プロローグ
一人の男が夜空を眺めていた。
満天の星が宝石箱のようにきらめいていた。
幾筋もの光の筋が空のキャンバスを横切る。
男は呟いた。
「もうすぐ世界を闇が覆う。」
1年後。
森を避けるように草原を2頭立ての馬車が疾走していた。
馬車といっても貴族が乗るような豪華な馬車ではない。
主に運搬用に使用される幌馬車だ。
馬車の中は、荷物でいっぱいだった。
4人の男が身体を小さくして、荷物の隙間に入り込んでいた。
彼等はチーム*1だ。
各自が首から下げたカッパータグが全てを物語っていた。
「おいおい、リーダー話が違うじゃないか。
こんな格好を強いられるとは思ってもいなかったぞ。」
一人の屈強な男が声を上げる。
彼の名前はゾイ。
職業は戦士だ。
皮の鎧を身にまとい、腰にはショートソードを差していた。
両ひざを両腕で抱えるように座り、窮屈そうな顔をしている。
「まあ、まあ、そう怒るなよ。
危険地域*2はもうすぐ抜ける。
そうしたらまた歩きだ。」
リーダーと呼ばれた男。
ゾイ程ではないがたくましい身体をしている。
彼の名前はシュミット。
職業は戦士だ。
「そうですね。
我々みたいな初級冒険者*2は、
選べる仕事が少ないんですから。」
口を挟んだ男。
彼の名前はナガット。
職業は聖職者だ。
「・・・」
一人黙っている男。
彼の名はパイン。
職業は魔導士だ。
=====
この世界には、魔法と呼ばれる奇跡が存在する。
大きく分けると、
神への信仰により発動することのできる神聖魔法、
邪神への信仰により発動することのできる邪神魔法、
精霊と契約することにより行使することができる精霊魔法が
存在している。
神聖魔法は、生を司る魔法であり、
肉体や生命力に影響を与える。
有名なところでは、治療などがそれにあたる。
邪神魔法は、死を司る魔法であり、
神聖魔法と同様に肉体や生命力に影響を与える。
しかし、神聖魔法とは異なり、生物の破壊と死である。
精霊魔法は、自然を司る魔法であり、
地水火風の四大元素を操り、様々な奇跡を起こす。
=====
ゾイ:「おい、パイン。
お前も何かいったらどうだ?」
パイン:「いえ、私は、、、。」
シュミット:「そういえば、
人魚の涙という半島を知っているか?」
ゾイ:「海賊ゲイルの砦がある場所だよな?」
海賊ゲイルと呼ばれるが海賊というのは比喩である。
元々、商人ギルドが海賊に対抗する為に設立した組織であった。
『海賊の事は海賊に聞け』という発想の元、
ゲイルという海賊を引き込んだ。
ゲイルは優秀だった。
次々と海賊を倒しながら、船員を取り込んでいった。
そして、大半の海賊を取り込んだ時から噂話が広がり始めた。
彼等が自作自演をやっているというのだ。
それは自ら海賊行為を行い、それを拿捕するというものだった。
この話は冒険者の間では特に有名で、
海賊ゲイルと呼ぶ者が大半だった。
シュミット:「あぁ、そうだ。
半年前、その砦が建国を宣言したのを
知っているか?」
ゾイ:「建国!?
王国が黙ってないだろ?」
ここで言う王国は、バートランド王国のことである。
半島は、バートランド王国の最南端に位置する。
シュミット:「あぁ、3ヶ月前に密かに王国軍が進軍したらしい。
どうなったとおもう?」
ゾイ:「建国の話は聞いた事がない。
という事は、王国が勝ったのか?」
シュミット:「その逆だ。
話によると1000人近くの兵士がたった一人の男に
壊滅させられたらしい。」
ゾイ:「たった1人に!?
ありえない。」
シュミット:「お前もそう思うだろ。
俺もそう思ってる。」
その時突然、馬車が急速に減速した。
4人は山積みされた荷物に掴まると身体を支えた。
ゾイ:「なっ、なにが起こった!!
敵襲か?」
殆ど止まりそうな馬車からシュミットが飛び降りた。
続けて、ゾイ、パイン、ナガットの順に馬車を降りる。
警戒しながら馬車の前方へと回りこむ。
そして言葉にならない驚きの声をあげた。
「あっ!!」
「いっ!!」
「うっ!!」
「えっ!!」
全員がその場で固まり、その光景に見入っていた。
彼等が見たのは、馬に覆い被さった2匹の巨大な蟻だった。
その生物の名前はグレーターアント。
冒険者の強さ*6で言うとC~Dに匹敵する。
つまり安全に討伐するには、Bクラス程度の実力が必要となる。
2頭の馬は無残に引きちぎられ、既に肉塊になっている
御者は、逃げてしまったのか既にいなかった。
最初に声を上げたのはパインだった。
パイン:「おっ、おい!!
グレーターアントだ!!
まずいぞ!!」
パインは持っていた杖を突きだし、詠唱準備を始める。
声に反応してナガットも同様に祈りの準備に入った。
しかし、2人の戦士は、森に向かって逃げ始めた。
パイン:「くそっ、逃げるのかよ。」
このときパインは、このチームに入ったことを後悔した。
パイン:「ナガット、走れ!!」
ナガットは、その声で2人の戦士達と逆方向に走り出した。
パインは、ナガットを追った。
この行動が2人の命運を救った。
グレーターアントが逃亡に気付き、逃げる者を追い始めた。
標的は、最初に移動を開始した2人の戦士だった。
グレーターアントの移動速度は人間よりも遥かに早い。
その距離はみるみるうちに縮められていく。
そして、2人の背中に飛びついた。
「うぁぁぁぁぁ!!」
「ぐはぁぁぁぁ!!」
その声を聞いて、前を走るナガットが立ち止まった。
それを見たパインが叫ぶ。
「止まるな!!
森まであと少しだ、走り続けろ!!」
ナガットは再び走り出した。
離れて行く2人を見たのか、戦士達の呪いの言葉が耳に届く。
パイン:(真っ先に逃げたのはお前らだろ。)
そう考えながら、必死に走った。
2人が森に到着したときには、
2人の戦士の叫び声は聞こえなくなっていた。
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パインとナガットは、言葉を交わさずに黙々と歩いていた。
大まかな地図は頭に入っていた。
このまま西に向かえば、森を抜けられる。
突然ナガットが立ち止まる。
ナガット:「パイン。」
パイン:「んっ?」
ナガット:「すまないが、少しやすまないか?」
パイン:「あっ、そうだね。
すまなかった。」
適当な場所を見つけ休憩の準備をする。
森の中は草原よりも温度が低い為、
簡単なカマドをつくり、パインが魔法で火をつける。
スモールバーニング(小さな燃焼)の呪文は、
初歩の魔法の一つである。
ナガットは疲労を回復するため、
ヒーリング(癒し)レベル1の祈りを行使する。
半時程度の休憩ではあったが、ヒーリングにより
疲れは殆ど感じなくなった。
パイン:「そろそろ出発しよう。」
ナガット:「あぁ、そうだね。」
カマドを片付けると、水をかけ、その場を後にした。
しばらく進むと川が見えた。
川は、記憶にもあった。
森を抜け草原へと続いている。
川原まで移動した時、気配を感じた。
シーフかレンジャーの特技を修得した者がいたら、
もっと早く発見できたかもしれない。
歩みを止めると、パイン達は小声で話した。
パイン:「囲まれたかもしれない。」
ナガット:「そのようだな。
どうする?」
パイン:「マジックアロー*7で血路を開く。
下流の方の敵を倒す。
命中したのを確認したら、下流へ向かおう。」
ナガット:「わかった。」
しばらくすると左右の森から6匹のゴブリン*8が現れた。
ゴブリンは、手にこん棒を持っていたが、
幸いなことに、弓等の遠隔武器は持っていなかった。
ゴブリンの一団が2人を取り囲むように展開する。
ゴブリン達は、口々に何か言っている。
「はやく、はやく。」
「なぐれ、なぐれ。」
「たおせ、たおせ。」
「くいもの、くいもの。」
パインは、ゴブリンの展開を待ってから魔法を発動させた。
パインの頭上に突如として炎の矢が出現した。
ゴブリンは驚き、1歩後退する。
間髪を入れずに炎の矢が打ち出された。
下流にいたゴブリンの腹に命中する。
同時に2人は動いた。
川の下流に向かって走りだしたのだ。
ゴブリンは魔法攻撃に一瞬躊躇した。
しかし、すぐに2人を追い始めた。
逃げるパインとナガット。
それを追う5匹のゴブリン。
しかし、逃走劇は直ぐに終わりを迎えた。
滝だった。
逃げ場を失った2人は川の中へと追い詰められていく。
ナガット:「あっ!!」
ナガットが川の流れに足をとられた。
パインはとっさにナガットの手を掴む。
ナガットに引っ張られるように、2人は滝つぼへと落ちて行った。
パインは水の中にいた。
水中から脱出しようともがいた。
しかし、身体が思う様にうごかない。
息が苦しい。
このまま死ぬのだろうと直感した。
パインの口から大きな泡が2個3個とあふれ出す。
同時に意識が遠ざかっていくのがわかった。
その時、頭の中に声が聞こえた。
『・キゴウ・・クニ・。』
パインは水の中に沈んでいった。
*1:チーム
冒険者*3チームのこと。
一般的な冒険者は、一人では行動しない。
一人で全てをこなす事は現実的に不可能だからだ。
一人で全てを行う事は、知識の面でも肉体的な面でも
限界が存在するのだ。
人間のような短命の種族は特にそうだ。
1つの職業を極めようとすれば人生全てに匹敵する時間と
努力を必要とする。
これらの理由から、ほぼ全ての冒険者はチームを組むのだ
しかし、冒険者になったばかりの者は、
チームを組めない場合が存在する。
冒険者協会は、単独冒険者に対して、
職業のみを考慮した仮チームを結成することにより
対処している。
*2:危険地域
冒険者協会が指定した危険と判断された地域。
危険地域に指定される地域は大きく2つに分けられる。
1つ目は、冒険者チームでは勝てない生物が存在する地域。
聖域とも呼ばれる。
2つ目は、非敵対生物のテリトリー。
人間に対して侵略行動を起こさない生物に対して
率先して討伐は行わない。
これは生態系の維持と他の生物の侵攻を防ぐための盾として
利用できるからである。
大抵の場合、襲われない方法が確立している。
*3:冒険者
冒険者は、冒険者協会*4に所属する者の総称である。
*4:冒険者協会
敵対する異種族*4や心無き者から
国民を守るために結成された民間団体である。
異種族に対して敵対しているわけでは無く、
基本方針はあくまで防衛となる。
*5:異種族
この世界には、人間族以外に様々な種族が存在する。
*6:冒険者の強さ
冒険者チームは、冒険者協会によって、
その実力に応じて与えられる称号である。
タグを渡す事によって見た目で分かるようにしている。
Sの場合、プラチナ板に宝石が埋め込まれる。
登録されている魔物を討伐することによって評価対象となる。
チームとしての総合力の評価であるため、
チームメンバー変更は1段階降格となる。
S:宝石の名前で呼ばれる
A:最上級冒険者チーム
B:上級冒険者チーム
C:ベテラン冒険者チーム
D:中級冒険者チーム
E:下級冒険者チーム
F:見習い冒険者チーム
*7:マジックアロー
マジックアローは、最初に覚える攻撃魔法である。
炎、氷、光等の魔法矢を飛ばす事ができる。
経験を積めば(レベルが上がれば)、出現する矢の数が増える。
複数のターゲットに対して別々に攻撃できるため、
使用される頻度は高い。
*8:ゴブリン
ゴブリンは子供ぐらいの大きさの小鬼である。
深緑色の体色をしており、手が異様に長い。
大半の個体は、知能が低い。
独自の言語を持っているが、
小説の都合上人間語を話すものとする。




