い顔、髭だらけの顎、

太い首、大きく厚い胸板、引き締まった腹部、太い脚。

服の上からも分かる。

現役の戦士といっても過言無い。

現在も屈強な肉体を維持しているようだ。


アッシュの隣に並んだ女性。

名前はパム。

元シーフだ。

アッシュの妻と紹介された。

身長は、アッシュの肩ぐらいで小柄だ。

長く真っ黒い色の髪。

小さい顔、切れ長の目、高い鼻、

バランスの整った美しい顔立ち。

今も鍛えているのだろう。

引き締まった身体が想像できる。


女性の隣にいる男性。

彼が今回の採取の依頼主。薬草士*3のリョウだ。

身長は、パムと同じぐらい。

短く金色の髪。

女性の様な顔立ちをしており、

いかにも優男という風に見える。


彼等は村の英雄と呼ばれた。

5年前、彼等は何かから逃げるように、この村にやってきた。

彼等は酷い怪我をしていた。

村長と司祭は理由を聞かずに彼等を温かく迎えた。

そして彼等はこの村に住み着くようになった。

次の年、彼等はバジルの群生地を発見したのだ。

そこに、最上級のホーリーバジルがあった。

農業中心だった村は、にわかに活気づいた。

ホーリーバジルのおかげで生活が安定したのだ。

彼等は村に見返りを求めなかった。

そればかりかホーリーバジルで得た金銭の殆どを村に寄付した。

そして彼等は村の英雄となった。

それ以来、ホーリーバジルの採取に同行している。


一通り挨拶をすました後、

成り行きで、パインは荷物運びを手伝う事になった。


リョウ:「すまないね、薬石は重くて私には辛いんだ。

    それから、足元には十分注意してくれよ。」

アッシュ:「荷物運びなら任しておけ。

     そのための筋肉だ。

     パイン君、運べそうになければ、

     誘導してくれればいいよ。」

パイン:「わかりました。」

パム:「じゃあ、アリスさんと私は労働後のお茶でも

    用意しておきますね。」

アッシュ:「おぅ、たのんだ。」


パイン、アッシュ、リョウの3人は裏口から外に出ると、

荷馬車があった。

荷台には、複数の俵があった。

俵の中には、薬石が詰まっているという話だ。

リョウ:「すまないが、これを中に運んでくれ。」

アッシュ:「おぅ、まかしておけ。」

アッシュは、一番手前の俵を手前に引き寄せると、

50kgはありそうな俵を一気に持ち上げ、肩にのせた。

アッシュ:「こりゃ、結構重いな。

     パイン君、無理するなよ。」

そう言ってパインの方を見る。


パインは、持ち上げられるか不安だった。

しかし、ダメ元で、俵を引き寄せ持ち上げようとした。


パイン:「えっ!!」

パインは驚いた。

俵から手を放し、手のひらを繁々と眺めた。


リョウ:「だめそうかい?」

パイン:「いや、そうじゃないんだが。」

そう言うと、パインは俵を手をかけ、ひょいと持ち上げた。

リョウ:「なんだって!!」

リョウは驚いた。

パインが軽々と俵を持ち上げたからだ。

しかし、パイン自身も驚いていた。


全ての俵を運んだあと、リョウはさらに驚いた。

アッシュは大きく息を切らし、汗をダラダラと流していた。

それに対しパインは汗を流していないばかりか、

息切れ一つしていない。

アッシュとパインは同じ数の俵を運んだにも関わらずだ。


アッシュ:「おいおい、その体格でどう鍛えたら

     そんなことができるんだ?」

パイン:「いや、自分でもよく分からないんですよ。」

アッシュ:「秘密ということか、魔導士らしいな。」

一番不思議に思っていたのはパインだっただろう。

あの声の主によるものだということをパインは確信していた。




*1:上位司祭

 神聖魔法を司る者には、教会から称号が与えられる。

 その基準の一つとしてヒーリングレベルがある。

 (上位のものは、下位を含む)

 大司教  : レベル5 : 復活(死後20分以内が限界)

 司教   : レベル4 : 完全なる癒し

 上位司祭 : レベル3 : 上位の癒し(骨折)

 中位司祭 : レベル2 : 中位の癒し(重度創傷)

 下位司祭 : レベル1 : 下位の癒し(軽度創傷)

 見習い  : レベル0 : 低位の癒し(疲労回復、擦り傷)


2:強化魔法

 強化系魔法は大きく分けて2種類存在する。

 神聖魔法による防御系強化魔法。

 精霊魔法による攻撃系強化魔法。

 この2つは基本魔法であるにもかかわらず、

 最もよく利用される魔法である。


3:薬草士

 薬草について熟知し、薬草を使用して神聖魔導士の魔法の様な

 効果を発揮することが出来る。

 薬草は自生しており無料で入手が可能なうえ、

 スクロールの様に他者にも有効であるため、人気が高い。

 難点は事前に処理しなけれならない事だ。


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