第18話 メイド隊の、大掃除
第04節 新時代の戦争〔7/7〕
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「姐さん、鼠の巣穴が閉じたぞ」
「アナさん、若しくは隊長と呼びなさい」
新暦2年6月10日(カナン暦707年夏の一の月の晦日)。リーフ王国王都ワルパ郊外に於いて、ビジア軍三千は戦闘展開している。布陣は、横列陣。攻城戦の陣形としては包囲陣を取るべきなのだが、如何せん数が足りない。けれどこれで良い。こちらは初めから攻城戦などするつもりはないのだから。
陣の更に後方に設営した、ビジア軍本陣。
ここに、ビジア軍の幕僚の他ドレイク王国から派遣されてきた2軍団の長もここにいた。
有翼騎士団隊長、アナ。
特務部隊総隊長代理、クロ。
アナは、クロが盗賊やそれに類する前職の持ち主であることに、すぐに気付いた。しかし、アナの新しい主になった(付き合いは長いけど)、ドレイク王の清濁併せ呑む気質を、充分に理解している。魔物とさえ友好を約す人物だ。小悪党の一人や二人、配下に引き入れたところで何を驚く必要がある?
ましてや。クロはシェイラが自ら鍛え、そして自身の部隊の指揮権を預けるに足ると評価した相手だ。ならあとは、使い熟せば良い。
「ともかく、カレンさま。こちらの準備は全て整いました。
明日未明、作戦を開始します」
「……戦争の概念が、根底から崩れるわね。主力部隊の筈のあたしたちが、実はただの張り子の案山子で、リーフ軍に籠城戦を選択させる為だけにここに布陣しているって知ったら、連中憤死するわね、きっと」
「ですが、これから行われるものは、戦闘ではありません。
ドレイク王国メイド隊による、鼠駆除並びに大掃除、です」
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夏の二の月の朔、早朝。
ワルパの城壁の上に立ち、眼下のビジア軍を睥睨していた兵士の一人は、地平線の向こうに、有翼の魔獣の群れを発見した。
「何だと! 何故こんな時に有翼獅子の群れが都に向かって飛来してくる?」
早い時間に起こされたリーフ王エーリス・ラッパライネンは、世の理不尽を問うかの如く側近に問いかけた。
「お言葉ながら陛下、魔獣どもの考えることなど、某には図りかねます。
ですが、これは我が軍勝利の兆しとも考えられます」
「どういうことだ?」
「グリフォンは、馬を好んで食らうと謂います。
そして、あのグリフォンの群れから見たら、都の厩舎にいる馬よりも、ビジアの野戦陣地の馬たちの方が目につき易いでしょう」
「おお、確かにそうだ」
リーフ軍の全ての将兵は、グリフォンがビジア軍に襲い掛かることを、信じて疑わなかった。
グリフォンたちがビジア軍の上空を通過し、王宮の真上に差し掛かり、そして、
王宮最上階の窓の中に、何かを投げ込むときまで。
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「鼠退治をする為には、まずは巣穴を燻します」
グリフォンの背に乗るアナ以下有翼騎士達は、王宮上空で導火線に点火したダイナマイトを最上階に投げ込んだ。
この時代の建造物は全て、外部から衝撃を受けることを想定して建設されている。
また城塞などは、下からの攻撃が前提であり、それ故城塞都市の中央部にある王宮、それも最上階などは最も安全な場所と考えられる。
だからこそ、王妃や寵姫、幼い王子王女は、王宮最上階で生活するのである。
ところが、今回はそこが最初に狙われた。
城塞は、下部幅広の筒、が基本構造だ。そして想定される最大の衝撃は、投石機による投石攻撃。けれどこれは、高所に於いてはその勢いは全て減殺され、その質量のみが脅威となる。だからこそ、それを逸らす構造であれば、城を物理的に破壊することは難しい、ということになる。
が、真上から、その“筒”の内側に、瞬間的に衝撃力が拡散するダイナマイトが投げ込まれたら。最早抵抗手段はない。そしてまた、この時代の城塞は外壁で全体を支える構造になっている。その為、内部の床の荷重限界は意外に小さいのだ。その床に上階の瓦礫が降り注げば、その衝撃と振動、何より重量に耐えられない。
最上階は真っ先に破壊され、
瓦礫の質量で直下の階もまた崩落が始まり、
次々と質量を増す瓦礫に更に下の階も耐えられなくなる。
外壁が無事でも、内部は凄まじい事態になる。
更に内部の壁や床が崩れると、外壁も自重を支え切れなくなり、内側に向けて倒壊する。
ドレイク王国軍有翼騎士団による、空襲。
薄明の時間に始まったその攻撃により、日が完全に昇り切った時には、王宮は崩れ落ちていたのである。
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「続いて、巣穴から逃げ出した鼠たちを、一匹ずつ始末します」
王宮から飛び出した王族や官僚・将軍たち。
それに対して有翼騎士達は、容赦なく狙撃した。
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有翼騎士団に支給された主兵装は、「魔力銃二型二式」20mm二連装長銃身銃“ヴォルケーノ”。
もともと魔力銃は、その性質上連射機能を持たせることはほぼ不可能である。
しかも、空中で弾丸の再装填など危険極まりない。
その為、はじめから二連装とし、2発以上の銃撃を行うことは想定しないという設計になっているのである。
その一方、有翼騎士団に支給された魔力銃には、他の魔力銃より魔石が一つ多く取り付けられている。これにより、発射の反動の方向を転換(〔方向転換〕)し、弾丸の初速を更に加速することが出来るのだ。
この魔力銃。“ヴォルケーノ”(名称の由来は「バルカン砲」)と名付けられているものの、有翼騎士達は“ブルーム”と呼ぶ。「メイドの主装備は箒です」とのこと。
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有翼騎士達が標的としたのは、国王以外の王族と高位貴族。
女同士だからか、王妃や若い王女や姫も容赦なく狙撃した。
狙撃しながら、アナは通信筒を投下した。
はじめは警戒していた人たちも、それが爆発物や毒物ではないと判断し、それを開いた。
中にあったのは、降伏を勧告する文書だった。
この状況に及んでも、しかし彼らは降伏という選択肢は取りたくなかった。
けれど。時を追うごとに犠牲者は増える。それも、国にとっては代わりがいない人材ばかりだ。
しかも、20mmの弾丸の持つポテンシャルは侮れない。
ある瞬間、幼い王子を庇う王妃と、二人を庇う老将の、三人を纏めて一発の弾丸が貫いた。
それを見たリーフ王エーリスは。
遂に、その意気が砕かれた。
通信筒にあった勧告文に従って、城壁に白旗が掲げられ、そして城門が開かれたのであった。
(2,908文字:2016/09/08初稿 2017/08/31投稿予約 2017/10/14 07:00掲載予定)
【注:「バルカン砲」は、ゼネラル・エレクトリック社製20mmガトリング砲「M61バルカン」の商標名称(但し商標登録はスイスのエリコン社)ですが、現在では一般名詞化しています】
・ 特務部隊総隊長代理のクロは、元盗賊ギルドランクD序列9位、自称“影に潜み、夜闇を駆ける”「疾風のクロフォード」君です。その後ギルドランクが上がったのかどうか。それは不明ですが、シェイラの信頼を勝ち取るに値する技量と忠誠心を持つに至ったことは事実のようです。




