第42話 光の道
第09節 戦後の世界〔3/3〕
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《 明日。
新暦3年4月13日。
我が国の誇る“征竜王”アドルフ陛下が、フェルマール王国第二王女・ルシル姫とご結婚なさいます。
お二人が出会ったのは、フェルマール王国が滅亡した後。
頼る者なくボルドの地を踏んだルシル姫を、当時【ラザーランド商会】を興したばかりのアドルフ陛下が保護したことが始まりでした。
新興商会主と亡国の姫。
日常の生活習慣からしてたくさんの違いがあり、多くの衝突がありました。
けれど、平民に過ぎない商人が、亡国とはいえ一国の王女と対等に語り、或いは王女の間違いを叱責する様は、ルシル姫にとっては新鮮だったのでしょう。
次第に二人の距離は、近付いて行きました。
そして、陛下に縁あるハティスの難民団を保護した時。
そこにムート王子とロッテ王女がいらっしゃいました。
そのことから、陛下も「スノー」と名乗っていたルシル王女の素性を知ることになります。
けれど、陛下の姫に対する姿勢は、それ以前と全く変わりありませんでした。
陛下がドレイク王国を興し、それにより立場は逆転することになりました。
けれどやはり、お二人の関係に変化はなく、正しく王国を興す過程と同じようにお二人の間で愛が育まれていったのでした。
明日。
新暦3年4月13日。
お二人が、正式に結ばれることになります。
けれど、それは新興国の国王と、亡国の王女の縁談ではなく。
ただ一人の男が、身寄りを無くした一人の女を守り抜いた、その結果でしかないのです。 》
――日刊新聞『ネオハティス・サンライズ』紙の社説より引用
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スラグコンクリート(高炉製鉄の副産物として採取される、石膏をはじめとする諸産物で構成される建材)製の白亜の神社。
精霊神信仰と混同しないようにとサリアがアイディアを出して作った、太陽神と竜神を祀る神域である。
いつの間にかドレイク王国内で市民権を得ていた、太陽神(光属性)・竜神(闇属性)信仰の為の神社で、俺はスノーと式を挙げる。
正直に言うと、「スノーを愛しているか?」と問われると、微妙なところがある。
愛おしく思っていることに間違いはない。
しかし、シェイラを想う愛情と比較すると、それが同じ種類のものではないことが明らかだからだ。
とはいえスノーと結婚をし、子を成し、育てる。そう考えた時、そこに違和感は全くない。
それは、恋ではなかったのかもしれない。
けれど、愛であることに疑いはない。
これからの時間は長い。
二人でゆっくり、二人だけの愛の形を作っていけば良い。
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俺の付添人のセラさんが、控室で俺の着付けを手伝ってくれた。
ちなみに新婦の付添人は、ルーナ王女がやっている。
そして、式の導師役(所謂神父役)は、クリス。祀られるべき竜神の一体が、聖職者のフリをして俺たちの結婚を祝福してくれるのだという。
「お時間です」
式の進行を担当してくれる騎士が、声をかけてきた。
「じゃぁ、行きましょうか」
セラさんが手を差し伸べ、俺を今日の式の会場である大聖堂まで案内してくれる。
その扉を前にして、新婦――たち――と合流した。
え? 『たち』?
そこには、スノーだけではなく、シェイラとシンディも、ともにウェディングドレスを着ていた。
スノーは王女の肩書に相応しく、派手過ぎはしないが豪奢なドレス。
シェイラは大胆に足を見せた、けれどはしたなさは無く今にも走り出しそうな快活さを前面に押し出した、斬新なドレス。その胸元には、今のシェイラのはじまりともいえる魔石が柔らかく輝き。
シンディはもう九ヶ月目に入って、お腹も目立つようになっている為、ゆったり目のドレス。
「アディのお嫁さんになるのは、私だけじゃないでしょう?
シェイラさんとシンディさんも、一緒に式を挙げるべきだと思ったの。何か問題がある?」
こう問われては、答えは一つしかない。
「ある訳がない」
そして、俺たちは四人で扉を開け、ヴァージンロードに歩み出たのだった。
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「何か、夢を見ているみたい」
スノーが、ぽつりと呟いた。
「どういう意味?」
「『毒戦争』から今までの、全部が、よ」
「目が醒めたら幻と消えちゃう、夢、か?」
「そう。
目が醒めたら、私はフェルマールの王女で、ベルナンド辺境伯家の息子との婚姻を結ぶ、みたいな」
「あぁそうか。何かがちょっとずれていれば、そういう未来もあったかもしれないんだ」
「私は、高慢な王女のままで。
幾ら辺境伯の息子だからって、庶出の男の下に嫁ぐなんて、ってぶぅぶぅ文句を言うの」
「そんな環境だと、俺も幾ら王家の姫だからって、こんなポンコツ娘を嫁に貰うのか、って辺境伯に文句を言っていそうだな」
「……誰がポンコツ娘よ?」
いけね、つい本音が。
「それはともかく。
前世の言葉に、『フェルマーの法則』っていうのがあったんだ」
「フェルマールの法則?」
「それは、『光が指し示す道』ともいう。
光が、A地点からB地点まで進むときは、常に最短経路を通る、というものだ。
途中にガラスがあったり、鏡があったり、空間が歪んでいたりして、真直ぐに進めないことがあったとしても。
外から見たら、迂遠な大回りに見えたとしても。
結果的には、常にそれが最短の道程なんだ。
不思議なことに、何度もトライアンドエラーを繰り返した訳でもないのに、光は常に最短のルートを通ってB地点にと辿り着く。
だから、フェルマールの王女、ルシル。
貴女の道程も、きっと、最短距離だったんだ。
迂遠な大回りに見えた道程も、俺たちの出会いも、数多の別れも。それは全て必然で、だからきっと尊いんだ」
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スノーは、その言葉を聞いて、噛み締めるように考えた。
光が指し示す道。
全てが必然だというのなら、フェルマールの滅亡も予め約束されていた運命だということになる。
なら、このドレイクも、いつか滅亡の時を迎えるだろう。
けど、その時まで。
自分は、誰かを導ける。そんな人間になりたい、と。
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新郎一人に新婦三人。
この風変わりな結婚式に身内として参列した、サリア。
皆と一緒に四人を祝福しながら、けれど彼女の胸には、この時ある決意が灯ったのであった。
(2,662文字:第八章完:2016/11/23初稿 2017/11/02投稿予約 2017/12/09 03:00掲載予定)
【注:『フェルマーの法則』を、『光が指し示す道』と説いたのは、〔うえお久光著『紫色のクオリア』アスキー・メディアワークス電撃文庫〕からの引用です】
・ 蛇足ながら。「肌を見せるのははしたない」というのが、この世界の貞操観念。それは、「肌を露出出来る」場所が寝所と浴室しかない、という意味にも繋がります。だから「足を見せるスカート」というのは、女性にとっては治安・保安・衛生が行き届いている証。且つ、ファッションを考える時間的・経済的・心理的余裕が出来た、という証でも。なお、余計なことながらオーバーニーソ。
・ 「ヴァージンロード」とは、「新郎・新婦がこれまで歩んできた道」という意味があるのだそうです。その道を歩んで神父の許まで行き、そこで誓いを交わした二人は、今度は教会の外に向かって「夫婦として新たな道を歩む」のだとか。




