第22話 手続き
第06節 囚われの姫と白馬の騎士(前篇)〔1/7〕
新暦2年9月に入り。
『第二次アプアラ独立戦争』の後始末も終わって、ほっと一息。
……吐く余裕は、実は俺達にはない。
抑々俺達がアプアラを(ドレイクに服従的乃至は友好的な立場で)独立させたのは、カナリア公国までの道を開く為だ。
これで、ドレイク王国――ビジア独立自治領――アプアラ王国――カナリア公国ロージス領――カナリア公国本領、と道が繋がった。そしてようやく、俺たちはルーナ王女奪還の為の進軍を行うことが出来るようになった、という訳だ。
ではすぐに行えるか? と問われると、それ以前に済ませなければならない手続きが幾つかある。
そのうちの一つは、国内問題だ。
どうしても、次の派兵は総力戦になる。
国内の警察隊と森林警備隊(つまり冒険者ギルド管轄の戦力)を除く、全戦力を派遣する必要がある。なら、国内に不安を抱えている状況ではいつ反乱が起こるとも知れない。
現在、ドレイク王国の人口は二万人を超え、帰化準備期間に入っている居住者(ドレイク王国では帰化申請してから一年間、必要な知識を身に付けまた経済的基盤を整えることを義務付けられている)は約一万人、未だ帰化する意思を示していない難民が約二千人、その他一時居住者(出向冒険者等)・一時滞在者(商人等)・留学生(2人)の合計が約三千人、といったところである。
メーダラ領問題(『小麦戦争』)で建国の前後に難民の流入が増え、また6月の『第二次アプアラ独立戦争』をきっかけに帰化希望者が増えた。
一方、その帰化希望者の内訳をみると、6割強が女性。どういうことかと調査してみたところ、「ドレイク王国は女性が活躍出来る国」と評価されているようだ。嫁いでも家の下働き程度にしか扱われず、また働きに出ようにも出来る仕事が少なく且つ教育を受ける機会もなく、残る仕事は街娼のみ、という他市他国の現状と比較すると、国の中枢とギルドの幹部に女性が多いドレイク王国は女性天国、と解されても不思議ではない。
ちなみに、女性が多いことからスケベ心を持ってネオハティスを訪れた男性諸氏が、心を折られて街を離れるのも最近では見慣れた光景。ドレイク王国の女性は皆、そこらの男どもより強いのです。
その強さを支える象徴の一つに、有翼騎士たちがいる。
人口が増えたことと入隊希望者が増えたことで、各隊募集定員を増やしているのだが。
予備隊定員500人⇒1,000人。
有翼騎士団定員50人⇒200人。
有角騎士団定員150人⇒200人。
近衛隊定員50人⇒100人。
歩兵部隊定員200人⇒400人。
特務部隊定員50人⇒100人。
と、正規軍1,000人、予備隊1,000人の合計2,000人が現有総戦力となる。……のは良いのだが。有翼騎士団、加増数もその割合も、多すぎやしませんか?
聞いたところによると、いつの間にかドレイク王国のメイドは免許制になっており、I種、II種、特種、の三種類あるのだという。
I種メイドは、メイド養成学校(いつの間にか設立されていた)を修了したことで与えられる資格であり、業務中を除いて「箒」を持つことは許されないのだという。
……「箒」って、掃除に使う箒のことだよな? とメイド長に聞いたところ、「はい、『おそうじ』に使う箒です」と答えが返ってきた。恐ろしくてこれ以上突っ込めなかった。
II種メイドは、相棒となる有翼獅子に認められたメイドであり、II種になって初めて「有翼騎士」を名乗り日常からグリフォンを連れ歩く権利を有するのだという。
そして特種メイドは、平時でも「箒」を持ち歩くことが認められ、また有事に於いて戦闘に参加する権利があるのだそうだ。つまりII種メイドは戦時に於いても上長の命令がない限り、通信と輸送、設営の任にしか就けない。とはいえそれだけでも充分な戦力なのだが。
I種であってもメイド資格を有する女性は、どこの職場でも引く手数多。それも、侍女や秘書の仕事だけでなく、現場職でも優遇されており、先日I種資格を持つ冒険者が銅札に昇格し(つまり昇格試験をクリアしたということ)、且つ軍の予備隊に登録したという話を聞き、目を丸くした。
◇◆◇ ◆◇◆
メイドの話はともかく、今ネオハティス市では一つの住民問題が起きている。
これは、旧ハティス市から流れてきた住民と、それ以外の住民の対立である。
旧ハティス市からの住民にとっては、新ハティスは文字通り「自分たちの街の再生」だが、彼らは市民人口では三分の一、住民人口では四分の一以下にまで割合が減じている。最大派閥ではあるが、「それ以外」の人たちより遥かに少ない。
にもかかわらず、ネオハティス市は旧ハティス市の臭いが濃すぎる。
これが、新しい住民たちにとって面白くない訳だ。
この件に関しては、住民たちがお互いに妥協するか、それが無理なら住み分けるしかないと思っている。
初めから、ネオハティスは農業と林業の町として設計した為、五万人程度が都市の収容可能人口の上限になっている。だから「ドレイク王国首都」、行政の中核としての機能を持たせた十万人都市(拡張すれば百万人都市)を、別に用意する必要があるのである。
また現在建設中の「末摘花の里」は、栽培品目として紅花、菜の花、大豆があり、また女郎蜘蛛の糸や麻を使った製糸・紡績業、紅花等を使った染色業、その他食用・産業用・工業用の搾油業と、妖馬の飼育・馴致による軍用馬の提供などを産業として興すことになる。こちらは三万人程度の人口を上限として設計しているが、今ならまだもう少し大きめの町に変更することも難しくはない。
他にも、『ブルゴの森』にはこれ以上の町を造るつもりはないが(宿場村は除く)、『竜の食卓』(この名称も改称が検討されている)には幾つか町を造る予定がある。出身地単位で新造の町に色付けをするのは一つの解決法かも知れない。
◇◆◇ ◆◇◆
開戦に至る為に経なければならない手続きもある。
ルーナ王女の意思確認、そして、外交手続きだ。
その為、シェイラをはじめとした特務部隊と有翼騎士団の一部は、『第二次アプアラ独立戦争』後、アプアラ王都ウーラから直接カナリア公国公都カノゥスに向かい情報収集を行っていた。
その結果、ルーナ王女が文字通り幽閉されている事実と、その場所を突き止めることが出来た。
そしてシェイラはルーナ王女との接触に成功し、フェルマールに帰ることを、それが叶わぬ以上はムートたちの許に行くことを望んでいる事実を把握した。
だからこそ、外交ルートを通じてカナリア公国に対し、ドレイク王とフェルマール王子ムートの名でルーナ王女の解放を求めたのであった。
(2,891文字⇒2,671文字:2016/09/14初稿 2017/08/31投稿予約 2017/10/30 03:00掲載 2022/06/06誤字修正)
・ 今節と次節の節題にある「囚われの姫」は、27歳の未亡人です。また「白馬の騎士」が跨る「白馬」には角が生えてます。
・ 念の為。「スケベ心」って、エロ目的ってだけではありません。「女が『長』の立場にいるっていうのは使える男がいないからだろ? なら俺がその組織に入ってやれば好き勝手出来るな」みたいな、自身の無能さを自覚せず、性別だけで上に立てると短絡する考え無しという意味も含みます。




