第41話 拡大ドレイク王国
第09節 戦後の世界〔2/3〕
戦争が終われば、当然必要な事後処理がある。
例えば、戦没者の遺族に対する報告。
此度の戦は、敵を斬る事よりもその目的の達成に主眼を置いた。
その為、与えた死傷者の数は少なく、一方こちらの犠牲者の数も少なく済んでいる。
とはいえ全く犠牲が無かったとは言えない。直接刃を交えた『三方ヶ原の戦い』や『密林夜戦』では、幾人かの死者を出してしまい、また『密林夜戦』での犠牲者に関しては、その遺体を回収することさえ出来なかった。
もともと此度の戦いは、フェルマール王族姉弟妹と俺による、私戦でしかない。ドレイクの民にとっては不必要な戦いだったのである。にもかかわらず駆り出され、挙句戦死し、中には戸板に乗って帰ることさえ出来ない者もいた。これは、間違いなく俺の背負う罪だ。
勿論、自己満足に過ぎないという人もいるだろう。罪悪感を慰撫する為の偽善だという人もいるかもしれない。だけど、それでも。
俺は、遺族の家を一軒一軒その足で巡り、彼らの犠牲が無駄ではなかったと感謝の言葉を告げたのであった。
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そして、論功行賞。
が、その「功」はともかく、「勲」に関しては難しい。
部隊別でみれば、有翼騎士団と特務部隊がそれに値するだろうが、両者ともに表立ってその活動を讃えることは出来ない。そういう前提で組織された部隊なのだから。
その一方で、「敵を斬らない」此度の戦は、取った首級の数で勲を競うことも出来ない。結局、皆均等に褒めることしか出来ないのであった。
しかし「功」に関しては、明白である。
治安維持に力を注いだ、冒険者ギルド。
戦前の準備に尽力した、鍛冶師ギルド。
そして、補給計画を立て、現場の都合で次々に変更される作戦に即座に対応して物資を調達した、行政の主計官僚。
その裏には、カナリアの密偵を始末した盗賊ギルド(と、ノトス)の活躍もあったが、こちらも日陰の身。表立ってそれを賞することは出来ないが、その代わり盗賊ギルドが経営する酒場に、軍の若い男性兵士を訓練後連れて行くことで、礼の代わりとした。
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そして、諸々に片が付いた、新暦3年3月。
ネオハティスに、思いがけない来客があった。
ビジア領主ユーリ・ハーディ伯爵と、ボルド市評議長カルロ・スタヴィア伯爵。
それぞれの領地を、ドレイク王国に編入させることを希望したのである。
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「どういうことだ? それは、ビジアとボルドがともに独立を放棄する、ということか?」
軍事力で屈服させて従える。それは普通にあり得るだろう。
しかし、自ら進んで下に付くことを望む。そこに、違和感を覚えたのだ。
「なに、難しいことではない。
我がボルド市にとっては、ネオハティスとの間にあるボルド河。これが国境線になることは、デメリットがあってもメリットはない。
今のドレイクには、新たに港を建設する力など充分にあるだろう。そして、ネオハティスからシュトラスブルグまでを『鉄道』なる大規模輸送機関で繋ぐ計画があることも聞いておる。
なら、海運商人にとっては、ボルドに陸揚げして、国境を越えてネオハティスに入り、そこから内陸部へと物資を運ぶより、直接ネオハティスに陸揚げすることを望むようになってしまう。
だが、ボルドとネオハティスが同じ国であり、両市が双子都市のような関係になれれば、ボルドが享受出来る利益も多くなる」
「ビジアも同じです。
抑々ビジアは、アドルフ王、延いてはドレイク王国に、多大な借りがあります。おそらく私一代では返済し切れないでしょうし、返済する為にはそれこそ国を売る覚悟が必要です。
そしてドレイク王国は、フェルマール王国の正当継承者より王権を委譲されて建国した国です。なら、フェルマールの領有貴族はその領地をドレイク王国に献上する、正当な理由があるという訳でもあります」
正直に言えば。
国を広げ、民を増やすことは喫緊の課題であれど、『竜の食卓』という未開拓領地を持つ我が国にとって、近隣領地を併呑することのメリットはあまりない。
それこそロージス領と同じで、既に特定の文化・風俗が確立している土地と民を、ドレイクの色に染め直すことはかなりの労を求められるからだ。
また国防を考えたときも、ボルド河という広大な堀があれば、侵略者に国土を荒らされる前に撃退出来る。
しかし森や草原に国境線が敷かれるのであれば。国境線の向こう側で侵略者を撃退することは、難しくなるのだ。
とはいえ国軍戦力の増強、経済活動の活性化、税収増加、そして不均衡な男女比率の是正等、メリットが全く無い訳でもない。
だから両者に、段階的な義務教育制度の導入と貨幣通貨(イェン)の採用などを条件に、ドレイク王国への編入を認めることとなった。
それと同時に。
ある一人の人物を、伯爵に叙爵することにした。
その人物の名は、レックス・エルルーサ=ハティス(満4歳)。
当然ながら幼齢に過ぎる為、一定の年齢までは母親であるセラフ・エルルーサ=ハティス夫人に爵位を預ける形になるが。
これにより、ネオハティスを含めたブルゴの森一帯は、『ハティス伯爵領』となるのである。
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また、その『ブルゴの森』の強化も考える。
末摘花の里に程近い、女郎蜘蛛の集落。そして竜の谷に程近い、魔蜂の生息地。
それぞれの長と面会し、両者を迷宮主に任命し迷宮核を預け、ブルゴの森を東西に二分するダンジョンとした。
これは、ブルゴの森の拡張と、そこに棲まう魔物たちの強化、生物相の多様化と偏在魔力の増加など、幾つもの効用があるのだ。
森を活動拠点とする冒険者たちにとっては、森とそこに棲まう魔物たちがこれまで以上に手強くなるが、それもまた彼らの糧となるだろう。
同時にこれは、ドレイク王国の新事業の一環ともなる。
ドレイク王国の新事業。
それは、魔石生産の工業化である。
現在は俺の、DM権能で行っている魔石生産。
これを工業化出来れば。
前世の蒸気機関を凌ぐ、高効率エネルギー機関として魔力を活用出来るようになる。
抑々、魔力はリリスの微小細胞。その性質を考えると、無限増殖も可能であり、適切に消費しなければ文字通りこの惑星を覆い尽くすことになる。
この世界の文明が魔法と無縁ではいられないというのなら、魔力の産業化(つまり魔法使い以外にもその恩恵を享受出来る文明)を求めるのは、文明史を考えたとき必然の筈。逆に、戦いの道具としてのみ魔法が利用されていた時代とは、そろそろ決別すべきなのだ。
魔法か、科学かの二択ではなく。
魔力を動力とする科学技術。
科学知識による魔力の有効活用。
それが、新しい時代の、人間と魔法の関わり方となるだろう。
(2,952文字:2016/11/14初稿 2017/11/02投稿予約 2017/12/07 03:00掲載予定)




