第42話 国産み
第08節 国づくり・民づくり〔6/6〕
予告:次話から始まる第八章(最終章)は、公開時間が07時00分に繰り下げられます。ご注意ください。
新暦元年3月3日(カナン暦706年春の二の月の8日目)。
この日、DMの権能の一つ、〔迷宮創造〕で『竜の食卓』を大改造する。
前提としては、『竜の食卓』の地下を流れる伏流水を『竜の食卓』地表面まで導き、そこから地表を流れる川と成し、滝を作って『ブルゴの森』に落とす。そこから地上または地下を通って、ボルド川に注ぐのだ。
『竜の食卓』に於いてその川は運河を兼ねまた随所に利水・治水用の調整池で流水量を管理する。抑々『竜の食卓』表面の地層は水源を涵養する力が弱いので、その加工も必要になる。但し、完全防水加工は求めない。
滝となって『竜の食卓』から落ちる水は、しかし7-8段階の階段状に作られた貯水槽に溜まるようにする。これは、『階段状閘門』(またはオタクが知っている言葉で「水上エレベーター」)とする。これを使い、標高差約800mを越えて『竜の食卓』とネオハティス市を結ぶ水上交通路とするのである。
『竜の食卓』それ自体にも大改造を加える。
魔物の領域の何箇所か(正確な数は極秘)に魔力溜りを作り、将来迷宮となるようにする。
人間の領域は、縦横に運河を走らせ、陸運のみならず水運を活用する。
そこを町として開発するのは今後の話だが、基礎部分の区画整理は一気に終わらせる。
またこの『竜の食卓』の環境は温暖湿潤気候に近い。つまり、上手くやれば稲作も夢ではなくなる(種籾がないのが珠に瑕だが)。
しかしその結果、『竜の食卓』内の調整池・運河または利水用貯水槽に充分な水が貯まるまで、下流に水が行き渡らないということになる。
推測される期間は約一週間。
予定された大地震に続き、予定された水不足が起こることになる。この一週間はかなり大変だが、これも「産みの苦しみ」という奴だろう。
◇◆◇ ◆◇◆
「ところでアディ。どうしてまだ建国を宣言しないの?」
サリアが疑問をぶつけてきた。
「まだその前にやることがあるからね。
経済力と軍事力、国土と国民。これらがあればすぐに国を興せると思うのは、素人だよ。事前準備は念入りに、ってね。常識でしょ?」
「……どこの世界の常識よ? 少なくともあたしの知っているラノベの常識では、どの主人公もすぐに国を造っていたわよ」
「そりゃぁラノベの作者は素人だから、国造りに携わったことはない筈だからね」
「んじゃアディは玄人で、これまで何度も国造りに携わってきた、と?」
「そういうこと」
「……をゐ。法螺吹くのも大概にしなよ。
前世にアディが国造りに携わった筈がないし、現世も同じでしょう?」
「正確には、小規模ながら国に類似した組織の立ち上げに、前世で携わっていたんだ」
「国に類似した組織?」
「“会社”だよ。『インキュベーター』って言葉、聞いたことあるか?
孵卵器って意味なんだけどね。起業、会社の新規設立に際して助言するコンサルタントの事なんだ。
前世で俺は、それを業としていた。数十に及ぶ会社の設立を支援したよ。
そして、資本金があって商品や技術があって、社屋があり社員がいたとしても、設立準備がいい加減な会社はすぐに潰れた。時間を掛ければ良いって訳じゃないけれど、また準備をしっかりすれば必ず会社を長く存続させられるって訳でもないけど、怠れば設立初年度から目も当てられない状況になり、立て直す余裕もないってことになる。
ちなみに、一番重要だったのは『理念』だね。平成日本の若者は、その言葉に眉を顰めたけれど。
対外アピールの為のお題目、じゃなく、経営者の本音の部分で、何の為に会社を作るのかという指標。『金儲け主義』だって構わないんだ。けどそこがぶれると、会社が続かない。だから、それをしっかり確認しておく必要があるんだ。
だからサリア。サリア自身も考えてほしい。サリアにとっての理想の国とはどんな国かを」
俺は、国を興す。
だけど、慌てて建国して、結果中身がガタガタだったり前例の踏襲しか出来なかったりする国家にはしたくない。
年内の建国を予定しているが、多分来年には早速軍事行動が迫られるだろう。
だからすぐ行動出来るように。もう少しだけ、時間を使うのだ。
◇◆◇ ◆◇◆
同年3月14日。〔迷宮創造〕によって生じた様々な問題に、一通り手を打ち。
俺は町長代理をはじめとした皆に2日間の休暇を申請した。
そして。
「ご主人様、ここはどこですか?」
ノトスに魔石を運ばせ、完成したばかりの新魔法〔空間転移〕で、シェイラを連れてある町を訪れた。
そこは、スイザリア王国内の、ウィルマーの町だった。
俺にとっても、そしてシェイラにとっても思い出深いこの町の、思い出の【銀渓苑】に入っていった。
当然のこととして銀渓庵を予約してあったので、そちらに。
「なんか、懐かしいです」
「そうだな。もう7年も前になるのか」
「私はここで、ご主人様の前世の話を聞いたんです」
「そうだ。俺もここで、此の世界と彼の世界の関わりを知った。
ここは俺の、もう一つのはじまりの場所なのかもしれない。
だから、シェイラと二人でもう一度、ここに来たかった」
「え?」
「シェイラ、愛してる。
新しい国で、シェイラを正妃として迎えることは多分難しいと思う。
けど、俺にとっての一番は、やっぱりシェイラだ。
だから。自分勝手な男だけど、こんな俺で良ければこれからも傍にいてほしい」
「はい。ご主人様。
ご主人様が良いです。ご主人様でなきゃ嫌です。
私は、生涯ご主人様と共にいたいです。
愛しています。ご主人様、アドルフさま。
私の全ては、貴方のものです」
◇◆◇ ◆◇◆
その夜。俺はシェイラと結ばれた。
◆◇◆ ◇◆◇
《 於是天神諸命。以詔。伊邪那岐命伊邪那美命。二柱神修理固成。是多陀用幣流之國。賜天沼矛。而言依賜也。故二柱神立。【訓立云多多志】天浮橋而。指下其沼矛。以畫者鹽。許々袁々呂々邇【此七字以音】。畫鳴【訓鳴云那志】而。引上時。自其矛末垂落。之鹽累積。成嶋是淤。能碁呂嶋【自淤以下四字以音】。於其嶋天降坐而。見立天之御柱。見立八尋殿。於是問其妹伊邪那美命曰。汝身者如何成。答曰吾身者成成不成合處一處在。爾伊邪那岐命詔。我身者。成成而成餘處一處在。故以此吾身成餘處。刺塞汝身不成合處而。以爲生成國土生奈何【訓生云宇牟下效此】。伊邪那美命答曰然善爾。〈中略〉約竟廻時。伊邪那美命先言。阿那邇夜志愛。(上声)袁登古袁【此十字以音下效】。此後伊邪那岐命言。阿那邇夜志愛。(上声)袁登賣袁。各言竟之後。告其妹曰。女人先言不良雖然。久美度邇【此四字以音】。 》
(2,830文字:第七章完:2016/08/11初稿 2017/07/31投稿予約 2017/09/08 03:00掲載予定)
【注:階段状閘門は、漫画では〔尾田栄一郎著『ONE PIECE』集英社少年ジャンプコミックス〕324話(第34巻)で「水門エレベーター」と、或いは〔天野こずえ著『AQUA 第1巻』マッグガーデンBLADE COMICS〕で「水上エレベーター」と、それぞれ描写されています。なお本家ヴェネチアでは観光用ゴンドラが閘門を通過することはないようです(ゴンドラではなく水上バスならあるようですが。要予約)。日本では富山県の「富岩水上ライン」、隅田川の「下町探検クルーズ」、木曽川観光船、水郷潮来の「十二橋遊覧船」、道頓堀川を行く「なにわ探検クルーズ」などは閘門を通過します。また世界的に有名な大閘門は、パナマ運河(3閘室26m)です】
・ アディの前世は語らない、と以前申していましたが、ここにきてそういう訳にはいかなくなりました。なお第五章の番外篇は、この伏線です。
・ 前世のアディ:「僕と契約して、魔法●女になってよ!」とは言っていません。
・ 転生に理由があるのなら。アディは、「自分の国」を造りたくて転生したのかもしれません。
・ 最後の「於是天神諸命」で始まる漢文は、〔『古事記 上つ巻』 伊邪那岐・伊邪那美(【国産みの章】)〕からの抜粋です。申し訳ありませんが、この読み下しは読者様ご自身で行ってください。
・ 第七章全42話。これだけかけて、しかし時系列的には第六章第25話から第27話までの間の出来事でしかないという。つまりまだ、『小麦戦争』は終わっていません。




