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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
最終章:「国王陛下は人類学者!?」
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第17話 神速の用兵

第04節 新時代の戦争〔6/7〕

◆◇◆ ◇◆◇


 アプアラ領都ウーラ陥落。

 早馬が、この報をリーフ王国王都ワルパに伝えたのは、カナン暦707年夏の一の月の26日目のことであった。


 リーフ王エーリス・ラッパライネンは、側近たちを招集してこの後の事態の推移を予測した。


「おそらく、ビジア軍はワルパまで攻め上るものと思われます」

「ほう、どうしてそう思う?」

「アプアラを奪還しても、何の解決にもならないからです」


 そう。当然のこととして、アプアラがフェルマール陣営に取り込まれたというのであれば、軍を(ひき)いて取り返す。これはフェルマールが健在だったころから変わらない、リーフの基本戦略だ。

 そしてアプアラ進駐軍一千が壊滅した、という話(早馬の第一報でしかなく、生存兵・帰還兵の話はまだ聞けていないので、詳細は不明)だが、まだリーフ本国軍四万は健在だ。

 当然国境警備・治安維持に一定の兵力を残しておかなければならないし、大軍の動員には費用がかかるが、二万程度の兵力ならばすぐに編成することが出来る。アプアラに再侵攻することを計画しても、月が二回(ふた)巡る頃(つきご)にはもう出陣出来るだろう。


 一方、アプアラ領都ウーラとリーフ王都ワルパまでの距離は、一般の軍隊の行軍(こうぐん)速度を考えると、大凡(おおよそ)20日程度。更に占領地であるアプアラの統治問題などもあるから、幾ら神速を(もっ)(むね)とするビジア軍でも、月が(ひと)巡る間(つき)は動けまい。


 なら落ち着いて、ビジア軍の戦略・戦術を分析すれば良い。


「ビジアの戦略は、典型的な電撃戦(ブリッツクリーク)です。

 驚異的な進軍速度を以て、迎撃態勢が整わないうちに相手の内懐まで飛び込む。


 オークフォレストに(ひそ)ませた間者(かんじゃ)の報告と、ウーラから来た早馬の報告内容を検討するに、その数は多くて五千。(いえ)、もっと少ないでしょう。

 けれど数が少ないからこそ、文字通りの神速で動くことが出来るのです」

成程(なるほど)。ではそれに対して、我が軍は如何(いか)に動けば良いか?」

「難しく考える必要はございません。

 敵の最大の武器は、そのスピード。なら、その足を止めてやれば、あとに残るのは我が軍の国境警備兵と同程度の数しかない、フェルマール最弱の兵卒だけです」


「そうか。では国境警備隊に指示を出せ。ビジア軍を撃破する必要はない。

 ただその足を止めよ、と」


◆◇◆ ◇◆◇


 だが、それさえもビジア軍の行軍速度を過小評価した指令でしかなかった。

 二日後、夏の一の月の28日目。

 次の早馬が到着した。ワルパからの早馬が、ようやく国境砦に到着したと思われる、そのタイミングであった。


 ビジア軍、国境(とりで)通過(・・)


 この国境での戦いは、リーフにとっては定石(じょうせき)(のっと)った用兵(ようへい)(はず)だった。

 大型弩砲(バリスタ)平衡錘(トレビュ)投石機(シェット)で先制攻撃。敵軍の足が止まったら、城壁の弓狭間(はざま)(射撃用の隙間)から昼夜を分かたず撃ち続ける。

 城壁に取り付かれたら、近くの森で待機している一千の遊撃兵がその後方を襲う。


 大戦果を求めるのではなく、損耗を(おさ)えて援軍を待つ、消極的ながらも必勝不敗の戦術であった。


 ところが、ビジア兵は砦を攻めることなく迂回(うかい)し(それも遊撃兵が待機している森に近寄ることもなかった)、そのままワルパ目指して走り去ってしまったのである。


 言うまでもないが、これは常識としてあり得ない。

 先鋒部隊の通過した後に敵軍の砦を残していれば、増援も輜重(しちょう)も期待出来なくなる。侵攻軍の、帰る場所が無くなる危惧(おそれ)さえあるのだ。


 だが、どちらにしても無視された国境警備隊の矜持(プライド)は、ずたずたであった。

 激怒し、ビジア軍の追撃を行った。


 が、武装していた警備隊の進軍速度はビジア軍に及ばず、加えて補給物資も持たずに追撃戦に出たことから、中途で立ち往生せざるを得なくなってしまったのであった。


◆◇◆ ◇◆◇


 リーフ王都ワルパにて。


「連中は、何処(どこ)で補給するつもりなんだ?」

「考えられる可能性は二つあります。一つは、道中の町村を襲撃すること」

「……それでは単に野盗の群れではないか!」

「しかし、それならば輜重に頼る必要もありません。ましてやここは連中にとっては敵国。敵国の国力が弱まれば、連中にとっては良いこと尽くめではありませんか」

「ぐぬぬ、ただちに街道沿いの町村に布告(ふれ)を出し、ビジアの野盗どもに対する警戒を(げん)にせよ!」

「お待ちください。その必要はございません」

「何故だ? お前が考えられる可能性だと――」

()くまでも『可能性』です。その戦略を採用する可能性は、無い訳ではないでしょうが、今回は考慮する必要もないでしょう」

「何故だ?」

「我が国の国境警備隊が追撃しているからです。

 もし連中が、道中の町村の襲撃に腐心(ふしん)していれば、如何な神速を以てしても、ワルパに到着するまでに国境警備隊に追いつかれます」

「だが、連中は警備隊が追跡をしていることを知っているのか?」

「知らないで町村を襲撃していれば追いつけます。知っていれば、足を緩めることは出来ないでしょう」

「そういうことか」


「そういう訳で、可能性の二つ目の方が本命でしょう。

 連中は、そのまま空荷でワルパを目指しているものと思われます」

「何だと? 連中は物資も持たずにこの(みやこ)を攻め落とせると思っているのか?」

「その油断に付け込もうとしているのでしょう。

 ビジア軍の兵力は、約三千。国境砦から来た早馬の報告を分析しても、その数字で間違いないと思います。

 一方、ワルパに常駐している我が軍は、一万二千。四倍です。

 常識で考えたら、迎え討って野戦で撃滅出来る兵力差です。

 しかし、連中が国境砦と同様に、戦闘よりもワルパに飛び込むことを優先したら?

 そして(みやこ)に入ると同時に散開し、市民の中に浸透し、三千の野盗・ゲリラの群れとなったら?

 これを駆除(・・)することは、かなりの労を()いられるでしょう」

成程(なるほど)其方(そなた)の言いたいことがわかって来たぞ」

「はい。今回は(むし)ろ、城門を閉ざし、籠城(ろうじょう)するのが(きち)かと。

 此度(こたび)(いくさ)に於いて、時間は確実に我々の味方です。

 時間を置けば、国境の警備隊が追いつきますし、各地に展開している正規軍も駆けつけることが出来るでしょう。

 一方ビジア軍は、攻城兵器は当然用意していない筈ですし、その上大した量の糧秣(りょうまつ)を持っている筈もないですから、長期戦は出来ません。

 (いえ)、長期戦どころか、おそらく三日。


 三日経てば、ビジア軍は降伏(ある)いは撤退せざるを得なくなると思われます」

(2,813文字:2016/09/08初稿 2017/08/31投稿予約 2017/10/12 07:00掲載予定)

・ ちなみに追撃中のリーフの国境警備隊は、道中の町村から糧秣を徴発しております。また、輜重という概念は、入間(シロー・)史郎(ウィルマ―)がこの世界に持ち込みました。

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